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番外編
受け継がれしもの 伍
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ソンヒョンが弟子入りをしてから2年の歳月が過ぎた。チャンヒは齢18となり、もう誰かの元へ嫁いでもおかしくない時期だ。いや、むしろ周囲の同い年の女子は半数以上嫁いでいるので、遅い部類に入るのかもしれない。
何故こうなっているのかというと、母は人づてに何人かと見合い話を設けようとしたのだが、どうやら父が反対して、その話も流れてしまうようだ。父は自分が認めた男でなければ結婚は認めたくないようで、このことからチャンヒはまだ嫁ぎ先も決まっていない。
しかしチャンヒにとってこの状況はむしろ都合が良かった。なぜなら、ソンヒョンと共に過ごす時間が増えていくに連れ、彼の優しさや誠実さを知っていき、惹かれてしまっていたからだ。と言っても年頃の娘の婚姻の主導権は親がするものなので、この気持ちを持て余していた。
そのソンヒョンはというと、めきめきと頭角を現し、ジホの弟子の中では一番鍛刀が上手くなっていた。これは彼の元来の才能と、人並みならぬ努力の賜物だろう。ソンヒョンはそんな状況でも慢心したりせず、相変わらず毎夜遅くまで作業場に篭っており、チャンヒは夜食を届け続けた。
その日の夜も、チャンヒは作業場を訪れ、夜食をソンヒョンに手渡した。
「チャンヒさん、いつもありがとう。」
ソンヒョンはそれを受け取る時、毎回欠かすことなく礼を言う。もし届けた時に手が離せなかった場合でも、朝に顔を合わせた時に、感謝の言葉をかけられた。チャンヒはその何気ないことにも感謝を忘れないソンヒョンを尊敬していた。
「いえいえ、いつもお疲れ様。」
彼の優しい眼差しを見て胸が高鳴るのを抑えながら、努めてにこやかに言葉を返す。しかしその途中で、彼の表情がいつもと比べて活気がないことに気がつく。
「…ソンヒョンさん、何かありましたか?」
「うん?どう言うこと?」
「えっと…。いつもよりしんどそうに見えて。体調は大丈夫ですか?」
「ばれたか…。チャンヒさんは相変わらず鋭いなぁ」
その気まずそうに笑った目の下に、隈ができている。
「師匠にある武人の鍛刀を任されたんだ。それで思わず根を詰めてしまって。」
それを聞いたチャンヒは、思わずえっ、と叫びそうになった。わずか2年で依頼を任される弟子など、今まで聞いたことがなかったからだ。そして、驚きとともに興奮してきて、
「すごい!ソンヒョンさん、信頼されているんですね。」
と勢いに任せて言ってしまった。しかし、彼のやつれている理由はそのことなのだから、手放しに喜んで良かったのかと、チャンヒははたと考え込む。
「ありがとう。」
しかし、ソンヒョンはその事を気にしていなかったのか、口元を緩めて笑った。
「じゃあ俺は作業するから…。おやすみ」
そうソンヒョンが言葉を続け、チャンヒに近づくように一歩踏み出そうとした瞬間、彼の体勢が大きく傾いだ。
「ソンヒョンさん!」
慌てて支えると、彼の体は驚くほどに熱かった。これは、鍛刀のためにずっと火にあたっていたからと言うわけではない。彼自身が熱を発しているのだ。
とりあえずチャンヒはその場にあった布の上に彼の頭を載せるようにして横たえる。
「チャンヒさん、申し訳ない…。ありがとう」
今まで体に鞭を打っていた分が、どっと体に現れたのだろう。彼の声は弱々しかった。
「こんなに体は疲れてるんですから、今日はもう休んでください」
チャンヒの言葉に対し、ソンヒョンは首を横に振る。そうだ、彼は何かを成し遂げるためには、絶対に引き下がらない性分だ。それは彼の弟子入りの頃から知っていることだった。そのためか、彼は自身の体の悲鳴さえも聞き入れない。
「もっと…もっと支えられたらいいのに…」
思わずチャンヒの口からそう言葉が溢れでた。
「…どういう…意味?」
ソンヒョンの声はいつもより気だるげだ。
一方チャンヒは思わず言ってしまったことに対して焦ってしまい、頭の中で考えがまとまらない。
(えっ、えっ、言っちゃったわ。どうしよう、あなたがただ心配なのって言えばいい?それで誤魔化す?いや、でも…)
チャンヒは今まで彼への思いを秘めてきてはいたが、誤魔化したいとは思っていなかった。この気持ちを嘘で塗り固めたくないと思っていた。
(言ってしまおう…。言ってしまってから誰かのもとに嫁いだほうが、きっとこの気持ちに区切りをつけられるし…)
混乱していた考えがようやくまとまった。チャンヒは声が震えないよう、ぐっと腹に力を入れる。
「…私は」
その時、緊張のあまり喉がぎゅっと閉まり、言葉が途切れる。
(ここまで来たんだから言うのよ!私…!)
