54 / 221
宴にて交わされるのは杯か思惑か
深まる謎 弐
しおりを挟む
一日の仕事を終えて、自分の部屋へ戻る間、ハヨンは今日見聞きしたことを頭の中で繋ぎ合わせていた。
(昨日の今日だからみんな酷く怯えていた。宴の間を片付けた侍女たちから様子を聞いたんだろうな。)
暗殺者を牢へと連れていったあと、侍女が片付けにやって来たのだが、あのとき彼女達は随分と怯えていた。
無理もない。床には料理が散乱し、戸は外れかかっていて、ところどころに血が飛び散っていた。兵士でもない彼女たちには見なれないものだ。
そんな話を城の者と話せば次々に尾ひれのついた噂が飛び交うことになる。今日は暗殺者のことばかりを耳にした。
しかし暗殺者の話と言っても、少し違ったものもあり、「リョンヘ様もこれから大変だろう…」という者もちらほらといたのだ。
(リョンとどういう関係があるんだろう。)
ハヨンはどうやらしっかりと前を見ていなかったようだ。向かい側から歩いてきた女官二人にぶつかる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
ハヨンはほぼ反射的にそう言って相手を見ると、
「え、ええ。大丈夫よ。私もちゃんと見てなかったから。ごめんなさいね。」
と言って、そそくさと去っていく。
「彼女よ!あのおぞましい暗殺者と戦った人!」
「怒らせない方がいいわね。」
と聞こえないように言っているつもりだが、興奮しているのかハヨンにも十分聞き取れた。
最初は疎ましがられて次は恐がられるなんて、おかしなことだ。とハヨンは自嘲ぎみに笑ったが、まあ嫌がらせをされるよりましだと思えた。
ようやく部屋にたどり着いて寝台に座り込む。ずっと考え込んでいたハヨンは、暗殺者の彼がどういう経緯であの貴族に雇われたかを皮切りにあることに気がついた。
(確か身寄りもなく貧しい彼を哀れに思って雇ったんだっけ…。そういえばあの貴族は、平民派だったか。)
平民派とは、今干ばつなどで厳しい生活を送っている平民たちにどう対策を施すかを優先して考えている貴族や王族のことだ。ここにはお忍びでよく平民達と関わっているリョンヘも含まれる。
一方対立しているのは王権派で、この貧しい生活により平民が王族や貴族に不満を持たぬよう王の権力を高めようとする一派である。
そしてもう一つは中立派で、どこにも属さず、二つの派閥が争わぬように調整している。王や、リョンヤンがこの立場であり、平民派と王権派はより味方を増やそうと躍起になっている。
隠居させられた貴族は特に平民派でも熱心な一人で、リョンヘの強い味方だったらしい。それに財力もあったので、平民派の筆頭とも言えた。
(つまり、今回の件で平民派の発言力は一気に落ちて、リョンヘの賛同者が減るわけか。)
ハヨンは座っていた体勢をそのまま崩し、後ろに倒れる。天井を見つめながらなおも考えていた。
(確かあの貴族の息子は王権派で、親子の仲が悪かったな。)
一度城で立ち聞きした噂話を思い返して少し青ざめる。
(本当にリョンヘが追い詰められている。これは王権派にとって有利な話だ。もしあの従者が操られていたのだとしたら?わざとされたことだったら?それは、王権派が人々を操って、この世を自分の思い通りにしようとしているということだ。)
ハヨンは恐ろしくなって目を閉じる。しかしそんなところで不安が薄れるものではない。ほんの数日前、意を決したようにリョンヘを守ってほしいと頼み込んできたリョンヤンの表情を思い出した。
(何かあれば助けようと思っていたけれど、これはもういつも警戒しなければいけないかもしれない…)
一人で二人を守り通せるだろうか、とハヨンは悩み始めるのだった。
(昨日の今日だからみんな酷く怯えていた。宴の間を片付けた侍女たちから様子を聞いたんだろうな。)
暗殺者を牢へと連れていったあと、侍女が片付けにやって来たのだが、あのとき彼女達は随分と怯えていた。
無理もない。床には料理が散乱し、戸は外れかかっていて、ところどころに血が飛び散っていた。兵士でもない彼女たちには見なれないものだ。
そんな話を城の者と話せば次々に尾ひれのついた噂が飛び交うことになる。今日は暗殺者のことばかりを耳にした。
しかし暗殺者の話と言っても、少し違ったものもあり、「リョンヘ様もこれから大変だろう…」という者もちらほらといたのだ。
(リョンとどういう関係があるんだろう。)
ハヨンはどうやらしっかりと前を見ていなかったようだ。向かい側から歩いてきた女官二人にぶつかる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
ハヨンはほぼ反射的にそう言って相手を見ると、
「え、ええ。大丈夫よ。私もちゃんと見てなかったから。ごめんなさいね。」
と言って、そそくさと去っていく。
「彼女よ!あのおぞましい暗殺者と戦った人!」
「怒らせない方がいいわね。」
と聞こえないように言っているつもりだが、興奮しているのかハヨンにも十分聞き取れた。
最初は疎ましがられて次は恐がられるなんて、おかしなことだ。とハヨンは自嘲ぎみに笑ったが、まあ嫌がらせをされるよりましだと思えた。
ようやく部屋にたどり着いて寝台に座り込む。ずっと考え込んでいたハヨンは、暗殺者の彼がどういう経緯であの貴族に雇われたかを皮切りにあることに気がついた。
(確か身寄りもなく貧しい彼を哀れに思って雇ったんだっけ…。そういえばあの貴族は、平民派だったか。)
平民派とは、今干ばつなどで厳しい生活を送っている平民たちにどう対策を施すかを優先して考えている貴族や王族のことだ。ここにはお忍びでよく平民達と関わっているリョンヘも含まれる。
一方対立しているのは王権派で、この貧しい生活により平民が王族や貴族に不満を持たぬよう王の権力を高めようとする一派である。
そしてもう一つは中立派で、どこにも属さず、二つの派閥が争わぬように調整している。王や、リョンヤンがこの立場であり、平民派と王権派はより味方を増やそうと躍起になっている。
隠居させられた貴族は特に平民派でも熱心な一人で、リョンヘの強い味方だったらしい。それに財力もあったので、平民派の筆頭とも言えた。
(つまり、今回の件で平民派の発言力は一気に落ちて、リョンヘの賛同者が減るわけか。)
ハヨンは座っていた体勢をそのまま崩し、後ろに倒れる。天井を見つめながらなおも考えていた。
(確かあの貴族の息子は王権派で、親子の仲が悪かったな。)
一度城で立ち聞きした噂話を思い返して少し青ざめる。
(本当にリョンヘが追い詰められている。これは王権派にとって有利な話だ。もしあの従者が操られていたのだとしたら?わざとされたことだったら?それは、王権派が人々を操って、この世を自分の思い通りにしようとしているということだ。)
ハヨンは恐ろしくなって目を閉じる。しかしそんなところで不安が薄れるものではない。ほんの数日前、意を決したようにリョンヘを守ってほしいと頼み込んできたリョンヤンの表情を思い出した。
(何かあれば助けようと思っていたけれど、これはもういつも警戒しなければいけないかもしれない…)
一人で二人を守り通せるだろうか、とハヨンは悩み始めるのだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる