141 / 221
形単影隻
追いかけっこ
しおりを挟む
「もー、この子ったら白虎に会ってから始終こんな感じだから、私はてっきり惚れちゃったのかと思ったわよ。」
ムニルは少し冗談めかしてハヨンの背中を叩きながらそう言った。見た目はしとやかで中性的なムニルだが、腕力はやはり男そのもので、不意打ちを食らったハヨンには少し痛かった。
「ふーん?もともと顔立ちのいい男に囲まれてるこの子がねぇ。それなら容姿はずば抜けているんだろうさ。」
「私は別に…。白虎とは仲良くなりたいとは思っていますけど、恋愛なんてそんな感情は抱いてないです。」
「ふーん?」
二人ににやにやされながらそう言われると、ハヨンは少しむきになって答えてしまった。
(恋なんて今も王城でも縁遠いものだしなぁ。)
ハヨンは後宮で愛する者のために一生懸命な女性の姿を見てきた。その頑張りはハヨンから見ても微笑ましく、常に優雅で誇り高く生きる女性たちを尊敬してもいた。しかし、ハヨンは一生王族に盾として剣としてこの身を捧げるつもりだったので、誰かと結婚しよう等とは毛頭無かった。
一度は妙な貴族に付きまとわれ、芸人の姿をしていたリョンもといリョンヘに恋人のふりをしてもらい、追い払って貰いはしたが。
(そう言えば私は、リョンとは今も偽の恋人なのだろうか。)
そこまで考えてハヨンははっと気づいた。城に戻れなくなってから、リョンへはリョンとして身分を偽ることは無くなってしまった。もし仮に、リョンへがリョンとして過ごすのならば、ハヨンをどう扱うのだろうか。
(どうって…。もうあの人も私に付きまとうことは無いんだから、リョンは恋人のふりをする必要は無いよね…)
なぜかそれが残念に思えてきて、ハヨンは首を傾げた。
(私はリョンと恋人でいたかった…?)
そう頭の中で考えた瞬間、慌てて己の考えを打ち消した。
(きっと私は他の人が知らないリョンの姿を知っていることに対して、優越感に浸っているだけだ。)
近頃、己のリョンヘに対する感情が何か変わりつつあることには気付いていた。しかし、それは明らかになったところでどうしようも出来ないことだ。そのため深く考えないようにしている。
先程からちらちらとリョンヘに視線をやってしまうが、彼は一人何かを考えているようで、そのことには気づいていないようだった。
「あら?何か悩み事?」
ムニルもリョンヘが一人、黙り込んで考えふけっているのを見て、気にかかったようだった。
「…。いや、白虎の捜索はこのまま私たちの班だけで続行すべきではないかと思ってな。」
リョンへは周囲の兵士を見渡しながらそう低い声で言った。
「早く見つけ出したいからこの人数を動員したんじゃろう?その上、もともとそれほど大人数ではないじゃないか。なんだって急に…」
老婆はそう言いながら湯飲みに入った茶をすする。
「白虎の心の傷は思った以上に深そうだ。声をかけるのでさえ苦労する。その上に、入れ替わり立ち替わり顔見知りでない捜索隊の面々が話しかければ、白虎は逃げてしまうかもしれないだろう?それだったら特定の人物が積極的に関わって打ち解けた方がいい。」
「そうですね…。大勢から探されていると思うと余計に怖いですしね…」
ハヨンもリョンへに同意した。ただでさえ人目に敏感な白虎が、見知らぬ人に次から次へと話しかけるなど、彼に不快感を与えるだけである。
「そうねえ…。今日の様子だと、街のみんなが白虎を恐れているように、白虎も人を恐れているように見えたしね…。」
ムニルは天井を仰いでうーん、と唸った。
「ならばお前たち以外は撤退か?」
老婆はそう言ってから肩を叩く。老婆は今日到着した状態のため、これでは無駄骨を折ったようなものである。
「いや、白虎と直接話をするのは私達がするが、今後白虎が移動しないとも限らない…。捜索自体は皆にもまかせたい。…あなたはどうする?」
リョンへは老婆に尋ねた。
「うーむ、わしは出る幕はなさそうかね。しかしまぁ、白虎とは早く顔を合わせたいし、ここに到着したのも今日だ。この宿でのんびりして、お前たちをまっていようかね。」
そうして、ひひひと奇妙な笑い声を上げた老婆は、何か思うところが有るかのようにも見える。やはり、彼女の真意を掴むことは至難の技で有るなとハヨンは考えるのだった。