「私は、ソンヒョンさんのことがとても心配なんです。でも、私はただの師匠の娘で、あなたの力になるのには限界があります…。私、ソンヒョンさんの傍でずっと力になりたいんです。ソンヒョンさんの頑張る姿を見てると、私も頑張ろうと思えるんです。だから…っ」
無我夢中で思っていたことを言葉にした。しかしここまで来て、自分はソンヒョンへの思いを告げるだけで、結婚を申し込むことはできないのだと気がついた。
何故こうなっているのかというと、母は人づてに何人かと見合い話を設けようとしたのだが、どうやら父が反対して、その話も流れてしまうようだ。父は自分が認めた男でなければ結婚は認めたくないようで、このことからチャンヒはまだ嫁ぎ先も決まっていない。
しかしチャンヒにとってこの状況はむしろ都合が良かった。なぜなら、ソンヒョンと共に過ごす時間が増えていくに連れ、彼の優しさや誠実さを知っていき、惹かれてしまっていたからだ。と言っても年頃の娘の婚姻の主導権は親がするものなので、この気持ちを持て余していた。
そのソンヒョンはというと、めきめきと頭角を現し、ジホの弟子の中では一番鍛刀が上手くなっていた。これは彼の元来の才能と、人並みならぬ努力の賜物だろう。ソンヒョンはそんな状況でも慢心したりせず、相変わらず毎夜遅くまで作業場に篭っており、チャンヒは夜食を届け続けた。
その日の夜も、チャンヒは作業場を訪れ、夜食をソンヒョンに手渡した。
「チャンヒさん、いつもありがとう。」
ソンヒョンはそれを受け取る時、毎回欠かすことなく礼を言う。もし届けた時に手が離せなかった場合でも、朝に顔を合わせた時に、感謝の言葉をかけられた。チャンヒはその何気ないことにも感謝を忘れないソンヒョンを尊敬していた。
「いえいえ、いつもお疲れ様。」
彼の優しい眼差しを見て胸が高鳴るのを抑えながら、努めてにこやかに言葉を返す。しかしその途中で、彼の表情がいつもと比べて活気がないことに気がつく。
「…ソンヒョンさん、何かありましたか?」
「うん?どう言うこと?」
「えっと…。いつもよりしんどそうに見えて。体調は大丈夫ですか?」
「ばれたか…。チャンヒさんは相変わらず鋭いなぁ」
その気まずそうに笑った目の下に、隈ができている。
「師匠にある武人の鍛刀を任されたんだ。それで思わず根を詰めてしまって。」
それを聞いたチャンヒは、思わずえっ、と叫びそうになった。わずか2年で依頼を任される弟子など、今まで聞いたことがなかったからだ。そして、驚きとともに興奮してきて、
「すごい!ソンヒョンさん、信頼されているんですね。」
と勢いに任せて言ってしまった。しかし、彼のやつれている理由はそのことなのだから、手放しに喜んで良かったのかと、チャンヒははたと考え込む。
「ありがとう。」
しかし、ソンヒョンはその事を気にしていなかったのか、口元を緩めて笑った。
「じゃあ俺は作業するから…。おやすみ」
そうソンヒョンが言葉を続け、チャンヒに近づくように一歩踏み出そうとした瞬間、彼の体勢が大きく傾いだ。
「ソンヒョンさん!」
慌てて支えると、彼の体は驚くほどに熱かった。これは、鍛刀のためにずっと火にあたっていたからと言うわけではない。彼自身が熱を発しているのだ。
とりあえずチャンヒはその場にあった布の上に彼の頭を載せるようにして横たえる。
「チャンヒさん、申し訳ない…。ありがとう」
今まで体に鞭を打っていた分が、どっと体に現れたのだろう。彼の声は弱々しかった。
「こんなに体は疲れてるんですから、今日はもう休んでください」
チャンヒの言葉に対し、ソンヒョンは首を横に振る。そうだ、彼は何かを成し遂げるためには、絶対に引き下がらない性分だ。それは彼の弟子入りの頃から知っていることだった。そのためか、彼は自身の体の悲鳴さえも聞き入れない。
「もっと…もっと支えられたらいいのに…」
思わずチャンヒの口からそう言葉が溢れでた。
「…どういう…意味?」
ソンヒョンの声はいつもより気だるげだ。
一方チャンヒは思わず言ってしまったことに対して焦ってしまい、頭の中で考えがまとまらない。
(えっ、えっ、言っちゃったわ。どうしよう、あなたがただ心配なのって言えばいい?それで誤魔化す?いや、でも…)
チャンヒは今まで彼への思いを秘めてきてはいたが、誤魔化したいとは思っていなかった。この気持ちを嘘で塗り固めたくないと思っていた。
(言ってしまおう…。言ってしまってから誰かのもとに嫁いだほうが、きっとこの気持ちに区切りをつけられるし…)
混乱していた考えがようやくまとまった。チャンヒは声が震えないよう、ぐっと腹に力を入れる。
「…私は」
その時、緊張のあまり喉がぎゅっと閉まり、言葉が途切れる。
(ここまで来たんだから言うのよ!私…!)
「私は、ソンヒョンさんのことがとても心配なんです。でも、私はただの師匠の娘で、あなたの力になるのには限界があります…。私、ソンヒョンさんの傍でずっと力になりたいんです。ソンヒョンさんの頑張る姿を見てると、私も頑張ろうと思えるんです。だから…っ」
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