華の剣士

小夜時雨

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番外編

受け継がれしもの 肆

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「…肩をお貸ししましょうか?」

  込み上げる笑いを喉に押し込んで、ソンヒョンと目線を合わせてそう尋ねた。笑いそうになったものの、チャンヒも長時間座ることでやって来る痺れの辛さは知っている。ソンヒョンの座っていた時間は日常生活のものとは比ではないし、寒い中、硬い地面に座っていたのだ。チャンヒは彼の苦しみを推し量り、思わず眉を顰めた。

「…ありがとう。でも、少し時間を頂ければ動けそうです。」

  よほど辛いのだろう。チャンヒの提案に逡巡した様子だった。チャンヒも年の近い異性に肩を借りるのは抵抗があるかとも思っていたので、むしろ迷った様子であったことが、少し驚いた。今日出会ったばかりの二人だったが、ジホという難敵と渡り合ったことで、急速に親密になったからかもしれない。
  ソンヒョンはしばらくじっとしていたが、よろめきながらも立ち上がる。そして、ジホの元へと向かった。
  その後はソンヒョンがジホの後を継ぎ、王家御用達の剣の作り手となったことからもわかるように、ジホはソンヒョンの熱意に負けて、弟子として迎えた。
  その後のソンヒョンの鍛刀への熱意は凄まじかった。どんな熱心な弟子たちよりも鍛冶場にこもり、鉄と炎に向き合い続けた。彼の穏やかな性分からは想像もつかないほどの命を削るような打ち込み様は、ある者は君悪がったし、ある者は職人に向いていると手放しで褒めた。しかしチャンヒは、彼が過剰なほどに熱意の注ぐ姿に、別の感情を抱いていた。

「なぜ、ソンヒョンさんはそんなに焦っているの?」

  それはソンヒョンが夜を徹して刀を作るようになり、チャンヒが夜食を届けるのが習慣となった頃だった。その日のソンヒョンは顔色が土のようで、心配になってしまってつい、日頃思っていたことが口をついて出てしまったのだ。
  粟の粥と漬物を付け合わせた夜食を食べていた彼は、虚を衝かれたような表情を見せ、食べる手を止める。そして、何かを考えているように目を逸らした後、

「焦ってるように、見えましたか…?」

と穏やかな笑みを見せた。

「はい。弟子入りが他の人よりも遅かったからかなぁと思っていたんですが、違いましたか?」

チャンヒの問いに、ソンヒョンはうーん、とまたもや考え込んでいる。本当に違っていたのだろうか。

「それも…それも確かにそうなんですが、私は他の人よりも時間が限られているんです」

彼は眉を下げ、苦笑にも似た笑みを浮かべる。
  それはどう言った意味なのだろうか。なぜ、そのような表情をするのか。チャンヒはその言葉の意味を真に理解することが怖かった。彼は何か重大なことを秘密にしているのだ。

「さぁ、チャンヒさん。もう夜も遅いです。あなたは母屋に戻ってください」

  言葉に詰まっているチャンヒを他所に、ソンヒョンは立ち上がって、外に出るよう促すように、チャンヒの背を軽く叩く。

「はい…」

  思わずその言葉に乗せられたチャンヒは、作業場を後にした。


  
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