華の剣士

小夜時雨

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人は恋に踊らされる

及ばぬ力

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「え?あぁ、この前の恰好、良かったと思うよ。普通に貴族の娘だって言われても何の遜色もいらない立ちふるまいだったし、ハヨンの叔父を通して縁談を申し込んだ貴族も何人かいたそうだし」
「ええっ!?」

  久しぶりに、朝にリョンに会ったハヨンは昨日のことを告げるとそう返されたので心底驚いた。

(叔父様にそんな話聞いてないんだけど…。)
「あれ。その様子じゃあ何も聞いてなかったのか?まぁ、あんたが今仕事で忙しいのはわかりきっているし、あの人も当たり障りの無い言葉で断ったんだろう。」

  リョンはそう言いながら地面に座り込んだ。どうやらここに長いこと居座るつもりのようだ。ハヨンもそれに倣って隣に座る。

「でもその貴族の方と顔を会わせたときに居心地悪いから、叔父様も教えてくださればいいのに。」

  ハヨンはいつか兵士の格好で、その貴族たちと遭遇する場面を想像して身震いした。彼らに何を言われるかわかったものではない。

「大丈夫だって。何かあったときは俺が何となく話を無かったことにしておくから。」
「それはすごく助かるけど、いいの?」

  ハヨンは思わず食いついてしまったが、よくよく考えると王族の権力をつかわせることに気がついて慌てる。

「あ、でもやっぱり私…。自分で何とかするよ。」
「そうか…。でも何かあったら言うんだぞ。」
「うん。ありがとう」

  ハヨンが恐れ多く感じているのを察したのか、あっさりと引き下がる。
  ハヨンはそしてずっと聞きたかった話題を挙げることにする。

「そう言えばこの前の街のことはどうなったの?」

  リョンは顔を曇らせる。何か悪いことでもあったのだろうか、とハヨンはすっと心が冷えていくような気がした。

「…。あの街の人身売買は徹底的に取り締まりされた。けど、その他に睦の動きが不穏だということで、国の防衛が優先される羽目になった…。」

  ハヨンはリョンの苦しげな表情を見て、何と声をかければいいのかわからなくなった。
  ハヨンとリョンが最初に訪れた街は苦しい中でも幸せを見いだそうと皆がもがいていた。食べていくのでさえ必死のようだった。
  その上ヒョンテは最近、流行病の治療が大変だとも言っていた。町の人達は様々なことに苦しんでいる。

(確かに他国からの攻撃に備える必要はある。でもこの国が成り立っているのは町の人達がいるからなのに…)

  王と家臣だけでは何も成り立たない。経済、文化そういったものは全て国民がいるからこそ動いて行く。そして国民を背負う役割の王や家臣達が国民をほっぽり出してどうすると言うのだろう。他の貴族が言う国防も、民たちがこんな状態では守りきることなどできない。
  ハヨンはひしひしと心の内から沸き上がってくる怒りをどう宥めればよいかもて余していた。

「リョン、私大した力は無いけど、できる限り力を貸すよ。何かあったら言ってね。」

  リョンははじかれたように顔をあげる。そこには戸惑いの表情が浮かんでいた。

「あんたは…リョンヤンに仕えているだろう?」
「それはそうだけど。リョンヤン様はそういった政治のことは私には何もおっしゃってこない。普通何かあるんだったら一番近くにいる護衛する兵士達に何か言うはずでしょう?だから私は思うようにやってみようと思うの。私も町の人達の力になりたいから…」

  懸命に明るく生きようとする彼らに心を動かされた。そしてリョンの愛する彼らに苦しい思いをさせたくない。ハヨンはそう思うのだ。

「たとえリョンの願いだとしても、リョンへ様の命令だとしても私は動くから。いつでも迷わずに頼ってね。」

  ハヨンがそう言うと、リョンは少し掠れた声で、ありがとうとだけ答えたのだった。




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