華の剣士

小夜時雨

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形単影隻

はじめまして

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 騒ぎの起こった裏路地から離れ、人の気配が無いと確認したあと、ハヨンは口を開いた。

「さっきの話が本当なら、白虎はこの辺りにいますよね…。私、探してきます。」
「そうだな、ここは手分けして探そう。」

 リョンヘは頷き、ハヨンは南側、リョンヘは東側、ムニルが西側を探すことになった。北側はハヨンたちが先程いた所から、男が叫んだところまでを走った際に白虎を見かけなかったので、とりあえず除外する。
 三人は散り、一斉に駆け出した。その後姿を誰かが見ていたことも知らずに…。

 ハヨンは市のある大通りを一本隔てた裏路地を一直線に走る。他方後へ延びている道や物陰等も探すが、人っ子一人いない。もしかすると、裏路地は先ほどのように白虎と遭遇するから、人々は怖れて通らないのかもしれない。
 ハヨンは十字路を真っ直ぐ進んだとき、何か得体の知れないものが、背後を風圧を感じさせるほどの速さで通りすぎたのを感じた。慌てて振り返ると、人影が走っていくのが見える。

(もしかして、あれが白虎かもしれない…!!)

 ハヨンは慌てて方向転換し、追いかける。そして、十八丈じゅうはちじょう(距離の単位1丈=3m)程先に走っている姿をとらえる。目を凝らしてみると、彼の腰の辺りに何か白いものが揺れていた。

(…尻尾…?)

 ハヨンはその不思議な姿に目を疑った。そして、その尻尾らしきものは彼の走る動きに合わせて動いている。
 彼も足音か気配に気づいたのか、後を振り向いた。視線がぶつかり合う。その時、走っていた反動で、その人が深く被っていた外套の頭巾が外れた。

(…白、い…)

 泥などでくすんでいるものの、彼の肌も髪も白く、雪のような美しさにハヨンは息を呑んだ。と、彼は慌てて頭巾を被り直し、再び走り始める。彼が白虎で間違いない。ハヨンはそう確信した。

「待って…!あなたと話したいことがある…!」

 ハヨンは叫んだ。何としてでも彼と話をしなければならない。彼はハヨンの声にぴくりと肩を揺らし、ほんの少し彼の走る速度が緩まった。しかしそれはほんの一瞬で、みるみるうちに背中が遠くなる。
 こんなにも足の速い人を、ハヨンは初めて見た。ハヨンも足の速さと持久力はそこそこに自身があったのに。

(これが四獣の力…)

 ハヨンはみるみる遠くなる背中を見て、呆然とした。彼は脇目もふらずに一直線に裏路地を進んでいく。と、その時
脇道から見覚えのある人物が現れる。ムニルだった。

「ムニル…!彼を引き止めて…!」

 ハヨンは叫んだ。ムニルも状況を察したらしい。ムニルが白虎に近づいていく。しかしだめだった。白虎はいきなり飛びあがり、ある建物の屋根の一部を掴む。そしてそのまま屋根に登り、その上を走っていった。

「やられたわ…!今のが白虎?」
「そ、う…みたい。」

 悔しそうにするムニルに、ハヨンは息も絶え絶えに答えた。
 白虎の身体能力はやはり人並みではない。走る速さは人よりも圧倒的に速く、その跳躍力は優に人の倍は超えているだろう。そのくせ動きは軽やかで、音一つ立てなかった。

 その後、大通りでハヨン達はリョンヘと落ち合い、白虎を発見したことを伝える。

「白虎はどうだった。」
「すごく綺麗でした。髪も肌も白くて。まるで雪原のようでした。それと…彼には尻尾が生えているようにも見えました…。」

 ハヨンはまだ白虎の美しさに驚いていて、半分夢を見ているような気分だった。本当に彼は存在したのだろうかとさえ思えてしまう。

(何であんなに綺麗な人があんな仕打ちを受けなきゃいけないんだろう…。)

 ハヨンは彼が裸足だったことや、服も擦りきれて外套も腰の辺りが見えるほど短かったことに胸を痛めた。最近の夜は少しずつ冷えてきていて、あのままではこれからの寒さをしのげないのではないかと思ったのだ。
 そして何より、人々は繋がりを重視する。彼も同じく人であるはずなのに、先ほどのように憎まれ恐れられ、武器さえ携えられるような扱いを受けている。それは耐え難いことだろう。
 それでもなお、彼がこの赤架に居続ける理由は何なのか。ハヨンはこの赤架の現状を厳しいものだと感じるたびに、疑問が膨らんでいくのだった。











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