華の剣士

小夜時雨

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おもてなし

決着

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「刀だけで専属の護衛は務まらんな。ならばここからは素手のみで戦おうではないか」

  ジンホは刀を鞘に収め、昔から伝わる古武術の構えをとった。

「どこからでもかかってこい」

  そうジンホに声をかけられ、ハヨンが勢いよく顎に向かって足を蹴りあげた。

「うわぁ…」

  部下がそう言ってため息をついたのは、ハヨンが迷いもなく王子の急所を狙ったからだ。

「大丈夫ですよ、いつもより勢いがないので加減しているのでしょう。それにほら、はったりだったようですし」

  ハイルも内心ではひやりとする。本当は部下にそう言って説明することで、ハヨンは本気でジンホとやり合っていないと心に言いきかせていたのだ。そうでもしないと、ハイルの寿命が縮みそうだ。そのあとハヨンは足をずらして肩にあて、ジンホを少しよろめかせた。
  そもそも攻撃がハヨンの真骨頂ではない。守りが主な戦い方だから、ハヨンの攻撃はやはり普通より威力が劣る。
  そして、次はジンホが拳を交互に出してハヨンを反撃したが、ハヨンは腕で受け止めて少し後ずさった。
  ハヨンとの距離ができたので、ジンホが助走をつけながらハヨンに拳を振り上げたが、ハヨンは彼を背中に乗せるようにして投げた。
  皆の歓声があがったが、ジンホはすぐさま背中で受け身をとって立ち上がる。          
  次に、そこにすかさずハヨンが飛び蹴りをくらわせようとしたが、足をつかんで投げられた。
  はっと皆は息を呑んだが、彼女は宙返りして地面に着地する。なかなか決着はつかない。

「面白い体術を使うな」

  ジンホがハヨンにそう話しかける。

「はい、教えてくださった方が異国の方でして…」

  ハヨンは肩で息をしながらそう答えて笑った。もう涼しい顔で戦う程余裕はないようだ。

「長いですね…」

  ハヨンが刀と体術を組み合わせれば、大抵の兵士はたじたじとなり、短時間で勝敗が決する。
  流石に白虎の隊員では互角だが、一般的に武道を嗜む程度ではハヨンに勝てる者はいない。彼女は体力や腕力の足りない部分は頭脳を駆使し、そして生まれ持った才能も含めると相当な強さだ。
  さすが武術に優れた大国の王子というべきか、ジンホ程涼しげな表情でハヨンと戦える者は滅多にいない。
  しばらく無言でハヨンとジンホは拳や蹴りを交えていたが、とうとう機会をうかがっていたらしい。ハヨンがジンホの姿勢が少し崩れた時に、足払いをかける。
  思わず歓声があがったが、ジンホはなんとか体勢を立て直し、ハヨンに拳をつきだした。
  ハイルはそのとき、ハヨンが勝ったと思った。ハヨンの特技は、相手の腕をつかみ、相手の勢いを利用して、投げ飛ばすことだ。
  しかし、ハヨンの技は上手くきまらず、ジンホが逆にハヨンを投げ飛ばした。完全に倒れこんでしまったので、ハヨンの敗北となる。
  兵士たちは皆どよめいた。

「よい勝負だった。燐の国の兵士は優秀だな」

  ジンホがハヨンに片手をさしのべた。

「お褒めにあずかり光栄でございます」

  その時、皆は無愛想なジンホが初めて笑顔になったのをしかと見たのだった。









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