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形単影隻
考察
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ハヨン達は人々がよく集まる市場や広場などの隅で立ち話を装い、人々の噂話を盗み聴くいていく。時には旅人だと名乗ってこの町の様子を尋ねる。そうして不審に思われぬ程度に三人は情報を集めて行った。するとやはりまだ、白虎はこの町にいるようだった。
「街の人たちはいる言うけれど、そんな白虎がどんな人かまでは教えてもらえないよね…」
ハヨンはムニルをちらりと見る。彼も四獣のうちの青龍だが、体の一部に鱗がある以外は普通に人間と変わらない容姿だ。その上、鱗も服に上手く隠れているので、誰も怪しむことはない。
白虎も、老婆から教えてもらった通り何か特徴があるかもしれないが、それは目に見えるものかはわからないのだ。
(むしろ私の方が目立っているような気がする…)
ハヨンはなぜか生れつき目が赤い。しかし、彼女は何か特別な能力があるわけではない。
そして今、密かに調査しなければならないのに、ハヨンの容姿は酷くやっかいに思えた。そのため、ハヨンは笠を深く被って目を隠している。
今までこの瞳を見て、どこかへ売り捌こうとされたり、色眼鏡をかけられたことはしょっちゅうで、この地でもそんな態度をとられたくなかったからである。そして何より、変わった容姿は人に覚えられやすい。
(私も特異な容姿なんだから、何か特別な力があれば良かったのに…。それならリョンヘ様や、王都の城でどうなっているかわからないリョンヤン様のお力になれることだって可能なはず…。私はまだまだ非力な所が多いから…。)
ハヨンはそう考えてムニルを羨ましいと思った。
「そうよねぇ、白虎がどんな見た目をしているか聴きたいものだけど…。何だかここの人達、臆病そうな人が多くて訊きにくい…ってハヨン、どうかした?」
羨ましさをにじませてじっと見つめていたので、ムニルはそのいつもとは違う眼差しに気づいたらしい。
「う、うんん!何でもない。街の人達はみんな知ってるから、白虎の容姿についてあんまり話したりもしてないみたいだしね。」
ハヨンは自身の心の内をムニルに見透かされそうな気がして、慌ててそうまくし立てた。
「そうねぇ…お…じゃなかった。リョンヘはどう思っているのかしら?」
王子と呼んでは流石に周りから怪しまれるので、人通りの多いところでは皆名前で呼び合うことが決まっている。すんでのところでムニルは言い直した。
「うん…。俺はむしろ、白虎は目立つ容姿をしていると思っている。四獣も目立つ容姿でなければ普段は人に混じって暮らせる。例えばムニルを一目見て、彼は青龍だ、なんて言う者はいないだろう?…合っているか?」
「ええ、そうね。私は自分から明かさない限り、もしくは背中を見られない限り、見破られたことなんて一回もないわ。」
ムニルが頷きながらそう答えた。ハヨンはその返事を聞いて、ふと何かが引っかかった。
(まるで自分の意思に関係なくばれたことがあるかのような口ぶりだな…)
「人と言うのは悲しいことに、変わっているものを怖がる。自分にとって未知なものに攻撃的な態度をとるものだ。時には自分より立場が低いと踏んだ相手にはその恐れを攻撃によって誤魔化したり、利用してやろうと企む者も現れる。この赤架では白虎は恐れられている…。その訳はこれに繋がるように俺は思うんだ。」
リョンヘはそう少し沈んだ表情で語った。リョンヘ自身も当てはまることがあるからだろう。
彼は王族が持つはずの獣を操る能力を失い、一部の人々から密かに嘲笑われていた。そしてその悪意は隠されていても、いずれ本人に伝わってしまうものだ。ハヨンは王城内での彼の立場を思い出し、胸が痛んだ。
またリョンヘは以前、お忍びの際に賊に捕らえられた民をハヨンと共に救出した。あの時の様子を見るに、彼は各地を回って民に手を差し伸べているのだろう。彼は弱い立場にいる物を虐げたり、傷つけたりすることが許せない性格なのだ。
「それにどうも、街の人達は彼を白虎だと思っていないようね。」
ムニルはそう付け加えた。老婆から四獣は必ず男として生を受けると聞いていたので、彼と呼ぶ。
「確かに…」
街の人々はやつとかあいつと呼んでいるのだ。
「あと、町の人の情報からだと爪が特徴的みたいだね…」
手袋や包帯などで隠すこともできないということは、人とは異なる姿なのかもしれない。
ハヨンは街の人の会話を思い出しながら考え込む。人の手ばかりを見ていても、白虎はそう簡単に見つからないだろう。
「そういえば、調査に行った班の報告では、赤架には化け物が住み着いている、という報告だったな。やはり目立った外見のためか、恐れられている線で合っているだろう。」
と言うリョンヘにムニルとハヨンが頷いていると、突然、「うわぁぁぁぁぁ!!!」と人が切羽詰まったような叫び声が聞こえてきた。
思わず3人とも体を強ばらせる。が、次の瞬間にはその叫び声がした方へ走り出した。
そこは裏路地で、男が一人地べたに座り込んでいた。
「大丈夫ですか!一体何が…」
ハヨンは男にそう尋ねようとすると、言葉を遮るようにして返事が返ってきた。
「あいつが!あいつがいたんだよ…!」
その頃、出遅れた他の町の人々がやって来る。彼らの手には鋤や鍬、包丁が握られており、物々しい雰囲気だ。
「まさかやつかい…!?」
包丁を持った中年の女が、叫んだ男に尋ねる。
