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剣士の休日
里帰り
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(なんだかんだで忙しい一日だったなぁ。)
ハヨンはリョンと別れた後、一人故郷への道を歩きながら、今日一日のことをふりかえる。
男を兵士に引き渡した後、素性がばれたくなかった二人はそっと街を抜け出したのだ。
リョンはあの街の兵士達が職務を全うしていなかったことに激怒し、城に帰って即刻会議を開いて、他にも人身売買を行っている町がないか立ち入り調査や、駐屯地の兵士の入れ替えを要請するつもりらしい。
リョンにいろいろと巻き込まれたので、ハヨンは当初の予定よりだいぶん遅れている。
(家につくのは今日の真夜中かな。)
いっそのこと走るか、と思ったがせっかくの休日にこれ以上走るのはごめんだと思い直す。
すると後ろから、がらがらと荷馬車の近づいてくる音がした。
(農家の人が街から帰ってきているのか)
そう考えながら歩いているとなんとその荷馬車がハヨンの真横に停まる。
「ヨウさん!」
見上げると見知った顔だったのでハヨンは思わず叫ぶ。日焼けした顔のヨウは薄暗くなった空の下だと白い歯がやたらと光って見えた。
「帰ってくると聞いたから迎えに行ったのに、どこにもお前を見かけないんで焦ったよ。どこに行っていたんだ?」
そう言いながらヨウは荷馬車の座席にハヨンが座れるように少し席を詰め、ほら乗った乗った、とハヨンに手を差しのべる。礼を言ってヨウの手を掴んだハヨンは、荷馬車に乗ってから答えた。
「友達と最近怪しい動きを見せてる町に行ったの。人身売買が行われてるかもしれないから、調査がてらに。」
「その友達ってのは仕事仲間か?」
「ええ、ああうん。まぁね」
ハヨンの曖昧な答えにヨウは眉間の間に深く皺を作った。
「ハヨン、お前の今の主な仕事はなんだ?手紙の様子ではリョンヤン王子の専属護衛になったと言っておったが。まさか、誰かがお前に他の仕事も任せているのか?」
ハヨンはヨウの口ぶりが険しいのに気がついて、どうも変だと首をひねった。
「ううん、友達が最近町が変な様子だから調べたいって言ってて、方向が一緒だったから立ち寄っただけ。仕事とかではないよ。それにヘウォン様や、直属の教育係のハイルさんにはよくしてもらっているし。」
「そうか。」
ヨウは少し安心したように息を吐き、前を見据えた。しばらくの間気まずい沈黙が二人の間を支配する。
「あのな、ハヨン。俺はお前がやりたいようにやって、仕事を頑張っているのは嬉しいし、お前の夢だから後押しをしてやりたい。でもな、お前は性格的に本当に請け負う以上の苦労を背負い込む傾向がある。だから少し心配なんだよ。」
ハヨンは以前彼女が白虎に入るために厳しく指導していたヨウが、こんなにも寂しく弱々しく話すのを初めて見た。そのせいか彼の言葉はハヨンに強く響く。
(私とヨウさんは家族ではないけど…。やっぱりとても大切にされてる。)
父親を早くに亡くしたハヨンにとってもヨウは欠かせない大切な人だ。
「ヨウさん、心配してくれてありがとう。家についてからもっと詳しく話すけど、私は仕事は全部やりたいからやってるし、道理にかなってるから歯向かわずに全てこなしてるの。それに今日のことだって、街のみんなのために大切だと思って見に行ったの。だから苦労を背負い込んではいないよ。」
まさかその街で戦いましたなんてヨウには言えないが、ハヨンは心を込めてそう返した。仮に今日の本当のことを話せばヨウの寿命が縮みそうだ。
「それならいいが…。俺の弟子は全員俺の子供のようなものだ。だから本当は危険な目にはあってほしくない。でも兵士の道を進むなら危険を背負うのは当たり前のこと…。それでもお前の無事を願っていたら臆病なじじいだとお前はあきれるか?」
