華の剣士

小夜時雨

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剣士の休日

里帰り 肆

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「ありがとね、ハヨン。手伝ってくれるなんて。せっかくの休みなんだからゆっくりすればいいのに」
「いいのいいの。いつもは母さんの手伝い出来ないからね。」

  結局ヨウと夜を明かしたあと、ハヨンはチャンヒの畑仕事を手伝っている。畑仕事を手伝うなんて、初めてのことだ。
  一緒に住んでいた頃も鍛練ばかりで、ほとんど手伝ったことがない。父はハヨンが幼い頃に他界し、女手一つで育て、さらに家計を支えるべく仕事をしていたチャンヒには頭が上がらない。
  ハヨンも医術師のもとで手伝いをしていたので、少しは金を稼いでいたものの、ほとんど家のことは母に任せっきりだった。
  ハヨンは鍬を振り上げて畑を鋤いていく。できるだけ自分が力仕事をやろうとしたが、思ったよりも鍬は重かった

(あんな細腕でこれを持っていたのか…。)

  父が生きていて、鍛冶屋を営んでいたとき、母は肌が透けるように白く、綺麗だった。父からも「昔はそこら中の男が、母さんをお嫁さんにしたいと思っていたんだよ。」と聞かされていた。
  しかし今は日に焼けた顔を、土埃で汚しながら、まめのたくさんできた手で鍬を使ったりしている。

(いつか母さんを楽にしたい…)

  父の妹、つまり自分の叔母がハヨンを訪ねて来たとき、貴族の生活を母は望んでいないと同居を断った。叔母のもとで暮らせば、確かに安定した生活を送れるが、父以外に繋がりのない人間と同居するのは息が詰まる。チャンヒに叔母の申し出のことを文で送った時、チャンヒも亡くなった父の縁で世話になるのは心苦しいと返事が来た。しかし、本当はハヨンも、チャンヒに苦労のない毎日を送ってほしい。ハヨンは、自分の力で住まいを買い、母に親孝行しようと心に決めていた。

「あら、やっぱりハヨンがいると仕事が速く終わるわねぇ。」

  暫くしてすっかり整えられた畑を見て、嬉しそうにチャンヒが笑った。

「他にすることはない?」
「そうねぇ。もうすぐ春先でしょう?だからこの種を蒔きたいの。」

  ハヨンはチャンヒの隣に座って黙々と種を蒔き始めた。

「ねえ母さん、城の中って意外に大変だね。それぞれの思惑が錯綜しすぎて、みんなが誰かの裏をかこうとしてる。」

  少しでも王族に気に入られて権力を得るため。私腹を肥やして贅沢に暮らすため。

「でもね、そんな中でも自分が正義だと思うことを貫き通そうとしている人がいたの。」

  時に街に赴き、自分の目で見たことを人々に訴える人。人々に何かを与えたがっている人。 

「それに、自分の責任を果たそうと精一杯な人もいる。彼はとても優しくて、と周りが穏やかな気持ちになるの。」

  時に体が不調にも関わらず、無理をおして仕事に励み、ハヨンにいつも笑みを見せる人。

「だからね、今は城の中で過ごすことでもいっぱいいっぱいだけど、その人たちのために頑張ろうって思えるの。」

 そして気のいい仕事仲間や、頼りになる人。
  もちろんハヨンに良くない感情を抱き、敵対心をさらけ出す者もいる。だがハヨンが今を頑張って生活しているのは、そうして支えてきてくれた人や支えたい人がいるからだ。

「だから昔はあんな理由で兵士を目指したけど、今はそれだけじゃなくて、たくさんのことを守りたいから城にいるんだ。だから、母さんは心配しないで大丈夫だからね。」

  ハヨンは昨日、チャンヒが会話の中で、少しそわそわしながら何度か人間関係について尋ねてきたことを覚えていた。そのため、ゆっくりと自分の考えたことを伝えたかったので、ヨウがいない今、このことを伝えたのだ。

「…それは良かったわ。ハヨンが今の生活が充実しているなら嬉しい。やっぱりハヨンは特殊だから目立っちゃうでしょう?だから前から少し心配してたの。今のその表情を見て安心したわ。」

  チャンヒの見せた笑顔は昨日と今日の中で一番晴れやかだった。






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