華の剣士

小夜時雨

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剣士の休日

希望を売る人

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「思っていた以上に町の雰囲気、まずいね…。」

   王都に近い場所は裕福な人も多く、商売も繁盛していたので、まだにぎやかだったが、そこから少し歩いて行くと、だんだんと町の活気が失われているように思えた。

「そうだな…。」

  人が住んでいるかもわからないような建物や、物乞いをする人たちがあちこちにいる。
  二人は少し沈んだ表情で、並んで歩いた。

「あ、リョンじゃない!」

  しばらくリョンとハヨンは黙って街の様子を見ていると、途中で若い娘に声をかけられる。

「やあユナ。久しぶり。」

  娘は質素な出で立ちではあるが、小さな髪飾りをつけるなど、身だしなみに気を遣っているようだ。しばらくの間、宮の華やかな世界を見ていたハヨンは、庶民との生活との格差を、再認識する。

「随分と見かけなかったからどうしたんだろうと思っていたのよ。どこか演奏しに行ってたの?」

  どうやらリョンの知り合いのようだ。やはりリョンは町でも旅芸人のふりをしているらしい。

「そうだね。少し東の方へ行っていたんだ。」
「ところであなたは…リョンの恋人…?」

  不安そうな表情をしていて、ああ、彼女はリョンのことが好きなのだとハヨンは悟る。ハヨンは安心させるために、首を横に振った。

「いいえ、私は城で働いているんだけど、そこで何回かリョンに会ったのよ。それで友達になったの。恋人ではないわ。」

  ユナはぱっと表情を明るくした。

「そうなのね。そういえばリョンは貴族にも人気があるものね!すごいわ!」
「いやいや、そんなそんな。」

  誉められてリョンは少し照れている。そんな彼を純粋な目で見つめる彼女を、ハヨンはたまらなく可愛らしく思えた。

(恋する女の子ってこんなにも可愛いんだな。)

  権力とか関わりのない世界だからこんなにも純粋に恋できるのかもしれない。ハヨンは宮で嫌がらせをしてきた下女たちを思い出しながら考えた。

「それにしてもあなたのことをみんな待ち侘びていたのよ。みんなを呼んでもいいかしら」
「もちろん。」

  ユナは大通りの方へと走っていく。

「みんな!リョンが来たわよ!」

  ユナの明るい声が響くと、暗い雰囲気で、静まり返っていた町が、少しざわめき始める。

「リョン?本当か?」
「ええ!さっきそこの通りであったの。」

  ユナのその返事で人があちこちと現れた。ハヨンはこの街に、こんなにも人が住んでいたのかと驚いた。

「おお、本当だ。リョンじゃないか。元気にしてたか」
「まあ、ぼちぼちかな。おじさんは?」
「うーん、今はこの前の嵐のせいでみんな苦しいな。」

  そう言う男の目元はやつれてくまができていた。

「なぁ、兄ちゃん。元気の出る曲弾いてくれよ。」

  小さな男の子がリョンの袖を引っ張ってせがむと、リョンは柔らかく笑う。

「いいよ。じゃあとびっきり元気の出る曲を弾いてやろう。」

  そう言うとリョンは陽気な音を奏でながら歌い出した。

(初めてリョンの歌っている姿を見たな…)

  彼の歌声は伸びやかに、遠くまで響いていきそうだ。流石に人気の芸人のふりをしているからか、歌も竪琴も文句なしに上手い。
  リョンの奏でる音にあわせて踊り出す子供や一緒に歌う男がいた。憧れに似た眼差しを向ける若い女性や、そんな彼ら彼女らを見て頬笑む母親や老婆がいた。

(…ああ、リョンの側はなんて心地がいいんだろう)

  周りを笑顔にするその力にハヨンは自分も感化されていることを思い知る。
  一曲終わると町の人々から拍手が起こった。

「久々に楽しい気持ちになれたよ。ありがとねリョン。」

  小さい子供をあやしながら若い母親が涙ぐんだ。

「力になれたなら光栄だな。」
「兄ちゃんの曲もっと聞きたい!」
「ああ、いくらでも弾くぞ。何がいい。」

  そう言いながら町の人々に向けるリョンの眼差しはとても優しかった。

(…優しいでは足りないな。慈しむ?いや、愛しく思ってるのかな。)

  ハヨンはそんな彼をずっと見ていたいと思ってしまう。

(この人は、この国には欠かせない人になるだろうな)

  皆に囲まれる彼を見て、ハヨンは確信したのだった。





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