「そんなこと…!そんなの絶対にない。私はそう思っててくれて嬉しいよ。だからこの先何かがあっても生き延びようと思うもの。」
あの宴会での暗殺者と対峙した時は、さすがに自分が死に近づいていることを感じた。しかし、母やヨウのためにも生きたいと思ったのも事実だ。
(命をかけて主人を守ることが役目だって言う人もいるかもしれない。でも私は大切な人を悲しませたくないし、あの方の傍で仕えたいっていう気持ちもある。なら、二つとも大事にしようと思うのは変なのだろうか。)
「ヨウさん。ヨウさんは大切にしたいものがたくさんあったら、それをどうやって守り抜く?」
ハヨンの頭には、母やヨウ、リョンヤンにリョンヘ、だけでなく兵士の仲間や城下の人々の顔が思い浮かんだ。
「…それはもちろん全部守り抜くさ。そいつらをどれだけ大切にしているか、本人や周りのやつにも伝えてな。だから何かあっても、自分が信じている者に手を差しのべてもらえる。そして、その者が窮地に陥った時、自分の手にすがってくれる。それで全部を守っていくんだよ。」
(リョンヤン様がリョンを守ってくれと私に頼んだのは、リョンと仲が良いのとも、私の腕を見込んでというわけだけでは無いのかもしれない。)
ヨウの言葉を聞いてハヨンはリョンヤンの申し出への認識を、今一度考え直す。
「あと大切な者に順序をつけたり、全部守ることを諦めてはいけないと思うな。大切な者は等しく大切なんだ。そんなことをしたら失ったときにやっと自分がなんて愚かなことをしたのかと後悔することになる。」
(そう言えばリョンヤン様にリョンヘ様を守ってくれと頼まれた時、どちらを優先すればいいか、少し悩んだな。)
結局はどちらも守るという結論に至ったが、どちらの人が自分は大事か優先順位をつけるような行為だったので、自分はまだまだ未熟者だと思い知る。そう、結局のところどちらも失いたく無いのだ。
(ヨウさんのように考えられるようになりたいな)
目標であった白虎の隊員になるというのを叶えた今でも、この恩師には教えてもらうことがたくさんあるのだった。
ハヨンはリョンと別れた後、一人故郷への道を歩きながら、今日一日のことをふりかえる。
男を兵士に引き渡した後、素性がばれたくなかった二人はそっと街を抜け出したのだ。
リョンはあの街の兵士達が職務を全うしていなかったことに激怒し、城に帰って即刻会議を開いて、他にも人身売買を行っている町がないか立ち入り調査や、駐屯地の兵士の入れ替えを要請するつもりらしい。
リョンにいろいろと巻き込まれたので、ハヨンは当初の予定よりだいぶん遅れている。
(家につくのは今日の真夜中かな。)
いっそのこと走るか、と思ったがせっかくの休日にこれ以上走るのはごめんだと思い直す。
すると後ろから、がらがらと荷馬車の近づいてくる音がした。
(農家の人が街から帰ってきているのか)
そう考えながら歩いているとなんとその荷馬車がハヨンの真横に停まる。
「ヨウさん!」
見上げると見知った顔だったのでハヨンは思わず叫ぶ。日焼けした顔のヨウは薄暗くなった空の下だと白い歯がやたらと光って見えた。
「帰ってくると聞いたから迎えに行ったのに、どこにもお前を見かけないんで焦ったよ。どこに行っていたんだ?」
そう言いながらヨウは荷馬車の座席にハヨンが座れるように少し席を詰め、ほら乗った乗った、とハヨンに手を差しのべる。礼を言ってヨウの手を掴んだハヨンは、荷馬車に乗ってから答えた。
「友達と最近怪しい動きを見せてる町に行ったの。人身売買が行われてるかもしれないから、調査がてらに。」
「その友達ってのは仕事仲間か?」
「ええ、ああうん。まぁね」
ハヨンの曖昧な答えにヨウは眉間の間に深く皺を作った。
「ハヨン、お前の今の主な仕事はなんだ?手紙の様子ではリョンヤン王子の専属護衛になったと言っておったが。まさか、誰かがお前に他の仕事も任せているのか?」
ハヨンはヨウの口ぶりが険しいのに気がついて、どうも変だと首をひねった。
