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形単影隻
贖罪 肆
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「こいつをいじめんなよ、またそうやって自分より弱えやつを従わせようとするんのか?」
彼は年上の中でも最も上背のある少年の腕を掴んだ。年上の少年は、彼をじろりと見下ろす。
「別に俺はここでの流儀を教えてやってるだけさ。強い者は弱いやつに従う。それがこの世の理だろう?」
「そんなもん、誰が決めたんだよ。くそくらえじゃねーか。それぞれ得意なことは違うんじゃねえのか…!?それに俺らは院長によって守られている。なら、俺らは全員弱えやつだ!」
彼は歯を食い縛って、唸るように言った。その際、腕をつかむ力も強まり、相手の表情が歪む。
普段ならここの辺りで年上の連中は手を引くはずだった。
「へっ、それがどうした。例えどんなに才能があろうとなかろうと、結局はみんな力が強えやつに従うしかねぇじゃねぇか。ほら、王の命令には、みんな逆らえねぇ。お前の理屈だと、王もくそくらえか?」
年上の少年は吐き捨てるようにそう言った。その目は酷く無機質で、寒々しかった。
自分を心から愛し、育ててくれる親がいなかった子供達は、早くからこの世の理不尽なものを知っていた。この孤児院を出れば、自分達は誰の比護も無しに、一人でこの地に立っていかねばならないからだ。
そして険しい目つきで睨む彼を、年上の中でも最も上背があり、年上連中を纏める存在であった少年はにやにやと笑いだした。
彼はいきなりなぜ笑いだすのかがわからず、困惑する。
「そして、てめぇはその力の下にいるやつらでも一番下にいるってことをそろそろ覚えてもらわなくちゃなぁ。」
少年は顎でいけと合図した。それと同時に少年の取り巻きである連中が彼を後ろから羽交い締めにし、殴りかかってくる。
「何言ってんだよ!」
彼は周囲を囲まれ、次々と降ってくる拳を避けきれずにいた。まだまだ彼は背も小さく、年上の体格のよい少年達の拳は、脅威だ。
今までのように二、三人を相手にするならともかく、この人数ではどうしようもなかった。鉄が錆びたような味が口の中に広がる。何とか逃れようともがいたが、絡んだ腕はびくともしない。
しまいめには彼は一人の少年に組敷かれ、騒ぎが聴こえないように口には布を突っ込まれた。年少の者達はみな遠くに追いやったらしい。彼と年上の連中以外、この庭には誰もいなかった。
誰かに助けを求めようと辺りを見渡す。孤児院の外を歩く者はいるが、この場にいる少年たちが彼を取り囲んで立っているので、何が起こっているかわかっていないようだった。
(やめろ…!やめてくれ…!)
彼はこれから起こることを思いだし、冷や汗を流す。己に爪を立ててでも目を覚ませたかったが、無慈悲にも、彼の意思とは裏腹に夢は続いていく。
「何で俺らがこうやってるかわかってねぇみたいだな?さっきも言ったが、お前はこうやって蔑まれる存在なんだ。」
彼はせめてもの反抗に、自分を組み敷いている少年を睨み付けた。それを見てか、己にのしかかる重みが一段と増す。背骨が軋みそうな程に痛い。
「ああ、気持ち悪い…。この髪、この目、尖った歯…。何でこんな化け物が人間と一緒に暮らしているのかわかねぇ。それに生意気にも俺たちに食って掛かってきやがって…」
そう言いながら彼の髪を引っ張った。彼は首が曲がった痛みと、頭皮に走る鈍い痛みに耐える。それでもなお、睨み付けることをやめなかった。
少年はその態度が気に食わなかったらしい。彼の頬を平手で打つ。彼は勢いよく顔を地面にぶつけた。
「もうやってらんねぇ。俺たちにもう何も言えなくなるぐれぇやっちまえ!」
他の少年が縄を持ち出してきて、彼の自由を奪う。彼は今までにない痛みに、涙が出そうになったが、じっとこらえた。これが永遠に続くわけではない、いつかおわる、と。
しばらくしていればおさまると思っていたが、白虎の衣服があちこち破れて、少年があるものを見つけてしまった。
「なんだこれは?」
それは彼がひたすら隠してきた尻尾だったのだ。少年達が尻尾だと気づいたとき、彼らは顔を凍らせた。今までになく重たく冷たい空気が流れた。
「…こいつ、本当に化け物だったのかよ…」
その少年達が彼を忌々しげに見た表情が、後にも先にも、彼にとって一番耐えがたいものとなるのだった。
そして、この時彼は、この孤児院での生活の、終わりを迎えたことを知った。それは孤児院という箱庭で生きてきた者にとっては、自分の世界から追い出されると言うことに等しい。度重なる心への負荷に、彼の心は壊れてしまった。
