華の剣士

小夜時雨

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剣士の休日

謁見

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ついにハヨンが王に謁見する日がやって来た。これは王じきじきに呼ばれるなど、こんな城で働き始めて間もない者には滅多にない。

「面を上げよ。」

  ハヨンは床に手と額を深々とつけた最敬礼で待っていると、ようやく声がかかった。緊張で震えそうになったが、それを押し隠して顔を上げる。

「ハヨンだったか。此度の件はよくやった。私と皆の命を守ってくれたこと感謝している。」

  王は高い位置に置かれた台座に座り、ハヨンを見下ろしていた。慈悲深く、しかし厳しく、戦いの時にはりりしくなる王。そして下々の者でも人として扱ってくださる模範的な王だ。しかしそれでいて自分と他の者は全く立場が違うのだと思い知らされるその威厳に、ハヨンは自分のいる場所を改めて知ることとなった。

「ありがたきお言葉、誠に嬉しゅうございます。」

  王の周りの他の台座には、妃の二人と息子のリョンヤンとリョンヘが座っている。

「そなたはリョンヤンの護衛の一人であったな。これからも仕事に励まれよ。」
「はい。」
「陛下と王子達を守ってくださりありがとうございます。」

と二の妃は言い、子供を持たない一の妃はリョンヤンと微笑んでいた。リョンヘというと、表立っては宴会の時に会ったくらいなので、「ありがとう」とその一言を発しただけである。

(随分とリョンとは話し込んだから仲良くなったし、リョンヤン様も私を信頼してくださるのはよくわかっている。でも、これが本当の私たちの距離なんだな…。)

  最近ハヨンはリョンヤンとリョンヘとはもう離れがたいと思えてきていることに気がついていた。しかしハヨンがそう思っていても、誰かが手を加えたら、容易に二人とは一生会えなくなるようになってしまうことも今一度突きつけられた。

(二人との関係もここまでか…。)

ハヨンは寂しい気持ちを心の中に押し込んだ。
  そんなハヨンの気持ちは当然誰も知らず、

「今回の件で、お主に何か褒美をやろうと思ってな。何か望むものはあるか。」

と王が優しい笑顔で尋ねた。この謁見によって感謝の意は伝わったのだし、まさかそこまでしてもらえるとは思っていなかったので心底驚いた。

(私が望むもの…)

  そう尋ねられたら大抵は金や地位、物が一般的だろうが、ハヨンはとっさに母とヨウの顔が浮かんだ。

「…ならば一度里帰りのために休日をいただけませんか。」

  普通新兵は一年間は実地訓練で、城や実地訓練で赴いた領主の屋敷の外に出ることは許されない。買いたいものは月に一度やって来る、買い出しをしに行く上官の兵士に頼んだり、下女や下男に頼むのだ。

「休日か。確かに里帰りをすることも大事だな。てっきり私は報酬をと言われるかと思ったが。ならばお主には五日間の休日を与えよう。」
「いっ、五日もよろしいのですか!」

  よくて三日だろうと思っていたハヨンはすっとんきょうな声をだす。そんなにも王族の護衛をする身が休日をとってもよいのだろうか。

「よいよい。里帰りは立派な親孝行だ。それになかなか帰れるものでは無いからなあ。もしかすると当分帰れんかもしれん。」

   家族のことを大事にしたいという気持ちをくんでくれた王をお優しい方だ、とハヨンは感動したが、それと同時に最後に付け加えられた言葉に首をひねった。

(まるで戦でもするようなお言葉だな…)

  周囲の国とは今のところ何も不穏な動きはない。ハヨンには王の言葉が不思議でならなかった。









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