華の剣士

小夜時雨

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 ハヨン達が宿につき、宿の食堂に赴けば、そこには孟の三人の兵士が食堂の卓を囲んでいた。

「リョン…さま。」

 ハヨン達を見つけた兵士たちが、勢いよく立ち上がって、最敬礼をしようとしたが踏みとどまる。リョンヘ様と呼ぶわけにもいかず、尻すぼみにリョンと呼んだ。
 周囲にいる宿の客に不審がられはしなかったかと、思わずあたりを見渡すが、客は酒を飲んでいる者が大半で、大声で話しているためかハヨン達を見ている者はいない。ハヨンはほっと胸を撫で下ろした。

「すみません…。思わず城にいるときのように振る舞ってしまいました…。」

 思わずリョン様と呼びかけた兵士は落ち込んでいる様子を見せる。

「本当の名ではないし、最敬礼もしなかった。大丈夫だ。ただ、次からは気をつけるようにな。」

 リョンヘは落ち着いた声でそう兵士を嗜め、兵士たちの横に座る。ハヨン達も倣って席についた。

「ともかく、無事に着いてよかった。」

 そうリョンヘが言うと、兵士たちはうなずく。彼らは昼にこの赤架に到着し、この宿の周辺の聞き込みをしていた。孟の人員が足りないため、数日おきに孟の城の兵士たちと交代することになっている。
 晩食を食べながら話し合った結果、ハヨンたちが赴いた土地周辺を探すこととなった。ただし、途中で白虎が移動する可能性もあるので、孟からやってくる兵士たちは赤架の中心部での情報集めを行うことになる。人目につきやすい中心部は、顔ぶれが交代する兵士の方が好都合である。

「さぁ、とっとと見つけて話をつけちゃいましょう!」

 ムニルはこの先の動きが決まったことに加え、酒を飲み、酔いが回ってきたからか機嫌がいい。今まで以上ににこやかで、隣の兵士の肩に手をかけている。基本的に誰にでも愛想の良い彼だが、ここまで馴れ馴れしい様子を見せることは珍しかった。何やら意外な一面を垣間見た気分である。
 倣って酒を飲む兵士たちは士気が高まっているのか、周りの雰囲気につられたのか、普段リョンヘの前で見せる態度よりも砕けて見えた。
 リョンヘは少量の酒をちびりちびりと飲んでいるが、目元が赤い。もしかすると、それほど酒に強くないのかもしれない。
 ハヨンは王城にいた頃、仲の良い隊員はガンハンとドマンの同期の二人だけだった。その上、まだまだ白虎としての責務を果たすことに精一杯で宴の席についたのは護衛の役目で出た一度きりだ。このような飲みの席に出たのはほとんど初めてと言って良い。ハヨンもその雰囲気に当てられて、心は弾んでいた。

「…そろそろ寝るか。」

 食堂にいる人もまばらになり始め、この場にいる面々の気分も随分と落ち着いてきた頃、リョンヘがそう言った。

「はい」

 先ほどまでの陽気で砕けた様子は一瞬にして掻き消え、兵士たちは席を立つ。ハヨンもそれに倣った。楽しい時間ではあったが、皆で和気藹々と食事をする時間は終わったのだ。
 このあとはそれぞれの部屋に就寝することとなる。リョンヘは兵士たちと相部屋だが、ハヨンはこの中で唯一の女性であるため、一人で部屋を借りる。そしてリョンヘと同室の兵士たちは交代で行うのだ。

(性別のことでは悩んだりはしないと決めたけれど…。性別のせいで役目を果たせないことがあるというのは少し複雑だな…。)

 きっと寝付く前にも、彼らは雑談などをするのだろう。そう考えると羨ましくなり、どうしてかはわからないが、胃もたれしたときのようにむかむかとした感覚が湧き上がった。

(どうしてだろう。1人で寝ることが寂しいのかな。)

 ハヨンは首を傾げ、己の幼さを恥ずかしく感じるのだった。
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