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人は恋に踊らされる
おかしな展開 弐
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ハヨンはこの忙しい間にぽつんとできた空き時間に困っていた。
(どうしよう。何もすることがない…)
人は忙しいことにいつの間にか慣れてしまうのだろうか。ハヨンは久しぶりに休めるというのに、不安を感じていた。
(何か練習しようかな…。)
ハヨンはそう考えて、いつもの中庭へと移動を始める。
「やや。これはこれはハヨン殿ではありませんか。」
突然廊下で声をかれられた。初めて聞く声で、ハヨンは誰だと振り返る。以前宴会に参加していた貴族のようだった。
「キル・アンビョ様。お久しぶりです」
ハヨンが軽く礼をすると、彼は会釈を返す。確か彼は、優秀な文官を数多く輩出している名門貴族の一人だ。文官として入った頃から出世街道真っしぐらな彼だが、その為かどうも性格に難があると、ハヨンは風の便りに聞いていた。
(何としても穏便に事を終わらせたい…)
あまり深く関わりたくないのが本音である。
「良かった。前からあなたと話がしたかったのです。」
その上、アンビョがあまりにも嬉しそうにそう言ったので、ハヨンは何やら嫌な予感がした。
(いや、私は全く嬉しくないのだけれど…。まさか彼があの貴族だなんてことは…)
彼がハヨンを見初めて、叔父の家を訪ねた貴族だとしたら、余計に話がややこしくなりそうだ。ハヨンは内心頭を抱えた。
「私はあなたにあの日、感じたのです。あなたほど私にふさわしい方はいないと!あなたは立ち振る舞いも美しいし、控えめで、いざという時は凛々しくなる。私はこんな女性を求めていたんだ…!!」
とうとうアンビョはハヨンの手を握って語りだす。ハヨンの予想は的中した。
(なんだろうこの詩人のような台詞は)
ハヨンは呆れ返ったが、そのまま手を握られて話続けられても困る。とにかくすっぱり離れることだと決めた。
「あの。すみません。私今から仕事があるので離していただけませんか。」
ハヨンはできるだけ穏便に事を済ませようと笑顔で言ったのだが、彼には何やら逆効果だったらしい。
「おや、恥ずかしがらなくてもいいのですよ。まぁそこが可愛らしいのですが。」
どうしてこうも勘違いの激しい言葉が次々と飛び出るのだろうとハヨンは開いた口が塞がらない。
その上、とても不快だった。彼はハヨンの人柄について、自分の理想だと勝手に思い込んで、美しいだとか、控えめだとか、可愛いなどと言ってくる。あいにくハヨンは、自身にそのような魅力があると微塵も思っていない。仕事のためであれば、泥だらけにも汗だらけにもなるし、王子を守るためであるなら、がめつくもなるのだ。
さらに、ハヨンの事を決めつけて、こんな性格だと枠を作り、何でもかんでもハヨンの言動をそこに押し込もうとすることに、酷く苛立ちを感じた。
「アンビョ様。どうかお手を離してはいただけませんか。」
ハヨンは普段より声を低める。彼は少し怖じ気づいたようで手に込める力を緩めた。その時に少し乱暴に手を振り払う。彼の手の温もりが、まだ自身の手に残っているような気がして、ぞわりとした。
彼は貴族でもそこそこ地位もあるので、ハヨンの対応によっては出世の道を断とうとしてくる可能性がある。ハヨンはいかにして彼の勘に触ることなく対処できるか頭を悩ませた。
とりあえずアンビョもハヨンが不機嫌なのはわかったらしい。
「君は堅い貝のようだね。決して私に心を開いてくれないだ」
と呟くのを聞いて、ハヨンは一層、鳥肌が立つのを感じた。
「何で君はここにいるんですか?王に謁見ですか?それとも誰かこの城にいる貴族と恋仲とか?」
ハヨンは腰に携えていた剣を彼に見えやすいように、手で少し持ち上げる。
「私はここで働く兵士の一人です。僭越ながらリョンヤン様にお仕えしております、白虎隊のハヨンと申します。私が城にいる時は執務中ですので、私的なことでのお声かけは控えていただけませんか。」
アンビョはハヨンの剣を見てたじろぐ。どうやら本当にただのお転婆な娘だと思っていたらしい。
「…それはあなたの本望ですか?」
「は?」
しばらくしてそう言われてハヨンは目が点になった。ハヨンには彼の言葉の意図がわからない。
「あなたも腕が立つので無理矢理このような仕事をなさっているのでしょう?女性にしては野蛮な仕事です。一刻も早く止めた方がよろしいですよ。」
王に抗議しなければ、とアンビョさ言い出してハヨンは慌てて彼を引き止める。
一体どのような思考回路をしているのだろう。これでよく文官なれたな、とハヨンは頭のどこかで、冷めた事を考えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!私は自分の意思で…!」
「そう誰かに言えと言われているのでしょう?ならば一緒に行きましょう。」