「ううん、友達が最近町が変な様子だから調べたいって言ってて、方向が一緒だったから立ち寄っただけ。仕事とかではないよ。それにヘウォン様や、直属の教育係のハイルさんにはよくしてもらっているし。」
「そうか。」
ヨウは少し安心したように息を吐き、前を見据えた。しばらくの間気まずい沈黙が二人の間を支配する。
「あのな、ハヨン。俺はお前がやりたいようにやって、仕事を頑張っているのは嬉しいし、お前の夢だから後押しをしてやりたい。でもな、お前は性格的に本当に請け負う以上の苦労を背負い込む傾向がある。だから少し心配なんだよ。」
ハヨンは以前彼女が白虎に入るために厳しく指導していたヨウが、こんなにも寂しく弱々しく話すのを初めて見た。そのせいか彼の言葉はハヨンに強く響く。
(私とヨウさんは家族ではないけど…。やっぱりとても大切にされてる。)
父親を早くに亡くしたハヨンにとってもヨウは欠かせない大切な人だ。
「ヨウさん、心配してくれてありがとう。家についてからもっと詳しく話すけど、私は仕事は全部やりたいからやってるし、道理にかなってるから歯向かわずに全てこなしてるの。それに今日のことだって、街のみんなのために大切だと思って見に行ったの。だから苦労を背負い込んではいないよ。」
まさかその街で戦いましたなんてヨウには言えないが、ハヨンは心を込めてそう返した。仮に今日の本当のことを話せばヨウの寿命が縮みそうだ。
「それならいいが…。俺の弟子は全員俺の子供のようなものだ。だから本当は危険な目にはあってほしくない。でも兵士の道を進むなら危険を背負うのは当たり前のこと…。それでもお前の無事を願っていたら臆病なじじいだとお前はあきれるか?」
「そんなこと…!そんなの絶対にない。私はそう思っててくれて嬉しいよ。だからこの先何かがあっても生き延びようと思うもの。」
あの宴会での暗殺者と対峙した時は、さすがに自分が死に近づいていることを感じた。しかし、母やヨウのためにも生きたいと思ったのも事実だ。
(命をかけて主人を守ることが役目だって言う人もいるかもしれない。でも私は大切な人を悲しませたくないし、あの方の傍で仕えたいっていう気持ちもある。なら、二つとも大事にしようと思うのは変なのだろうか。)
「ヨウさん。ヨウさんは大切にしたいものがたくさんあったら、それをどうやって守り抜く?」
ハヨンの頭には、母やヨウ、リョンヤンにリョンヘ、だけでなく兵士の仲間や城下の人々の顔が思い浮かんだ。
「…それはもちろん全部守り抜くさ。そいつらをどれだけ大切にしているか、本人や周りのやつにも伝えてな。だから何かあっても、自分が信じている者に手を差しのべてもらえる。そして、その者が窮地に陥った時、自分の手にすがってくれる。それで全部を守っていくんだよ。」
(リョンヤン様がリョンを守ってくれと私に頼んだのは、リョンと仲が良いのとも、私の腕を見込んでというわけだけでは無いのかもしれない。)
ヨウの言葉を聞いてハヨンはリョンヤンの申し出への認識を、今一度考え直す。
「あと大切な者に順序をつけたり、全部守ることを諦めてはいけないと思うな。大切な者は等しく大切なんだ。そんなことをしたら失ったときにやっと自分がなんて愚かなことをしたのかと後悔することになる。」
(そう言えばリョンヤン様にリョンヘ様を守ってくれと頼まれた時、どちらを優先すればいいか、少し悩んだな。)
結局はどちらも守るという結論に至ったが、どちらの人が自分は大事か優先順位をつけるような行為だったので、自分はまだまだ未熟者だと思い知る。そう、結局のところどちらも失いたく無いのだ。
(ヨウさんのように考えられるようになりたいな)
目標であった白虎の隊員になるというのを叶えた今でも、この恩師には教えてもらうことがたくさんあるのだった。
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