華の剣士

小夜時雨

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剣士の休日

混沌

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「…ありがとう、ハヨン。」

  リョンはハヨンの両手を握りしめて言った。 

「ううん、私は当然のことを言ってるだけ。お礼は言わないで。だから遠慮なく相談して欲しいし、頼って欲しい。」
「俺、本当にいい友達を持ったよ。」

  リョンは少し目をそらしながらそう言った。それは照れ隠しだったのだろう、少し頬が赤かった。

(あの時、どうして王子だから距離は埋められないなんて思ってしまったんだろう)

  ハヨンは先日のことを後悔した。リョンはハヨンが大変な時、力になると言ってくれた。それなのにそんなことを考えてしまっていたなんて。
  リョンから歩み寄ってくれたのに、逆にハヨンがリョンを王子だからと線を引こうとしていたのだ。リョンはいつも友達でいてくれた。それなら自身も友達でいるべきなのだ。

(…リョンが差しのべてくれた手を、もう絶対に離してたくない…)

  ハヨンはそう心に決めたのだった。そんな時、隣のリョンが何かに気づいたようだ。

「あ、もうじき隣の街だ。」

  確かに目をこらすと家が立ち並んでいるのが見える。

「でも、さっきの町より随分と栄えてそうだね。」

  人々のざわめきがここまで伝わってくるし、どうやら人の行き来も盛んなようだ。

「なぜここまで活気があるか。ちょっと不思議じゃやないか?」

  リョンの言葉にハヨンは素直に首肯く。するとリョンはにやっと笑った。

「火のないところには煙は立たない、だね」



  町を覗いてみると、王都からは離れた場所にも関わらず、王都並みに栄えている様子だった。
  海にも近いようなので、外国との貿易が栄えているのかもしれない。少し異国風の食べ物や、雑貨なども売っていた。

「お嬢さん、この薬はいらないかい?隣の国から輸入した物でね、絶世の美人になれる薬だよ」

  道すがら、老婆にひきとめられる。見せられた薬は鮮やかな牡丹色だ。ハヨンは母と二人で暮らしていた時、医術師の手伝いをして家計を支えていた。しかし、そのような色や効能のある薬を一度も見た試しがない。明らかに怪しそうである。

「いえ、結構です。」

  老婆とは信じがたいほどの力で腕を掴まれたが、ハヨンは払いのけてさっさと歩き出す。町を見渡すと、細い路地などに、蹲っている人がちらほらといた。呆けたような表情の者もおり、精神的にも異常をきたしているようだ。

(病的な痩せ方…麻薬か。)

  隣を歩いていたリョンも察したらしい。思った以上に悪い状態に、顔をしかめていた。

「まずいな、ハヨン。何があっても逸れないようにしないと、この町は危険だ。」

  ハヨンも強く頷いた。ハヨンは城から支給されたり、それなりの報酬があるので、平民よりも服の質は良い。それにリョンも芸人に扮しているとはいえ、持ち物の端々からただ者ならぬ雰囲気は出ている。
  裏で宝物ほうもつを売買するもの等は目が肥えているから、すぐに裕福な者だと目星をつけて、下手をすれば追い剥ぎをされるかもしれない。

「でも何かあって、はぐれることになったら、私を置いてすぐにこの町を出てね。」
「何で。ハヨンを放っておけるはずがないだろう。」

  リョンはハヨンの言葉が気に食わないようで、眉をひそめ、まじまじとハヨンの顔を見る。

「だって、もしうろちょろして狙われたらどうするの。大勢で囲まれたら終わりでしょう?」
「それはあんたも同じだろ。」
「いいえ、私の仕事はリョンやリョンの家族を守ることです。だからリョンには傷を負わずにこの町を出て欲しい。できれば今すぐここを出たいけど…」

  思い直してはくれないか、とちらりとリョンと視線を合わせる。無理なのはわかりきっているのだが、そう願わずにはいられなかった。しかし、ハヨンの願いも虚しく、リョンは心に決めたようだ。

「いや、悪いけどみんなのために人身売買の現場だけはどこかを把握したい。だけど、ハヨンもはぐれたらすぐに町を出る。それだけは約束してくれたら、俺もそうする。」
「わかりました。」

  ハヨンはしぶしぶ頷くのだった。









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