華の剣士

小夜時雨

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宴にて交わされるのは杯か思惑か

企む者

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  男は自室で酒を飲んでいた。杯の酒を飲みきり、少し笑みを浮かべながら空の杯に新たな酒をついでいく。なみなみと満たされた盃に、月が浮かんでいた。

「計画はまぁまぁといったところだな。」
「はい。」

  その男の真向かいには先日男に報告していた手下も座っている。人々は寝静まるころなのか、周囲は虫の音さえ聞こえない静寂に包まれている。
  二人はお互いの顔がはっきりと見えぬほど暗く蝋燭の灯火一つだけの部屋にいた。時折窓から風が吹き込むのか、ゆらゆらと炎が揺れ、それに合わせて二人の影も怪しくうごめく。

「しかしまあ、計算外だったのがあの火だな」
「ええ、一体どこから…。」

  周りに聞こえないようにか二人はぼそぼそと声をおとして話す。いつの間にか部屋に蛾が入り込んでいたようで、蝋燭の火の辺りを飛び交っていた。

「わからぬか。あれはどう考えてもいまいましい朱雀の加護だろう。」

  男は気分を害したらしく舌打ちをする。盃を持つ手に強く力が入り、震えているのがわかる。その様子を見て、手下は少し居心地の悪そうな反応を示した。

「しかしあなた様は20年ほど前にあの朱雀を倒したではありませんか。」
「ばかめ。奴は死んだ直後すぐに生まれ変わる。奴はまた王族のために使命を果す人生を送っているだろうよ。それに倒したのは良いとして、奴には嫌なものを残されたからなあ。次に戦うときはいかに苦しめてやるか。それが楽しみだな。」

  男は腕に残る大きな火傷のあとを睨み付けた。

「その上、またあの女に手柄をとられたしな。」
「あの、あなた様はどうしてあのチュ・ハヨンにこだわるのですか。」

  手下が少し怯えながらもそう尋ねると

「どうしてだと?」

と男は青筋をたてた。ますます機嫌を損ねたのを悟り、手下は身を縮める。

「あいつは嫌な雰囲気を持っている。私とは敵対する者の雰囲気だ。」
「…ならば彼女が朱雀なのでは…。」
「いや、それはない。四獣の生まれ変わりは男と決まっている。」

  男はすぐさま答えた。それほどに確信を持っているのだろう。

「しかしまあ、あいつも気に入らない。いつかはこの手で始末してやろう。」

  男はそう言いながら蝋燭の近くを飛んでいた蛾を掴む。蛾は男の手の中でもがくように羽を震わせた。その姿を見て、男は笑いながら蛾を潰した。




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