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形単影隻
追いかけっこ 弐
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次の日から、白虎は今までの苦労が嘘のように、容易く見つかるようになった。
それはおそらく、人に訪ねて回るのをやめて、裏路地ばかり探すようになったことと、孤児院の院長であった老人に、白虎の主な生活範囲を教えてもらったからもあった。
ただ、白虎もハヨン達の姿を覚えてしまったので、一目見ただけで屋根づたいに逃げるようになってしまったが。ハヨン以外の手分けして探している兵士たちは、白虎に話しかけはしないものの、かれは何かおかしいことを白虎も感じ取っているのだろう。目撃情報があっても、その場を訪れたときには白虎の痕跡はほとんどない。
「うーん、白虎の足が速すぎる…」
ちょうど今、白虎を見失ったハヨンは、自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。己の身体能力にはそこそこ自信があったが、さすがに男で四獣の力を持つとなれば到底追いつくはずもない。
「私も竜の姿に戻れば一発で追い付くんだけどねぇ…」
ムニルは慰めるようにハヨンの肩を叩きながら、湿っぽいため息をついた。と、その時前を歩いていたリョンへが鬼の形相で振り返る。
「何があってもそれだけはやめてくれよ。そんなことしたらそこらじゅうの家が軒並み全壊だし、町の人が取り乱す。」
「やぁねぇ、そんなことわかってるからしないわよ。まぁ、それはそれで伝説になって面白そうだけど。」
たしかに、そんな事件が起これば、 竜到来の地獄絵図 等と言う絵巻物でもできかねない。
ハヨンはその竜の正体がムニルだと考えると、街の人にとっては一大事の話で有るにも関わらず、笑えてしまった。きっと竜と中身のムニルとの落差が大きいためだろう。
冗談めかして言うムニルを、リョンへは怪しいと言わんばかりの視線で見る。
「まぁ、わかってるなら大丈夫か」
しかし、しばらく考えて納得したのだろう。くるりと向きを変え、先に歩きだした。
「ねぇ、ハヨン。王子ってあんなにのりのよさそうな男だったかしら?最近妙に彼、砕けた雰囲気があるんだけれど。」
ムニルはリョンヘに聞かれてはまずいと思ったのか、声を潜めて話しかけてくる。ハヨンはムニルに、リョンヘの本当の性格を教えても良いものなのか少しの間だけ考え込んだ。
しかし、ムニルはそもそも王族を敬うという考えを持たぬ人間の部類である上に、これからもずっと関わっていく人なのだから、ある程度リョンヘの化けの皮が外れてしまっても大丈夫だろう。
「リョンへ様は真面目な方ではあるけど、存外親しみやすい方だよ。公務の時以外は結構砕けてはいるけど…。今はずっと気を張ってるから、ムニルはあまり、リョンヘ様のそういう所を見たことがないのかもしれない。」
ハヨンはリョンの時の姿を思い出しながらそう答えた。そう言えばリョンヘの先程のやり取りも、ムニルにだいぶん心を許し始めたようにも見える。そう考えると、出来損ないの王子だと言われることが多かったリョンヘが、心を許せる人が増えたことは嬉しいことだ。
「ふーん、あの王子には私の知らない素顔がまだまだあるってことね。」
「そういうこと」
きっとムニル自身も、最初はリョンヘとはよそよそしかったものの、最近のやり取りを思い出して思い当たる節がいろいろとあったようだ。納得した表情を見せながら、リョンヘの背中を見ていた。
________________________________________
ついに、三人で路地の右側を曲がったときに、白虎に出くわした。
「う、わっ」
先頭を歩いていたリョンヘと白虎がぶつかりそうになる。そして、後ろからやって来たハヨンとムニルを見て、血相を変えて回れ右をした。
「待ってくれ!」
リョンへが慌てて白虎の腕を掴んだ。
(…!手荒なことはしたくないけど、白虎と話せる絶好の機会が来た…!)
