華の剣士

小夜時雨

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城を離れて向かうのは

誓い

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  とうとう明日が出立の日となった。ハヨンはいつものようにリョンヤンの護衛をしている。
  昨日までは、滓に向かうための準備で、人がばたばたと行き交っていた。しかし、明日のことを考えれば、もっと人が慌ただしく動いていてもおかしくないのに、いまは妙に静かで、走り回る者など誰もいない。

「明日には出立ですね。ハヨンがいなくなると、きっと寂しくなるでしょう。」
「何を仰るのですか、リョンヤン様。」

  ハヨンはそんなことを言われるとたまらなく恥ずかしい気持ちになった。どうも彼女は真っ直ぐに好意を伝えられると照れてしまう質のようだ。
  ハヨンは照れているのを見られたくなくて、少し顔を逸らす。そんな彼女の様子を見て、リョンヤンはくすくすと笑った。

「照れてるんですか?」
「…言われ慣れてないもので。」

  ハヨンは女友達とべったりと過ごすわけでもなかったし、一度も恋をしたこともかった。それだからか家族以外の人にそう言う言葉を言われるのはかなり珍しいのだ。
  ハヨンがようやく顔を元に戻した時、リョンヤンの表情はなんだか苦しそうだった。

「どうかされましたか?」

  具合が悪いのかと、身を乗り出したが、違う、とリョンヤンに手で制される。

「ハヨン…。何があるとは私もわからないのですが、何か城内で不穏な動きが活発になっているようです。もしかするとあなたがここに戻ってきたときには、何か起こっているかもしれない。」

  ハヨンはこんなに歯切れ悪く語るリョンヤンを初めて見た。眉間に皺を寄せ、視線はどことなく下を向いている。

「どうか、どうか無事に戻ってきてください。ハヨンもリョンヘも私の大事な人ですから…」

  リョンヤンはハヨンの両手を手にとり、懇願するような目でハヨンを見つめる。

「私もリョンヘ様も必ず無事に戻ると誓います。リョンヤン様もどうかお気をつけください。」

  例えようもない不安がハヨンに襲ってきたが、必ずリョンヤンの願いを叶えようと心に決めた。

(リョンヤン様の命とならば…。いや、私にとって大事な人の願いだから…)

  ハヨンはリョンヤンと取り合った手に、力と意思を込めるのだった。
 
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