華の剣士

小夜時雨

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形単影隻

贖罪 參

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「だからわしは、彼も同じ身の上の赤子だろうと思って育てることに決めたのじゃ。まぁ、白い髪の赤子なぞ、見たことがなかったがな。」

 しかし、だんだんと年を重ねて行くごとに、彼の容姿は異国のものとは説明がつかなくなってきた。爪や歯の一部が鋭くなる、目も月のように輝く銀色になる…。
 老人が語る白虎の姿が、現在の白虎の姿とと近くなってくる。

「そして、見た目が変わっていくと同時に、身体能力も高くなっていった。大人の人間をゆうに越えるようになったのじゃ。時折、あの子を見て珍しがったやつが、見世物小屋に来ないかと声をかけていた。でも、その頃はまだあの子は、ごく普通の男の子のように、優しくて、年下に頼りにされる、明るい子だったんじゃ。」

 老人は唇を噛み、下を向く。何か悔やんでいることがあるようだった。ハヨン達は老人の言葉の続きを待つ。老人は顔をあげ、ハヨン達を見渡す。その彼の瞳には哀愁と後悔、そして自嘲が混ざり合った不思議な光が灯っていた。

「あの子の人生を狂わせたのは、その後の変化が原因だったんじゃろうな…。」



・・・

 彼は目を覚ました。

(あぁ、今日もそろそろちび達を起こしてやらねぇと…。あいつらのろいから、どーも年上の連中に目をつけられるんだよなぁ…)

 彼は髪を手で直しながら起き上がる。彼の朝はいつも早かった。孤児院には己よりも幼い子供が多くいる。幼い子供達は活気に満ちていて、遊ぶ時も、怒る時もまっすぐで、力強い。手のかかることはそうなのだが、彼にとっては幼い子供達は愛しい存在だった。

 彼は腕を伸ばし、ぐっと伸びをする。その時、腰の辺りがむず痒い感触がした。何気なく手を伸ばす。
 ふと、彼は違和感を覚えた。何か人肌ならぬものが触れたのだ。思わず無遠慮に掴むと、悲鳴をあげそうになる。痛かった。

(なんだ、これは…!!)

 彼は慌ててその違和感の正体をまさぐる。硬く、髪のような感触で、短くびっしりと生えているようだ。すっと手を滑らせてみると、猫を触っているかのようだ。手で掴める太さで、時折手の中でくねる。信じたくもなかったが、痛みがあったということはそういうことだ。

(違う!違う!これは…!これは…!!)

 しかし、否定すると同時に、触れているそれは警戒する生き物と同じように毛並みが逆立っている。もう、否定のしようがなかった。これは尻尾で、己の尻から生えているのだ。

(何でだ…!?常談じゃねーよ、こ、こんな動物みてーな…!というか本当に生えてるのか?ちび達の悪戯とか…)

 試しに思いっきり引っ張ってみて、本日ニ度目の叫び声をあげそうになった。

(ちゃんと感覚もある…。本当に尻尾が生えてきたのか…?)

 時おり孤児院での年上の連中に、自分自身の容姿を化け物、と言われたことがあった。あのときの感覚は忘れられない。奈落の底に落とされ、その暗い穴の中から、人々を見ているような、そんな孤独な感覚だった。白虎はじわりと背中を汗が伝ったのを感じる。

(…とにかく、隠さないと…。本当に化け物なんて知られたら、ここから追い出されちまう。俺にはここしか居場所はねぇんだから。)

 彼はひんやりとする床に足をつけ、自分の小さな箪笥を漁り始める。何とか自分の尻尾が上手く隠れる、ゆったりとした服を見つける。

(これからはみんなと風呂の時間をずらして…。うっかり水浴びとかしなければばれないな、うん、大丈夫だ)

 そう頭の中でそれではいつまでも隠し通せないことを頭の隅ではわかっていた。どれぐらいここにいられるだろうかなど、余計なことを考えそうになって、己の顔を叩いて戒めた。

(俺の居場所はここにしかない。この場所を守りきらねぇと…)

 そう考えていた時に、ふと場面が暗転する。そして彼は孤児院の庭にいた。いきなりのことで心底驚いたので、思わず辺りを見渡す。

(ああ、これは夢か。)

 彼はやっと状況を理解した。しかし、夢と言うものは思い通りにはならない。自身の意思で手を上げようにも、体に縄で固定されたかのように、微動だにしない。しかし、走っているように辺りの景色は揺れていた。どうやら昔のことをなぞっていくように進んでいる。
 彼は幼い兄弟たちと鬼ごっこをしているようだった。白虎は手加減をして走っている。

(もしかすると、今日の昼のあれが夢に影響してんのかな。)

 彼は昼間に己を追いかけてきた少女と、仲間らしき男を思い返す。自分にあえて関わろうとする者は久しぶりだった。

(まぁ、あいつらも俺の対応に困ったら諦めるだろ。どのみち俺は化け物だ。いつかは誰も寄り付かなくなる…)

 彼はもう何回繰り返したのかを忘れてしまったこの言葉を思い起こした。
 その時、ちびの一人が年上の連中にいびられているのを見つけた。こづかれたり嫌味を言われている。

(これはあのときの…。嫌だ…。やめろ…!)

 彼は必死に目をこじ開けて目覚めようとする。あの日起こったことを思い出し
、心の臓が吐きそうなほどにのたうちまわった。
 しかし、残酷なことに、相変わらず夢の中の自分は望まない方へと進んでいく。彼はその嫌がらせをしている輪の中に割って入っていった。
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