彼は年上の中でも最も上背のある少年の腕を掴んだ。年上の少年は、彼をじろりと見下ろす。
「別に俺はここでの流儀を教えてやってるだけさ。強い者は弱いやつに従う。それがこの世の理だろう?」
「そんなもん、誰が決めたんだよ。くそくらえじゃねーか。それぞれ得意なことは違うんじゃねえのか…!?それに俺らは院長によって守られている。なら、俺らは全員弱えやつだ!」
彼は歯を食い縛って、唸るように言った。その際、腕をつかむ力も強まり、相手の表情が歪む。
普段ならここの辺りで年上の連中は手を引くはずだった。
「へっ、それがどうした。例えどんなに才能があろうとなかろうと、結局はみんな力が強えやつに従うしかねぇじゃねぇか。ほら、王の命令には、みんな逆らえねぇ。お前の理屈だと、王もくそくらえか?」
年上の少年は吐き捨てるようにそう言った。その目は酷く無機質で、寒々しかった。
自分を心から愛し、育ててくれる親がいなかった子供達は、早くからこの世の理不尽なものを知っていた。この孤児院を出れば、自分達は誰の比護も無しに、一人でこの地に立っていかねばならないからだ。
そして険しい目つきで睨む彼を、年上の中でも最も上背があり、年上連中を纏める存在であった少年はにやにやと笑いだした。
彼はいきなりなぜ笑いだすのかがわからず、困惑する。
「そして、てめぇはその力の下にいるやつらでも一番下にいるってことをそろそろ覚えてもらわなくちゃなぁ。」
少年は顎でいけと合図した。それと同時に少年の取り巻きである連中が彼を後ろから羽交い締めにし、殴りかかってくる。
「何言ってんだよ!」
彼は周囲を囲まれ、次々と降ってくる拳を避けきれずにいた。まだまだ彼は背も小さく、年上の体格のよい少年達の拳は、脅威だ。
今までのように二、三人を相手にするならともかく、この人数ではどうしようもなかった。鉄が錆びたような味が口の中に広がる。何とか逃れようともがいたが、絡んだ腕はびくともしない。
しまいめには彼は一人の少年に組敷かれ、騒ぎが聴こえないように口には布を突っ込まれた。年少の者達はみな遠くに追いやったらしい。彼と年上の連中以外、この庭には誰もいなかった。
誰かに助けを求めようと辺りを見渡す。孤児院の外を歩く者はいるが、この場にいる少年たちが彼を取り囲んで立っているので、何が起こっているかわかっていないようだった。
(やめろ…!やめてくれ…!)
彼はこれから起こることを思いだし、冷や汗を流す。己に爪を立ててでも目を覚ませたかったが、無慈悲にも、彼の意思とは裏腹に夢は続いていく。
「何で俺らがこうやってるかわかってねぇみたいだな?さっきも言ったが、お前はこうやって蔑まれる存在なんだ。」
彼はせめてもの反抗に、自分を組み敷いている少年を睨み付けた。それを見てか、己にのしかかる重みが一段と増す。背骨が軋みそうな程に痛い。
「ああ、気持ち悪い…。この髪、この目、尖った歯…。何でこんな化け物が人間と一緒に暮らしているのかわかねぇ。それに生意気にも俺たちに食って掛かってきやがって…」
そう言いながら彼の髪を引っ張った。彼は首が曲がった痛みと、頭皮に走る鈍い痛みに耐える。それでもなお、睨み付けることをやめなかった。
少年はその態度が気に食わなかったらしい。彼の頬を平手で打つ。彼は勢いよく顔を地面にぶつけた。
「もうやってらんねぇ。俺たちにもう何も言えなくなるぐれぇやっちまえ!」
他の少年が縄を持ち出してきて、彼の自由を奪う。彼は今までにない痛みに、涙が出そうになったが、じっとこらえた。これが永遠に続くわけではない、いつかおわる、と。
しばらくしていればおさまると思っていたが、白虎の衣服があちこち破れて、少年があるものを見つけてしまった。
「なんだこれは?」
それは彼がひたすら隠してきた尻尾だったのだ。少年達が尻尾だと気づいたとき、彼らは顔を凍らせた。今までになく重たく冷たい空気が流れた。
「…こいつ、本当に化け物だったのかよ…」
その少年達が彼を忌々しげに見た表情が、後にも先にも、彼にとって一番耐えがたいものとなるのだった。
そして、この時彼は、この孤児院での生活の、終わりを迎えたことを知った。それは孤児院という箱庭で生きてきた者にとっては、自分の世界から追い出されると言うことに等しい。度重なる心への負荷に、彼の心は壊れてしまった。
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