ハヨンはアンビョにぐいぐいと引っ張られる。先程の力とは比べものにならず、素早さや独特な戦法で腕力の無さを補っているハヨンでは、その手を振り解くことが出来なかった。
(どうしよう。何もすることがない…)
人は忙しいことにいつの間にか慣れてしまうのだろうか。ハヨンは久しぶりに休めるというのに、不安を感じていた。
(何か練習しようかな…。)
ハヨンはそう考えて、いつもの中庭へと移動を始める。
「やや。これはこれはハヨン殿ではありませんか。」
突然廊下で声をかれられた。初めて聞く声で、ハヨンは誰だと振り返る。以前宴会に参加していた貴族のようだった。
「キル・アンビョ様。お久しぶりです」
ハヨンが軽く礼をすると、彼は会釈を返す。確か彼は、優秀な文官を数多く輩出している名門貴族の一人だ。文官として入った頃から出世街道真っしぐらな彼だが、その為かどうも性格に難があると、ハヨンは風の便りに聞いていた。
(何としても穏便に事を終わらせたい…)
あまり深く関わりたくないのが本音である。
「良かった。前からあなたと話がしたかったのです。」
その上、アンビョがあまりにも嬉しそうにそう言ったので、ハヨンは何やら嫌な予感がした。
(いや、私は全く嬉しくないのだけれど…。まさか彼があの貴族だなんてことは…)
彼がハヨンを見初めて、叔父の家を訪ねた貴族だとしたら、余計に話がややこしくなりそうだ。ハヨンは内心頭を抱えた。
「私はあなたにあの日、感じたのです。あなたほど私にふさわしい方はいないと!あなたは立ち振る舞いも美しいし、控えめで、いざという時は凛々しくなる。私はこんな女性を求めていたんだ…!!」
とうとうアンビョはハヨンの手を握って語りだす。ハヨンの予想は的中した。
(なんだろうこの詩人のような台詞は)
ハヨンは呆れ返ったが、そのまま手を握られて話続けられても困る。とにかくすっぱり離れることだと決めた。
「あの。すみません。私今から仕事があるので離していただけませんか。」
ハヨンはできるだけ穏便に事を済ませようと笑顔で言ったのだが、彼には何やら逆効果だったらしい。
「おや、恥ずかしがらなくてもいいのですよ。まぁそこが可愛らしいのですが。」
どうしてこうも勘違いの激しい言葉が次々と飛び出るのだろうとハヨンは開いた口が塞がらない。
その上、とても不快だった。彼はハヨンの人柄について、自分の理想だと勝手に思い込んで、美しいだとか、控えめだとか、可愛いなどと言ってくる。あいにくハヨンは、自身にそのような魅力があると微塵も思っていない。仕事のためであれば、泥だらけにも汗だらけにもなるし、王子を守るためであるなら、がめつくもなるのだ。
さらに、ハヨンの事を決めつけて、こんな性格だと枠を作り、何でもかんでもハヨンの言動をそこに押し込もうとすることに、酷く苛立ちを感じた。
「アンビョ様。どうかお手を離してはいただけませんか。」
ハヨンは普段より声を低める。彼は少し怖じ気づいたようで手に込める力を緩めた。その時に少し乱暴に手を振り払う。彼の手の温もりが、まだ自身の手に残っているような気がして、ぞわりとした。
彼は貴族でもそこそこ地位もあるので、ハヨンの対応によっては出世の道を断とうとしてくる可能性がある。ハヨンはいかにして彼の勘に触ることなく対処できるか頭を悩ませた。
とりあえずアンビョもハヨンが不機嫌なのはわかったらしい。
「君は堅い貝のようだね。決して私に心を開いてくれないだ」
と呟くのを聞いて、ハヨンは一層、鳥肌が立つのを感じた。
「何で君はここにいるんですか?王に謁見ですか?それとも誰かこの城にいる貴族と恋仲とか?」
ハヨンは腰に携えていた剣を彼に見えやすいように、手で少し持ち上げる。
「私はここで働く兵士の一人です。僭越ながらリョンヤン様にお仕えしております、白虎隊のハヨンと申します。私が城にいる時は執務中ですので、私的なことでのお声かけは控えていただけませんか。」
アンビョはハヨンの剣を見てたじろぐ。どうやら本当にただのお転婆な娘だと思っていたらしい。
「…それはあなたの本望ですか?」
「は?」
しばらくしてそう言われてハヨンは目が点になった。ハヨンには彼の言葉の意図がわからない。
「あなたも腕が立つので無理矢理このような仕事をなさっているのでしょう?女性にしては野蛮な仕事です。一刻も早く止めた方がよろしいですよ。」
王に抗議しなければ、とアンビョさ言い出してハヨンは慌てて彼を引き止める。
一体どのような思考回路をしているのだろう。これでよく文官なれたな、とハヨンは頭のどこかで、冷めた事を考えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!私は自分の意思で…!」
「そう誰かに言えと言われているのでしょう?ならば一緒に行きましょう。」
ハヨンはアンビョにぐいぐいと引っ張られる。先程の力とは比べものにならず、素早さや独特な戦法で腕力の無さを補っているハヨンでは、その手を振り解くことが出来なかった。
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