ムニルは少し冗談めかしてハヨンの背中を叩きながらそう言った。見た目はしとやかで中性的なムニルだが、腕力はやはり男そのもので、不意打ちを食らったハヨンには少し痛かった。
「ふーん?もともと顔立ちのいい男に囲まれてるこの子がねぇ。それなら容姿はずば抜けているんだろうさ。」
「私は別に…。白虎とは仲良くなりたいとは思っていますけど、恋愛なんてそんな感情は抱いてないです。」
「ふーん?」
二人ににやにやされながらそう言われると、ハヨンは少しむきになって答えてしまった。
(恋なんて今も王城でも縁遠いものだしなぁ。)
ハヨンは後宮で愛する者のために一生懸命な女性の姿を見てきた。その頑張りはハヨンから見ても微笑ましく、常に優雅で誇り高く生きる女性たちを尊敬してもいた。しかし、ハヨンは一生王族に盾として剣としてこの身を捧げるつもりだったので、誰かと結婚しよう等とは毛頭無かった。
一度は妙な貴族に付きまとわれ、芸人の姿をしていたリョンもといリョンヘに恋人のふりをしてもらい、追い払って貰いはしたが。
(そう言えば私は、リョンとは今も偽の恋人なのだろうか。)
そこまで考えてハヨンははっと気づいた。城に戻れなくなってから、リョンへはリョンとして身分を偽ることは無くなってしまった。もし仮に、リョンへがリョンとして過ごすのならば、ハヨンをどう扱うのだろうか。
(どうって…。もうあの人も私に付きまとうことは無いんだから、リョンは恋人のふりをする必要は無いよね…)
なぜかそれが残念に思えてきて、ハヨンは首を傾げた。
(私はリョンと恋人でいたかった…?)
そう頭の中で考えた瞬間、慌てて己の考えを打ち消した。
(きっと私は他の人が知らないリョンの姿を知っていることに対して、優越感に浸っているだけだ。)
近頃、己のリョンヘに対する感情が何か変わりつつあることには気付いていた。しかし、それは明らかになったところでどうしようも出来ないことだ。そのため深く考えないようにしている。
先程からちらちらとリョンヘに視線をやってしまうが、彼は一人何かを考えているようで、そのことには気づいていないようだった。
「あら?何か悩み事?」
ムニルもリョンヘが一人、黙り込んで考えふけっているのを見て、気にかかったようだった。
「…。いや、白虎の捜索はこのまま私たちの班だけで続行すべきではないかと思ってな。」
リョンへは周囲の兵士を見渡しながらそう低い声で言った。
「早く見つけ出したいからこの人数を動員したんじゃろう?その上、もともとそれほど大人数ではないじゃないか。なんだって急に…」
老婆はそう言いながら湯飲みに入った茶をすする。
「白虎の心の傷は思った以上に深そうだ。声をかけるのでさえ苦労する。その上に、入れ替わり立ち替わり顔見知りでない捜索隊の面々が話しかければ、白虎は逃げてしまうかもしれないだろう?それだったら特定の人物が積極的に関わって打ち解けた方がいい。」
「そうですね…。大勢から探されていると思うと余計に怖いですしね…」
ハヨンもリョンへに同意した。ただでさえ人目に敏感な白虎が、見知らぬ人に次から次へと話しかけるなど、彼に不快感を与えるだけである。
「そうねえ…。今日の様子だと、街のみんなが白虎を恐れているように、白虎も人を恐れているように見えたしね…。」
ムニルは天井を仰いでうーん、と唸った。
「ならばお前たち以外は撤退か?」
老婆はそう言ってから肩を叩く。老婆は今日到着した状態のため、これでは無駄骨を折ったようなものである。
「いや、白虎と直接話をするのは私達がするが、今後白虎が移動しないとも限らない…。捜索自体は皆にもまかせたい。…あなたはどうする?」
リョンへは老婆に尋ねた。
「うーむ、わしは出る幕はなさそうかね。しかしまぁ、白虎とは早く顔を合わせたいし、ここに到着したのも今日だ。この宿でのんびりして、お前たちをまっていようかね。」
そうして、ひひひと奇妙な笑い声を上げた老婆は、何か思うところが有るかのようにも見える。やはり、彼女の真意を掴むことは至難の技で有るなとハヨンは考えるのだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる