60 / 221
剣士の休日
混沌
しおりを挟む
「…ありがとう、ハヨン。」
リョンはハヨンの両手を握りしめて言った。
「ううん、私は当然のことを言ってるだけ。お礼は言わないで。だから遠慮なく相談して欲しいし、頼って欲しい。」
「俺、本当にいい友達を持ったよ。」
リョンは少し目をそらしながらそう言った。それは照れ隠しだったのだろう、少し頬が赤かった。
(あの時、どうして王子だから距離は埋められないなんて思ってしまったんだろう)
ハヨンは先日のことを後悔した。リョンはハヨンが大変な時、力になると言ってくれた。それなのにそんなことを考えてしまっていたなんて。
リョンから歩み寄ってくれたのに、逆にハヨンがリョンを王子だからと線を引こうとしていたのだ。リョンはいつも友達でいてくれた。それなら自身も友達でいるべきなのだ。
(…リョンが差しのべてくれた手を、もう絶対に離してたくない…)
ハヨンはそう心に決めたのだった。そんな時、隣のリョンが何かに気づいたようだ。
「あ、もうじき隣の街だ。」
確かに目をこらすと家が立ち並んでいるのが見える。
「でも、さっきの町より随分と栄えてそうだね。」
人々のざわめきがここまで伝わってくるし、どうやら人の行き来も盛んなようだ。
「なぜここまで活気があるか。ちょっと不思議じゃやないか?」
リョンの言葉にハヨンは素直に首肯く。するとリョンはにやっと笑った。
「火のないところには煙は立たない、だね」
町を覗いてみると、王都からは離れた場所にも関わらず、王都並みに栄えている様子だった。
海にも近いようなので、外国との貿易が栄えているのかもしれない。少し異国風の食べ物や、雑貨なども売っていた。
「お嬢さん、この薬はいらないかい?隣の国から輸入した物でね、絶世の美人になれる薬だよ」
道すがら、老婆にひきとめられる。見せられた薬は鮮やかな牡丹色だ。ハヨンは母と二人で暮らしていた時、医術師の手伝いをして家計を支えていた。しかし、そのような色や効能のある薬を一度も見た試しがない。明らかに怪しそうである。
「いえ、結構です。」
老婆とは信じがたいほどの力で腕を掴まれたが、ハヨンは払いのけてさっさと歩き出す。町を見渡すと、細い路地などに、蹲っている人がちらほらといた。呆けたような表情の者もおり、精神的にも異常をきたしているようだ。
(病的な痩せ方…麻薬か。)
隣を歩いていたリョンも察したらしい。思った以上に悪い状態に、顔をしかめていた。
「まずいな、ハヨン。何があっても逸れないようにしないと、この町は危険だ。」
ハヨンも強く頷いた。ハヨンは城から支給されたり、それなりの報酬があるので、平民よりも服の質は良い。それにリョンも芸人に扮しているとはいえ、持ち物の端々からただ者ならぬ雰囲気は出ている。
裏で宝物を売買するもの等は目が肥えているから、すぐに裕福な者だと目星をつけて、下手をすれば追い剥ぎをされるかもしれない。
「でも何かあって、はぐれることになったら、私を置いてすぐにこの町を出てね。」
「何で。ハヨンを放っておけるはずがないだろう。」
リョンはハヨンの言葉が気に食わないようで、眉をひそめ、まじまじとハヨンの顔を見る。
「だって、もしうろちょろして狙われたらどうするの。大勢で囲まれたら終わりでしょう?」
「それはあんたも同じだろ。」
「いいえ、私の仕事はリョンやリョンの家族を守ることです。だからリョンには傷を負わずにこの町を出て欲しい。できれば今すぐここを出たいけど…」
思い直してはくれないか、とちらりとリョンと視線を合わせる。無理なのはわかりきっているのだが、そう願わずにはいられなかった。しかし、ハヨンの願いも虚しく、リョンは心に決めたようだ。
「いや、悪いけどみんなのために人身売買の現場だけはどこかを把握したい。だけど、ハヨンもはぐれたらすぐに町を出る。それだけは約束してくれたら、俺もそうする。」
「わかりました。」
ハヨンはしぶしぶ頷くのだった。
