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番外編
受け継がれしもの 陸
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尻切れ蜻蛉となってしまった告白を、チャンヒはどうすればいいのかわからなかった。ソンヒョンに思いを告げると言うことだけでも一大事であったのに、着地点を見失ったのだ。どうしよう、という言葉が頭の中でぐるぐると巡る。
「…チャンヒさん?」
ソンヒョンが熱で潤んだ瞳をチャンヒに向ける。急に喋るのを止めたチャンヒを心配しているのだろう。その彼の眼差しを見て、チャンヒはますます緊張が高まった。
(こんな中途半端だけど、もう私がソンヒョンさんを好きだというのは言ってしまってる。…もういい!)
流れの速い川に飛び込むように、息を整えて覚悟を決める。
「私はソンヒョンさんのことが好きで、心配なんです」
言い終えた後、思わず視線を彷徨わせる。ソンヒョンがどのような反応をしているのかを、見る勇気はなかった。
「え、そうだったの?」
彼のその呆気にとられたような声を聞いて、ようやく彼の方へと向き直る。やはり、ソンヒョンはそう言った感情は一切なかったのだろう、と恐る恐る彼の顔を見ると、意外なことに耳まで赤くなっていた。
(いや、ソンヒョンさん、今風邪ひいてるんだった)
ぽこりと水面に浮き上がる泡のように、思わず嬉しさがこみ上げそうになったが、突然冷静な考えによって掻き消された。
「嬉しい…」
「えっ?」
ふいにソンヒョンが呟いた言葉が信じられなくて、思わず訊き返してしまう。自身の嫁ぎ先を決めるのは両親だと考えていたにも関わらず、心が浮き足立ち、期待が膨らんだ。ソンヒョンはチャンヒの膝の上に揃えられた手を取る。彼の手は思っていた以上に熱を孕んでいた。
「嬉しいけど…俺じゃだめだ」
「何で…ですか?」
その期待とは裏腹に、ソンヒョンの言葉は思ってもみないものだった。そもそも自身が告白することを想定していなかったし、しても玉砕覚悟であったし、さらに互いに思い合っているのに拒否されるなど、もちろん想像の範囲外である。
「俺は…チャンヒさんのことを悲しませてしまうから」
チャンヒが思っているような男では無いということなのだろうか。しかし、この2年かけて彼のことを知りつつあるが、優しく純粋な人だと思っている。その上彼は己の本性を隠すような男とは思えない。
「なぜ私が悲しむと思うんですか…?」
チャンヒは理由を知りたかった。叶うわけないと端からあきらめていたくせに、温め続けていた思いを、そのような言葉で終わってしまうのは耐えられないと思ったのだ。
「それは…」
チャンヒの言葉に対して、ソンヒョンは何とか答えようとしたのだが、どうやらうまく説明できないのだろう。目を逸らし、言葉に詰まった。
「俺は人を悲しませたり、動揺させると思って、言えなかったことがあるんだ」
その逸らした彼の目は、こちらを向くことはない。彼が何を思い、それが本心なのかどうかもわからない。知り合ってからの二年間で、一番彼との心の距離を感じる。そのことがたまらなく寂しかった。
この距離を埋めたい。想いが通じるとか、悲しませるから想いを受け取ることができないとか、そんな話ではない。このままチャンヒがそうですかと身を引けば、きっと彼とは気まずい時を過ごし、そのまま思い出の中の人となるのだ。それは嫌だ。せめて離れることになったとしても、笑顔でさよならを告げたい。
その上、チャンヒはソンヒョンのことを信じている。初めて彼のことを知った日から、その彼の真面目で真っ直ぐで、時折見せる素直で純粋な表情を見てきた。彼が嫌味な性格だとか、どうしようもなくだらしのない男だとか、そう言った秘密ではない。
「構いません。私はあなたがどんなことを告げようと、受け入れられる覚悟があります。」
視線を下に向けていたソンヒョンとは対照的に、チャンヒは背筋を伸ばしてはっきりと告げた。顔を上げたソンヒョンの瞳をしっかりと見つめる。戸惑ったように揺れる瞳は、彼をいつもよりも幼く見せていた。
「…わかった、そうだね、チャンヒさんが好きだと言ってくれたのに、訳も話さずにいるのは何だか不公平な感じもする。」
ソンヒョンはふぅ、と息を吐き、しっかりとチャンヒの目を見返した。もう目には静かな光をたたえ、口元には笑みが浮かんでいる。彼のその静かな心境の変化を見て、チャンヒは思わず背筋を伸ばした。
「…チャンヒさん?」
ソンヒョンが熱で潤んだ瞳をチャンヒに向ける。急に喋るのを止めたチャンヒを心配しているのだろう。その彼の眼差しを見て、チャンヒはますます緊張が高まった。
(こんな中途半端だけど、もう私がソンヒョンさんを好きだというのは言ってしまってる。…もういい!)
