華の剣士

小夜時雨

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宴にて交わされるのは杯か思惑か

深まる謎

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「ハヨン、昨日はお手柄でしたね。」

  ハヨンは朝、リョンヤンに笑顔で出迎えられた。ハヨンは慌てて首を振る。

「いえ、白虎の隊員として当然のことをしたまでです。リョンヤン様や陛下達にお怪我がなくて良かった。私はその事を一番誇らしく、嬉しく思っております。」

  暗殺者の力は人間のものではないように感じた。たとえ剣を極めた者でも、傷を負うことの方があり得るとハヨンは思う。ハヨンにとって大切な主であるリョンヤンや、友人のリョンヘが怪我をしなかったことがほっとしたことの一つだった。

「それにしても妙な暗殺者でした。あなたはまだ知らされていないでしょうが、あの人は目が覚めたときに宴会でのことを綺麗さっぱり忘れていたようなんです。」
「えっ、それは本当ですか。」

  眉をひそめるリョンヤンの顔を見て、冗談を言っている訳ではないのはわかる。しかし、思わず訪ねずにはいられなかったのだ。

「その上、自身の主に対する忠誠心は厚く、己がしたことを聞かされたときは呆然としていたそうです。まぁ、それが演技なのかどうかは私たちにはわからないのですが。」

  今回の事件はどんどんと迷宮入りを深めているようで、ハヨン事態の難しさにため息をつきそうになる。

「ところであの貴族の方はどうなったのですか。」

  ハヨンはずっと従者が気になっていたので、すっかり忘れていた貴族のことを思い出す。

「ああ、彼ですか。彼はどうやら今回のことに関わりがなかったようですが、彼は結果としてあの暗殺者を連れて来てしまい、暗殺の手伝いをしてしまったことになるので、隠居という形をとってもらうこととなりました。」

  つまりは彼は家臣の座から追い出されたようなものだ。しかしお家を取り潰しや打ち首になっていないだけ十分ましと言えよう。なぜなら、自身の雇ったものが行ったことは、雇い主である者も責任を負う。今回、従者が行ったことは反逆行為だ。つまり、ペ・サファンも反逆行為を行ったに等しいこととなる。
  そう考えれば十分まし、どころか温情措置であるのは言うまでもない。ペ・サファンは長年ヒチョル王に仕え、この国の交易をこの数年間で拡大させた人物だ。ヒチョル王も信頼していたのだろう。だからこその隠居という形になったのかもしれない。

「私は即刻お二人とも死刑に処すべきだと思ったのですがね。」

  少し不満げな声が聞こえて振り返ると、納得行かないという表情を浮かべた宰相が立っていた。

「まぁまぁ、イルウォン殿。誰も死傷者は出ていませんし、あの貴族は身寄りの無い彼を不憫に思って雇い、陛下のために短剣を献上しようとしたとのこと。当然、彼の保護者として責任は負いますが、正気を失った彼の行動の責任を、死をもって償えというのは酷ではないでしょうか?」

  そう言われて宰相は立っていた戸口から早足でリョンヤンに近づいていく。ハヨンの前を通りすぎたとき、あまりにも険悪な雰囲気を纏っていたからか、冷気を感じたようにも思えた。

「甘い!甘いですよリョンヤン殿下!そんな結果ばかりを見ていては世の中が乱れてしまいます!あなたは仮にもこの国をリョンヘ様達と背負うお立場です!それなのにそう呑気に構えていてはいつか危ない目に逢われますよ。」

  烈火のごとく怒る宰相を見て、リョンヤンは苦笑いをした。

「しかし、サファン殿は父上の友でもありました。私ならば、友を死なせたくはありません。サファン殿もそう思っているだろうし、父上もそう信じている。だからこそ、このようにはからったのでしょう。」

  静かに答えたリョンヤンを見て、何を言っても無駄だと思ったらしい。宰相は少し黙りこんだが、暫くして顔を明るくして言った

「ではリョンヤン殿下、今日はより殿下の考えを深めていただくために、殿下の大好きなこの国の法について学びましょう。」
「あ…いや、私が好きなのは地学でして…」

  どうやら法学は苦手のようだ。宰相はますます笑顔になる。

「いいえ、あんなに考えをお持ちでしたら苦手なはずがございません。では始めますよ。」

  少しリョンヤンへの当てつけが入っているであろう講義が始まる。

(宰相様もなかなか腹の底が見えない人だ。)

  ハヨンはその笑みの下に隠れる腹黒さを記憶に刻みつけておくことにした。





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