リョンはハヨンの両手を握りしめて言った。
「ううん、私は当然のことを言ってるだけ。お礼は言わないで。だから遠慮なく相談して欲しいし、頼って欲しい。」
「俺、本当にいい友達を持ったよ。」
リョンは少し目をそらしながらそう言った。それは照れ隠しだったのだろう、少し頬が赤かった。
(あの時、どうして王子だから距離は埋められないなんて思ってしまったんだろう)
ハヨンは先日のことを後悔した。リョンはハヨンが大変な時、力になると言ってくれた。それなのにそんなことを考えてしまっていたなんて。
リョンから歩み寄ってくれたのに、逆にハヨンがリョンを王子だからと線を引こうとしていたのだ。リョンはいつも友達でいてくれた。それなら自身も友達でいるべきなのだ。
(…リョンが差しのべてくれた手を、もう絶対に離してたくない…)
ハヨンはそう心に決めたのだった。そんな時、隣のリョンが何かに気づいたようだ。
「あ、もうじき隣の街だ。」
確かに目をこらすと家が立ち並んでいるのが見える。
「でも、さっきの町より随分と栄えてそうだね。」
人々のざわめきがここまで伝わってくるし、どうやら人の行き来も盛んなようだ。
「なぜここまで活気があるか。ちょっと不思議じゃやないか?」
リョンの言葉にハヨンは素直に首肯く。するとリョンはにやっと笑った。
「火のないところには煙は立たない、だね」
町を覗いてみると、王都からは離れた場所にも関わらず、王都並みに栄えている様子だった。
海にも近いようなので、外国との貿易が栄えているのかもしれない。少し異国風の食べ物や、雑貨なども売っていた。
「お嬢さん、この薬はいらないかい?隣の国から輸入した物でね、絶世の美人になれる薬だよ」
道すがら、老婆にひきとめられる。見せられた薬は鮮やかな牡丹色だ。ハヨンは母と二人で暮らしていた時、医術師の手伝いをして家計を支えていた。しかし、そのような色や効能のある薬を一度も見た試しがない。明らかに怪しそうである。
「いえ、結構です。」
老婆とは信じがたいほどの力で腕を掴まれたが、ハヨンは払いのけてさっさと歩き出す。町を見渡すと、細い路地などに、蹲っている人がちらほらといた。呆けたような表情の者もおり、精神的にも異常をきたしているようだ。
(病的な痩せ方…麻薬か。)
隣を歩いていたリョンも察したらしい。思った以上に悪い状態に、顔をしかめていた。
「まずいな、ハヨン。何があっても逸れないようにしないと、この町は危険だ。」
ハヨンも強く頷いた。ハヨンは城から支給されたり、それなりの報酬があるので、平民よりも服の質は良い。それにリョンも芸人に扮しているとはいえ、持ち物の端々からただ者ならぬ雰囲気は出ている。
裏で宝物を売買するもの等は目が肥えているから、すぐに裕福な者だと目星をつけて、下手をすれば追い剥ぎをされるかもしれない。
「でも何かあって、はぐれることになったら、私を置いてすぐにこの町を出てね。」
「何で。ハヨンを放っておけるはずがないだろう。」
リョンはハヨンの言葉が気に食わないようで、眉をひそめ、まじまじとハヨンの顔を見る。
「だって、もしうろちょろして狙われたらどうするの。大勢で囲まれたら終わりでしょう?」
「それはあんたも同じだろ。」
「いいえ、私の仕事はリョンやリョンの家族を守ることです。だからリョンには傷を負わずにこの町を出て欲しい。できれば今すぐここを出たいけど…」
思い直してはくれないか、とちらりとリョンと視線を合わせる。無理なのはわかりきっているのだが、そう願わずにはいられなかった。しかし、ハヨンの願いも虚しく、リョンは心に決めたようだ。
「いや、悪いけどみんなのために人身売買の現場だけはどこかを把握したい。だけど、ハヨンもはぐれたらすぐに町を出る。それだけは約束してくれたら、俺もそうする。」
「わかりました。」
ハヨンはしぶしぶ頷くのだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる