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形単影隻
人々は恐怖に踊らされる 弐
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その場から逃げ出すもの、白虎を警戒し身構える者…。
まるで白虎がやぐらを壊したかのような反応だった。命に関わる危険なことが起きたとき、その場に皆が日頃、危険人物だと思っている者がいれば、当然の反応なのかもしれない。人と言うのは不可解なものは全て、自分以外の者に責任を押し付けるものだ。
「お前…。わざとやぐらを壊したんじゃねぇだろうな?」
一人の男が、作業に使っていた棒を構えながら恐る恐る白虎に尋ねる。他の人は声も出さず、身を寄せ合うようにして白虎とその男を見ていた。
ハヨンとムニルは思わずその場に立ちすくんでしまう。
(今動くと、みんなに余計な刺激を加えてしまって、危ないかもしれない…)
ハヨンは冷や汗を流しながら、リョンへと白虎のいる方へ視線を向けた。
白虎はとりあえず支えている骨組みを下ろそうとする。人並外れた獣の腕だとしても、自身の四倍はあろう長さの丸太を支え続けるのには限界があるのだろう。しかし、白虎が少し骨組みを動かした途端に、
「動くな!」
と男が叫んだ。ぴくりと白虎の肩が上がったものの、その後は白虎は言葉の通り骨組みを下ろさなかった。
いつの間にか男衆がちらほらと武器になるようなものを携えて男の元に集まる。そして、男が何かを囁くと、やぐらのあった場所を中心にして男衆たちがぐるりと取り囲んだ。
「何か町で揉め事が起こる度にお前が必ずその場にいる…。これもお前の仕業だろう?」
男はもう一度白虎に問いかけた。
「俺は…。俺は何もしてねぇ。落ちてきた骨組みを止めただけだ。」
白虎の声にはいつものような覇気はなかった。弱々しく、彼がまだ少年であることを実感する。その時、ずっと白虎の背後で黙っていたリョンへが口を開いた。
「彼が言った通りだ。彼は何もしていない。それは俺が保証する。なぜなら、やぐらが倒れた瞬間に側にいたのは俺だけだからな。」
そうして皆がリョンヘに目を奪われている隙に、ハヨンはじりじりとやぐらの方へ近づいていく。ムニルもその後についた。
しかし、男たちがいるために、ハヨン達が近づける距離には限度があり、そのことがもどかしかった。
(あの時もっと速く動けていたら…!)
自分がリョンヘを助けられたかもしれないし、もっと穏便にすませられるはずだと悔しく感じた。
それは主への忠誠心が故の白虎への嫉妬なのかもしれない。しかし、今このような場所では雑念である。ハヨンは己を叱咤し、深呼吸をしてその感情を抑える。
(次に男の誰かが一歩でも動いたら…。次こそはリョンへ様のもとへ!)
ハヨンは男衆の動きから目を離すまいと、息を詰めてじっと身構える。誰かが無闇に動くと、張り詰めた糸が切れてしまいそうな、そんな緊張感があった。
「お前は…。見たことがない顔だな。どこから来たんだ。」
男たちはリョンへに対しても警戒心丸出しである。白虎に向けた表情のまま、リョンヘへと視線を向けた。
「俺はただの旅人だ。孟の方から来た。」
しかし、リョンへは旅人にしては少し身なりが良い。そして、どこの訛りもない話し方だった。そのため、どことなく胡散臭いのだろう。周りの男たちはひそひそとリョンへについて話始めた。
「何か旅人らしくねぇな」
「ああ、どこかの金持ちの商人か?」
ハヨンはその時、白虎の骨組みを支えている方の腕が、少し震えていることに気がついた。いくら人並外れた腕力でも、流石に限界なのだろう。そして白虎がもう片方の腕で持ち代えようと両手で持った瞬間、男は鬼のような形相で白虎を睨み付けた。
「動くなと言ったはずだろう…!?俺達に何かしようというのか!?」
もう、人々は白虎が動くだけで何かすると思っているようだった。
(こんな様子では、白虎が誰とも関わらないことも納得だ。)
人々は白虎を恐れ、警戒するが、一方でその姿を見て、白虎自身も人々を恐れるのだ。互いに萎縮し、人々は集団を盾にして、少しでも白虎に威嚇しようとする。そうすることで白虎はますます心を閉ざしてしまう。このようにして、負の連鎖は続いていったのだろう。
「もう我慢の限界だ…!いつもいつも俺達の生活を脅かして…!こいつは早々にやっちまうべきたったんだ!おい、そこの奴、こちらに早く来い。今からその化け物を退治するから邪魔だ。」
ああいった目をした者は、我を忘れており、少しの刺激で誰かを攻撃し始めるので、危険な状態だ。ハヨンは現状に不満を抱き、役人に一矢報いようと者たちなどを見てきたが、あの時の目にそっくりであった。感情が昂った状態では、周りの者にも危害が及ぶ。
「悪いがそれには応じたくない。俺は彼を殺してほしくないからな。」
一方のリョンへは、やけに落ち着いた声でそう答えた。静かで、大きくはない声だったが、その対照的な様子から、リョンヘは堂々としているように見える。
「何言ってんだお前…。こいつは化け物だぞ!?」
「さてはお前、この化け物の仲間か!」
「そうとなれば放ってはおけない…!」
男達は口々にそう言って、騒ぎ立てる。もはや彼らは、何をしても物事を悪いように捉えてしまうようだった。
