華の剣士

小夜時雨

文字の大きさ
上 下
132 / 221
形単影隻

考察

しおりを挟む
 ハヨン達は人々がよく集まる市場や広場などの隅で立ち話を装い、人々の噂話を盗み聴くいていく。時には旅人だと名乗ってこの町の様子を尋ねる。そうして不審に思われぬ程度に三人は情報を集めて行った。するとやはりまだ、白虎はこの町にいるようだった。

「街の人たちはいる言うけれど、そんな白虎がどんな人かまでは教えてもらえないよね…」

 ハヨンはムニルをちらりと見る。彼も四獣のうちの青龍だが、体の一部に鱗がある以外は普通に人間と変わらない容姿だ。その上、鱗も服に上手く隠れているので、誰も怪しむことはない。
 白虎も、老婆から教えてもらった通り何か特徴があるかもしれないが、それは目に見えるものかはわからないのだ。

(むしろ私の方が目立っているような気がする…)

 ハヨンはなぜか生れつき目が赤い。しかし、彼女は何か特別な能力があるわけではない。
 そして今、密かに調査しなければならないのに、ハヨンの容姿は酷くやっかいに思えた。そのため、ハヨンは笠を深く被って目を隠している。
 今までこの瞳を見て、どこかへ売り捌こうとされたり、色眼鏡をかけられたことはしょっちゅうで、この地でもそんな態度をとられたくなかったからである。そして何より、変わった容姿は人に覚えられやすい。

(私も特異な容姿なんだから、何か特別な力があれば良かったのに…。それならリョンヘ様や、王都の城でどうなっているかわからないリョンヤン様のお力になれることだって可能なはず…。私はまだまだ非力な所が多いから…。)

 ハヨンはそう考えてムニルを羨ましいと思った。

「そうよねぇ、白虎がどんな見た目をしているか聴きたいものだけど…。何だかここの人達、臆病そうな人が多くて訊きにくい…ってハヨン、どうかした?」

 羨ましさをにじませてじっと見つめていたので、ムニルはそのいつもとは違う眼差しに気づいたらしい。

「う、うんん!何でもない。街の人達はみんな知ってるから、白虎の容姿についてあんまり話したりもしてないみたいだしね。」

 ハヨンは自身の心の内をムニルに見透かされそうな気がして、慌ててそうまくし立てた。

「そうねぇ…お…じゃなかった。リョンヘはどう思っているのかしら?」

 王子と呼んでは流石に周りから怪しまれるので、人通りの多いところでは皆名前で呼び合うことが決まっている。すんでのところでムニルは言い直した。

「うん…。俺はむしろ、白虎は目立つ容姿をしていると思っている。四獣も目立つ容姿でなければ普段は人に混じって暮らせる。例えばムニルを一目見て、彼は青龍だ、なんて言う者はいないだろう?…合っているか?」
「ええ、そうね。私は自分から明かさない限り、もしくは背中を見られない限り、見破られたことなんて一回もないわ。」

 ムニルが頷きながらそう答えた。ハヨンはその返事を聞いて、ふと何かが引っかかった。

(まるで自分の意思に関係なくばれたことがあるかのような口ぶりだな…)
「人と言うのは悲しいことに、変わっているものを怖がる。自分にとって未知なものに攻撃的な態度をとるものだ。時には自分より立場が低いと踏んだ相手にはその恐れを攻撃によって誤魔化したり、利用してやろうと企む者も現れる。この赤架では白虎は恐れられている…。その訳はこれに繋がるように俺は思うんだ。」

 リョンヘはそう少し沈んだ表情で語った。リョンヘ自身も当てはまることがあるからだろう。
 彼は王族が持つはずの獣を操る能力を失い、一部の人々から密かに嘲笑われていた。そしてその悪意は隠されていても、いずれ本人に伝わってしまうものだ。ハヨンは王城内での彼の立場を思い出し、胸が痛んだ。
 またリョンヘは以前、お忍びの際に賊に捕らえられた民をハヨンと共に救出した。あの時の様子を見るに、彼は各地を回って民に手を差し伸べているのだろう。彼は弱い立場にいる物を虐げたり、傷つけたりすることが許せない性格なのだ。

「それにどうも、街の人達は彼を白虎だと思っていないようね。」

 ムニルはそう付け加えた。老婆から四獣は必ず男として生を受けると聞いていたので、彼と呼ぶ。

「確かに…」

 街の人々はとかと呼んでいるのだ。

「あと、町の人の情報からだと爪が特徴的みたいだね…」

 手袋や包帯などで隠すこともできないということは、人とは異なる姿なのかもしれない。
 ハヨンは街の人の会話を思い出しながら考え込む。人の手ばかりを見ていても、白虎はそう簡単に見つからないだろう。

「そういえば、調査に行った班の報告では、赤架には化け物が住み着いている、という報告だったな。やはり目立った外見のためか、恐れられている線で合っているだろう。」

と言うリョンヘにムニルとハヨンが頷いていると、突然、「うわぁぁぁぁぁ!!!」と人が切羽詰まったような叫び声が聞こえてきた。
 思わず3人とも体を強ばらせる。が、次の瞬間にはその叫び声がした方へ走り出した。
 そこは裏路地で、男が一人地べたに座り込んでいた。

「大丈夫ですか!一体何が…」

 ハヨンは男にそう尋ねようとすると、言葉を遮るようにして返事が返ってきた。

「あいつが!あいつがいたんだよ…!」

 その頃、出遅れた他の町の人々がやって来る。彼らの手には鋤や鍬、包丁が握られており、物々しい雰囲気だ。

「まさかやつかい…!?」

 包丁を持った中年の女が、叫んだ男に尋ねる。

「ああ、そうさ。俺がこの裏路地に入ったとき、やつがいたんだよ。やつは俺を睨んだあと、立ち去った…。」

 青い顔をして男が街の人とやり取りをしている間に、目立ちたくなかったハヨンたちはそっとその取り巻きから離れた。













しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...