ハヨンはやっとこの時が来た、と思いながら、リョンヘのもとへ駆け付ける。
「…んな。」
ぼそりと白虎が呟く。
「え?」
ハヨンとリョンはその小さな声が聴き取れず、聞き返す。
白虎はきっ、と顔を上げ、リョンヘを凄まじい形相で睨み付けた。
「触んな、つってるだろうがっ!」
と、白虎は驚いているリョンヘの腕をはねのけ、走り去っていく。
「お願い!手荒な事をするわけじゃない!せめて話を聴いて欲しい!」
ハヨンは白虎の後を追う。何があったのか、ムニルとリョンヘはその後をついてこない。とりあえずハヨンだけで白虎を追うことにした。
ここの通りは幸運なことに、白虎でさえもさすがに上れない程に建物が高い。そのため、走るだけならばハヨンもなんとか声の届く範囲で追いつくことが出来た。
「どうしていつも私たちから逃げるの?」
少し声を大きくして、ハヨンは白虎に声をかける。白虎は返事をせず、左へと進路を変えた。
「私たち、あなたと話したいことがあるんだけど!」
「…俺は何もねーよ!うるせぇな。俺に構うな!」
ハヨンはこれほどに敵意を剥き出しにしている言葉を投げられたことがなかった。しかし、宮中の貴族たちが、腹の底を探り合い、嫌味を言うあのやり取りよりも、よほど清々しく、不快感はなかった。
「私達はあなたに仲間になって欲しいの。」
ハヨンは今までずっと言えなかった、白虎を探している理由を告げた。なぜハヨン達が彼を追っているのか、それだけでも伝えておかなければ、何もの始まらないと思っていたので、それだけでもずいぶんと気が楽になる。
それはおそらく、人に訪ねて回るのをやめて、裏路地ばかり探すようになったことと、孤児院の院長であった老人に、白虎の主な生活範囲を教えてもらったからもあった。
ただ、白虎もハヨン達の姿を覚えてしまったので、一目見ただけで屋根づたいに逃げるようになってしまったが。ハヨン以外の手分けして探している兵士たちは、白虎に話しかけはしないものの、かれは何かおかしいことを白虎も感じ取っているのだろう。目撃情報があっても、その場を訪れたときには白虎の痕跡はほとんどない。
「うーん、白虎の足が速すぎる…」
ちょうど今、白虎を見失ったハヨンは、自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。己の身体能力にはそこそこ自信があったが、さすがに男で四獣の力を持つとなれば到底追いつくはずもない。
「私も竜の姿に戻れば一発で追い付くんだけどねぇ…」
ムニルは慰めるようにハヨンの肩を叩きながら、湿っぽいため息をついた。と、その時前を歩いていたリョンへが鬼の形相で振り返る。
「何があってもそれだけはやめてくれよ。そんなことしたらそこらじゅうの家が軒並み全壊だし、町の人が取り乱す。」
「やぁねぇ、そんなことわかってるからしないわよ。まぁ、それはそれで伝説になって面白そうだけど。」
たしかに、そんな事件が起これば、 竜到来の地獄絵図 等と言う絵巻物でもできかねない。
ハヨンはその竜の正体がムニルだと考えると、街の人にとっては一大事の話で有るにも関わらず、笑えてしまった。きっと竜と中身のムニルとの落差が大きいためだろう。
冗談めかして言うムニルを、リョンへは怪しいと言わんばかりの視線で見る。
「まぁ、わかってるなら大丈夫か」
しかし、しばらく考えて納得したのだろう。くるりと向きを変え、先に歩きだした。
「ねぇ、ハヨン。王子ってあんなにのりのよさそうな男だったかしら?最近妙に彼、砕けた雰囲気があるんだけれど。」
ムニルはリョンヘに聞かれてはまずいと思ったのか、声を潜めて話しかけてくる。ハヨンはムニルに、リョンヘの本当の性格を教えても良いものなのか少しの間だけ考え込んだ。
しかし、ムニルはそもそも王族を敬うという考えを持たぬ人間の部類である上に、これからもずっと関わっていく人なのだから、ある程度リョンヘの化けの皮が外れてしまっても大丈夫だろう。
「リョンへ様は真面目な方ではあるけど、存外親しみやすい方だよ。公務の時以外は結構砕けてはいるけど…。今はずっと気を張ってるから、ムニルはあまり、リョンヘ様のそういう所を見たことがないのかもしれない。」
ハヨンはリョンの時の姿を思い出しながらそう答えた。そう言えばリョンヘの先程のやり取りも、ムニルにだいぶん心を許し始めたようにも見える。そう考えると、出来損ないの王子だと言われることが多かったリョンヘが、心を許せる人が増えたことは嬉しいことだ。
「ふーん、あの王子には私の知らない素顔がまだまだあるってことね。」
「そういうこと」
きっとムニル自身も、最初はリョンヘとはよそよそしかったものの、最近のやり取りを思い出して思い当たる節がいろいろとあったようだ。納得した表情を見せながら、リョンヘの背中を見ていた。
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ついに、三人で路地の右側を曲がったときに、白虎に出くわした。
「う、わっ」
先頭を歩いていたリョンヘと白虎がぶつかりそうになる。そして、後ろからやって来たハヨンとムニルを見て、血相を変えて回れ右をした。
「待ってくれ!」
リョンへが慌てて白虎の腕を掴んだ。
(…!手荒なことはしたくないけど、白虎と話せる絶好の機会が来た…!)
ハヨンはやっとこの時が来た、と思いながら、リョンヘのもとへ駆け付ける。
「…んな。」
ぼそりと白虎が呟く。
「え?」
ハヨンとリョンはその小さな声が聴き取れず、聞き返す。
白虎はきっ、と顔を上げ、リョンヘを凄まじい形相で睨み付けた。
「触んな、つってるだろうがっ!」
と、白虎は驚いているリョンヘの腕をはねのけ、走り去っていく。
「お願い!手荒な事をするわけじゃない!せめて話を聴いて欲しい!」
ハヨンは白虎の後を追う。何があったのか、ムニルとリョンヘはその後をついてこない。とりあえずハヨンだけで白虎を追うことにした。
ここの通りは幸運なことに、白虎でさえもさすがに上れない程に建物が高い。そのため、走るだけならばハヨンもなんとか声の届く範囲で追いつくことが出来た。
「どうしていつも私たちから逃げるの?」
少し声を大きくして、ハヨンは白虎に声をかける。白虎は返事をせず、左へと進路を変えた。
「私たち、あなたと話したいことがあるんだけど!」
「…俺は何もねーよ!うるせぇな。俺に構うな!」
ハヨンはこれほどに敵意を剥き出しにしている言葉を投げられたことがなかった。しかし、宮中の貴族たちが、腹の底を探り合い、嫌味を言うあのやり取りよりも、よほど清々しく、不快感はなかった。
「私達はあなたに仲間になって欲しいの。」
ハヨンは今までずっと言えなかった、白虎を探している理由を告げた。なぜハヨン達が彼を追っているのか、それだけでも伝えておかなければ、何もの始まらないと思っていたので、それだけでもずいぶんと気が楽になる。
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