流れの速い川に飛び込むように、息を整えて覚悟を決める。
「私はソンヒョンさんのことが好きで、心配なんです」
言い終えた後、思わず視線を彷徨わせる。ソンヒョンがどのような反応をしているのかを、見る勇気はなかった。
「え、そうだったの?」
彼のその呆気にとられたような声を聞いて、ようやく彼の方へと向き直る。やはり、ソンヒョンはそう言った感情は一切なかったのだろう、と恐る恐る彼の顔を見ると、意外なことに耳まで赤くなっていた。
(いや、ソンヒョンさん、今風邪ひいてるんだった)
ぽこりと水面に浮き上がる泡のように、思わず嬉しさがこみ上げそうになったが、突然冷静な考えによって掻き消された。
「嬉しい…」
「えっ?」
ふいにソンヒョンが呟いた言葉が信じられなくて、思わず訊き返してしまう。自身の嫁ぎ先を決めるのは両親だと考えていたにも関わらず、心が浮き足立ち、期待が膨らんだ。ソンヒョンはチャンヒの膝の上に揃えられた手を取る。彼の手は思っていた以上に熱を孕んでいた。
「嬉しいけど…俺じゃだめだ」
「何で…ですか?」
その期待とは裏腹に、ソンヒョンの言葉は思ってもみないものだった。そもそも自身が告白することを想定していなかったし、しても玉砕覚悟であったし、さらに互いに思い合っているのに拒否されるなど、もちろん想像の範囲外である。
「俺は…チャンヒさんのことを悲しませてしまうから」
チャンヒが思っているような男では無いということなのだろうか。しかし、この2年かけて彼のことを知りつつあるが、優しく純粋な人だと思っている。その上彼は己の本性を隠すような男とは思えない。
「なぜ私が悲しむと思うんですか…?」
チャンヒは理由を知りたかった。叶うわけないと端からあきらめていたくせに、温め続けていた思いを、そのような言葉で終わってしまうのは耐えられないと思ったのだ。
「それは…」
チャンヒの言葉に対して、ソンヒョンは何とか答えようとしたのだが、どうやらうまく説明できないのだろう。目を逸らし、言葉に詰まった。
「俺は人を悲しませたり、動揺させると思って、言えなかったことがあるんだ」
その逸らした彼の目は、こちらを向くことはない。彼が何を思い、それが本心なのかどうかもわからない。知り合ってからの二年間で、一番彼との心の距離を感じる。そのことがたまらなく寂しかった。
この距離を埋めたい。想いが通じるとか、悲しませるから想いを受け取ることができないとか、そんな話ではない。このままチャンヒがそうですかと身を引けば、きっと彼とは気まずい時を過ごし、そのまま思い出の中の人となるのだ。それは嫌だ。せめて離れることになったとしても、笑顔でさよならを告げたい。
その上、チャンヒはソンヒョンのことを信じている。初めて彼のことを知った日から、その彼の真面目で真っ直ぐで、時折見せる素直で純粋な表情を見てきた。彼が嫌味な性格だとか、どうしようもなくだらしのない男だとか、そう言った秘密ではない。
「構いません。私はあなたがどんなことを告げようと、受け入れられる覚悟があります。」
視線を下に向けていたソンヒョンとは対照的に、チャンヒは背筋を伸ばしてはっきりと告げた。顔を上げたソンヒョンの瞳をしっかりと見つめる。戸惑ったように揺れる瞳は、彼をいつもよりも幼く見せていた。
「…わかった、そうだね、チャンヒさんが好きだと言ってくれたのに、訳も話さずにいるのは何だか不公平な感じもする。」
ソンヒョンはふぅ、と息を吐き、しっかりとチャンヒの目を見返した。もう目には静かな光をたたえ、口元には笑みが浮かんでいる。彼のその静かな心境の変化を見て、チャンヒは思わず背筋を伸ばした。
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