「ああ、そうさ。俺がこの裏路地に入ったとき、やつがいたんだよ。やつは俺を睨んだあと、立ち去った…。」
青い顔をして男が街の人とやり取りをしている間に、目立ちたくなかったハヨンたちはそっとその取り巻きから離れた。
「街の人たちはいる言うけれど、そんな白虎がどんな人かまでは教えてもらえないよね…」
ハヨンはムニルをちらりと見る。彼も四獣のうちの青龍だが、体の一部に鱗がある以外は普通に人間と変わらない容姿だ。その上、鱗も服に上手く隠れているので、誰も怪しむことはない。
白虎も、老婆から教えてもらった通り何か特徴があるかもしれないが、それは目に見えるものかはわからないのだ。
(むしろ私の方が目立っているような気がする…)
ハヨンはなぜか生れつき目が赤い。しかし、彼女は何か特別な能力があるわけではない。
そして今、密かに調査しなければならないのに、ハヨンの容姿は酷くやっかいに思えた。そのため、ハヨンは笠を深く被って目を隠している。
今までこの瞳を見て、どこかへ売り捌こうとされたり、色眼鏡をかけられたことはしょっちゅうで、この地でもそんな態度をとられたくなかったからである。そして何より、変わった容姿は人に覚えられやすい。
(私も特異な容姿なんだから、何か特別な力があれば良かったのに…。それならリョンヘ様や、王都の城でどうなっているかわからないリョンヤン様のお力になれることだって可能なはず…。私はまだまだ非力な所が多いから…。)
ハヨンはそう考えてムニルを羨ましいと思った。
「そうよねぇ、白虎がどんな見た目をしているか聴きたいものだけど…。何だかここの人達、臆病そうな人が多くて訊きにくい…ってハヨン、どうかした?」
羨ましさをにじませてじっと見つめていたので、ムニルはそのいつもとは違う眼差しに気づいたらしい。
「う、うんん!何でもない。街の人達はみんな知ってるから、白虎の容姿についてあんまり話したりもしてないみたいだしね。」
ハヨンは自身の心の内をムニルに見透かされそうな気がして、慌ててそうまくし立てた。
「そうねぇ…お…じゃなかった。リョンヘはどう思っているのかしら?」
王子と呼んでは流石に周りから怪しまれるので、人通りの多いところでは皆名前で呼び合うことが決まっている。すんでのところでムニルは言い直した。
「うん…。俺はむしろ、白虎は目立つ容姿をしていると思っている。四獣も目立つ容姿でなければ普段は人に混じって暮らせる。例えばムニルを一目見て、彼は青龍だ、なんて言う者はいないだろう?…合っているか?」
「ええ、そうね。私は自分から明かさない限り、もしくは背中を見られない限り、見破られたことなんて一回もないわ。」
ムニルが頷きながらそう答えた。ハヨンはその返事を聞いて、ふと何かが引っかかった。
(まるで自分の意思に関係なくばれたことがあるかのような口ぶりだな…)
「人と言うのは悲しいことに、変わっているものを怖がる。自分にとって未知なものに攻撃的な態度をとるものだ。時には自分より立場が低いと踏んだ相手にはその恐れを攻撃によって誤魔化したり、利用してやろうと企む者も現れる。この赤架では白虎は恐れられている…。その訳はこれに繋がるように俺は思うんだ。」
リョンヘはそう少し沈んだ表情で語った。リョンヘ自身も当てはまることがあるからだろう。
彼は王族が持つはずの獣を操る能力を失い、一部の人々から密かに嘲笑われていた。そしてその悪意は隠されていても、いずれ本人に伝わってしまうものだ。ハヨンは王城内での彼の立場を思い出し、胸が痛んだ。
またリョンヘは以前、お忍びの際に賊に捕らえられた民をハヨンと共に救出した。あの時の様子を見るに、彼は各地を回って民に手を差し伸べているのだろう。彼は弱い立場にいる物を虐げたり、傷つけたりすることが許せない性格なのだ。
「それにどうも、街の人達は彼を白虎だと思っていないようね。」
ムニルはそう付け加えた。老婆から四獣は必ず男として生を受けると聞いていたので、彼と呼ぶ。
「確かに…」
街の人々はやつとかあいつと呼んでいるのだ。
「あと、町の人の情報からだと爪が特徴的みたいだね…」
手袋や包帯などで隠すこともできないということは、人とは異なる姿なのかもしれない。
ハヨンは街の人の会話を思い出しながら考え込む。人の手ばかりを見ていても、白虎はそう簡単に見つからないだろう。
「そういえば、調査に行った班の報告では、赤架には化け物が住み着いている、という報告だったな。やはり目立った外見のためか、恐れられている線で合っているだろう。」
と言うリョンヘにムニルとハヨンが頷いていると、突然、「うわぁぁぁぁぁ!!!」と人が切羽詰まったような叫び声が聞こえてきた。
思わず3人とも体を強ばらせる。が、次の瞬間にはその叫び声がした方へ走り出した。
そこは裏路地で、男が一人地べたに座り込んでいた。
「大丈夫ですか!一体何が…」
ハヨンは男にそう尋ねようとすると、言葉を遮るようにして返事が返ってきた。
「あいつが!あいつがいたんだよ…!」
その頃、出遅れた他の町の人々がやって来る。彼らの手には鋤や鍬、包丁が握られており、物々しい雰囲気だ。
「まさかやつかい…!?」
包丁を持った中年の女が、叫んだ男に尋ねる。
「ああ、そうさ。俺がこの裏路地に入ったとき、やつがいたんだよ。やつは俺を睨んだあと、立ち去った…。」
青い顔をして男が街の人とやり取りをしている間に、目立ちたくなかったハヨンたちはそっとその取り巻きから離れた。
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