「なら、お前もやっちまうしかねぇ…!この町の不幸の元凶をやっつけねぇと、俺達は一生このままだ!覚悟しろ…!」
そう男はリョンへに向かって叫んだ。
まるで白虎がやぐらを壊したかのような反応だった。命に関わる危険なことが起きたとき、その場に皆が日頃、危険人物だと思っている者がいれば、当然の反応なのかもしれない。人と言うのは不可解なものは全て、自分以外の者に責任を押し付けるものだ。
「お前…。わざとやぐらを壊したんじゃねぇだろうな?」
一人の男が、作業に使っていた棒を構えながら恐る恐る白虎に尋ねる。他の人は声も出さず、身を寄せ合うようにして白虎とその男を見ていた。
ハヨンとムニルは思わずその場に立ちすくんでしまう。
(今動くと、みんなに余計な刺激を加えてしまって、危ないかもしれない…)
ハヨンは冷や汗を流しながら、リョンへと白虎のいる方へ視線を向けた。
白虎はとりあえず支えている骨組みを下ろそうとする。人並外れた獣の腕だとしても、自身の四倍はあろう長さの丸太を支え続けるのには限界があるのだろう。しかし、白虎が少し骨組みを動かした途端に、
「動くな!」
と男が叫んだ。ぴくりと白虎の肩が上がったものの、その後は白虎は言葉の通り骨組みを下ろさなかった。
いつの間にか男衆がちらほらと武器になるようなものを携えて男の元に集まる。そして、男が何かを囁くと、やぐらのあった場所を中心にして男衆たちがぐるりと取り囲んだ。
「何か町で揉め事が起こる度にお前が必ずその場にいる…。これもお前の仕業だろう?」
男はもう一度白虎に問いかけた。
「俺は…。俺は何もしてねぇ。落ちてきた骨組みを止めただけだ。」
白虎の声にはいつものような覇気はなかった。弱々しく、彼がまだ少年であることを実感する。その時、ずっと白虎の背後で黙っていたリョンへが口を開いた。
「彼が言った通りだ。彼は何もしていない。それは俺が保証する。なぜなら、やぐらが倒れた瞬間に側にいたのは俺だけだからな。」
そうして皆がリョンヘに目を奪われている隙に、ハヨンはじりじりとやぐらの方へ近づいていく。ムニルもその後についた。
しかし、男たちがいるために、ハヨン達が近づける距離には限度があり、そのことがもどかしかった。
(あの時もっと速く動けていたら…!)
自分がリョンヘを助けられたかもしれないし、もっと穏便にすませられるはずだと悔しく感じた。
それは主への忠誠心が故の白虎への嫉妬なのかもしれない。しかし、今このような場所では雑念である。ハヨンは己を叱咤し、深呼吸をしてその感情を抑える。
(次に男の誰かが一歩でも動いたら…。次こそはリョンへ様のもとへ!)
ハヨンは男衆の動きから目を離すまいと、息を詰めてじっと身構える。誰かが無闇に動くと、張り詰めた糸が切れてしまいそうな、そんな緊張感があった。
「お前は…。見たことがない顔だな。どこから来たんだ。」
男たちはリョンへに対しても警戒心丸出しである。白虎に向けた表情のまま、リョンヘへと視線を向けた。
「俺はただの旅人だ。孟の方から来た。」
しかし、リョンへは旅人にしては少し身なりが良い。そして、どこの訛りもない話し方だった。そのため、どことなく胡散臭いのだろう。周りの男たちはひそひそとリョンへについて話始めた。
「何か旅人らしくねぇな」
「ああ、どこかの金持ちの商人か?」
ハヨンはその時、白虎の骨組みを支えている方の腕が、少し震えていることに気がついた。いくら人並外れた腕力でも、流石に限界なのだろう。そして白虎がもう片方の腕で持ち代えようと両手で持った瞬間、男は鬼のような形相で白虎を睨み付けた。
「動くなと言ったはずだろう…!?俺達に何かしようというのか!?」
もう、人々は白虎が動くだけで何かすると思っているようだった。
(こんな様子では、白虎が誰とも関わらないことも納得だ。)
人々は白虎を恐れ、警戒するが、一方でその姿を見て、白虎自身も人々を恐れるのだ。互いに萎縮し、人々は集団を盾にして、少しでも白虎に威嚇しようとする。そうすることで白虎はますます心を閉ざしてしまう。このようにして、負の連鎖は続いていったのだろう。
「もう我慢の限界だ…!いつもいつも俺達の生活を脅かして…!こいつは早々にやっちまうべきたったんだ!おい、そこの奴、こちらに早く来い。今からその化け物を退治するから邪魔だ。」
ああいった目をした者は、我を忘れており、少しの刺激で誰かを攻撃し始めるので、危険な状態だ。ハヨンは現状に不満を抱き、役人に一矢報いようと者たちなどを見てきたが、あの時の目にそっくりであった。感情が昂った状態では、周りの者にも危害が及ぶ。
「悪いがそれには応じたくない。俺は彼を殺してほしくないからな。」
一方のリョンへは、やけに落ち着いた声でそう答えた。静かで、大きくはない声だったが、その対照的な様子から、リョンヘは堂々としているように見える。
「何言ってんだお前…。こいつは化け物だぞ!?」
「さてはお前、この化け物の仲間か!」
「そうとなれば放ってはおけない…!」
男達は口々にそう言って、騒ぎ立てる。もはや彼らは、何をしても物事を悪いように捉えてしまうようだった。
「なら、お前もやっちまうしかねぇ…!この町の不幸の元凶をやっつけねぇと、俺達は一生このままだ!覚悟しろ…!」
そう男はリョンへに向かって叫んだ。
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