53 / 221
宴にて交わされるのは杯か思惑か
深まる謎
しおりを挟む
「ハヨン、昨日はお手柄でしたね。」
ハヨンは朝、リョンヤンに笑顔で出迎えられた。ハヨンは慌てて首を振る。
「いえ、白虎の隊員として当然のことをしたまでです。リョンヤン様や陛下達にお怪我がなくて良かった。私はその事を一番誇らしく、嬉しく思っております。」
暗殺者の力は人間のものではないように感じた。たとえ剣を極めた者でも、傷を負うことの方があり得るとハヨンは思う。ハヨンにとって大切な主であるリョンヤンや、友人のリョンヘが怪我をしなかったことがほっとしたことの一つだった。
「それにしても妙な暗殺者でした。あなたはまだ知らされていないでしょうが、あの人は目が覚めたときに宴会でのことを綺麗さっぱり忘れていたようなんです。」
「えっ、それは本当ですか。」
眉をひそめるリョンヤンの顔を見て、冗談を言っている訳ではないのはわかる。しかし、思わず訪ねずにはいられなかったのだ。
「その上、自身の主に対する忠誠心は厚く、己がしたことを聞かされたときは呆然としていたそうです。まぁ、それが演技なのかどうかは私たちにはわからないのですが。」
今回の事件はどんどんと迷宮入りを深めているようで、ハヨン事態の難しさにため息をつきそうになる。
「ところであの貴族の方はどうなったのですか。」
ハヨンはずっと従者が気になっていたので、すっかり忘れていた貴族のことを思い出す。
「ああ、彼ですか。彼はどうやら今回のことに関わりがなかったようですが、彼は結果としてあの暗殺者を連れて来てしまい、暗殺の手伝いをしてしまったことになるので、隠居という形をとってもらうこととなりました。」
つまりは彼は家臣の座から追い出されたようなものだ。しかしお家を取り潰しや打ち首になっていないだけ十分ましと言えよう。なぜなら、自身の雇ったものが行ったことは、雇い主である者も責任を負う。今回、従者が行ったことは反逆行為だ。つまり、ペ・サファンも反逆行為を行ったに等しいこととなる。
そう考えれば十分まし、どころか温情措置であるのは言うまでもない。ペ・サファンは長年ヒチョル王に仕え、この国の交易をこの数年間で拡大させた人物だ。ヒチョル王も信頼していたのだろう。だからこその隠居という形になったのかもしれない。
「私は即刻お二人とも死刑に処すべきだと思ったのですがね。」
少し不満げな声が聞こえて振り返ると、納得行かないという表情を浮かべた宰相が立っていた。
「まぁまぁ、イルウォン殿。誰も死傷者は出ていませんし、あの貴族は身寄りの無い彼を不憫に思って雇い、陛下のために短剣を献上しようとしたとのこと。当然、彼の保護者として責任は負いますが、正気を失った彼の行動の責任を、死をもって償えというのは酷ではないでしょうか?」
そう言われて宰相は立っていた戸口から早足でリョンヤンに近づいていく。ハヨンの前を通りすぎたとき、あまりにも険悪な雰囲気を纏っていたからか、冷気を感じたようにも思えた。
「甘い!甘いですよリョンヤン殿下!そんな結果ばかりを見ていては世の中が乱れてしまいます!あなたは仮にもこの国をリョンヘ様達と背負うお立場です!それなのにそう呑気に構えていてはいつか危ない目に逢われますよ。」
烈火のごとく怒る宰相を見て、リョンヤンは苦笑いをした。
「しかし、サファン殿は父上の友でもありました。私ならば、友を死なせたくはありません。サファン殿もそう思っているだろうし、父上もそう信じている。だからこそ、このようにはからったのでしょう。」
静かに答えたリョンヤンを見て、何を言っても無駄だと思ったらしい。宰相は少し黙りこんだが、暫くして顔を明るくして言った
「ではリョンヤン殿下、今日はより殿下の考えを深めていただくために、殿下の大好きなこの国の法について学びましょう。」
「あ…いや、私が好きなのは地学でして…」
どうやら法学は苦手のようだ。宰相はますます笑顔になる。
「いいえ、あんなに考えをお持ちでしたら苦手なはずがございません。では始めますよ。」
少しリョンヤンへの当てつけが入っているであろう講義が始まる。
(宰相様もなかなか腹の底が見えない人だ。)
ハヨンはその笑みの下に隠れる腹黒さを記憶に刻みつけておくことにした。
ハヨンは朝、リョンヤンに笑顔で出迎えられた。ハヨンは慌てて首を振る。
「いえ、白虎の隊員として当然のことをしたまでです。リョンヤン様や陛下達にお怪我がなくて良かった。私はその事を一番誇らしく、嬉しく思っております。」
暗殺者の力は人間のものではないように感じた。たとえ剣を極めた者でも、傷を負うことの方があり得るとハヨンは思う。ハヨンにとって大切な主であるリョンヤンや、友人のリョンヘが怪我をしなかったことがほっとしたことの一つだった。
「それにしても妙な暗殺者でした。あなたはまだ知らされていないでしょうが、あの人は目が覚めたときに宴会でのことを綺麗さっぱり忘れていたようなんです。」
「えっ、それは本当ですか。」
眉をひそめるリョンヤンの顔を見て、冗談を言っている訳ではないのはわかる。しかし、思わず訪ねずにはいられなかったのだ。
「その上、自身の主に対する忠誠心は厚く、己がしたことを聞かされたときは呆然としていたそうです。まぁ、それが演技なのかどうかは私たちにはわからないのですが。」
今回の事件はどんどんと迷宮入りを深めているようで、ハヨン事態の難しさにため息をつきそうになる。
「ところであの貴族の方はどうなったのですか。」
ハヨンはずっと従者が気になっていたので、すっかり忘れていた貴族のことを思い出す。
「ああ、彼ですか。彼はどうやら今回のことに関わりがなかったようですが、彼は結果としてあの暗殺者を連れて来てしまい、暗殺の手伝いをしてしまったことになるので、隠居という形をとってもらうこととなりました。」
つまりは彼は家臣の座から追い出されたようなものだ。しかしお家を取り潰しや打ち首になっていないだけ十分ましと言えよう。なぜなら、自身の雇ったものが行ったことは、雇い主である者も責任を負う。今回、従者が行ったことは反逆行為だ。つまり、ペ・サファンも反逆行為を行ったに等しいこととなる。
そう考えれば十分まし、どころか温情措置であるのは言うまでもない。ペ・サファンは長年ヒチョル王に仕え、この国の交易をこの数年間で拡大させた人物だ。ヒチョル王も信頼していたのだろう。だからこその隠居という形になったのかもしれない。
「私は即刻お二人とも死刑に処すべきだと思ったのですがね。」
少し不満げな声が聞こえて振り返ると、納得行かないという表情を浮かべた宰相が立っていた。
「まぁまぁ、イルウォン殿。誰も死傷者は出ていませんし、あの貴族は身寄りの無い彼を不憫に思って雇い、陛下のために短剣を献上しようとしたとのこと。当然、彼の保護者として責任は負いますが、正気を失った彼の行動の責任を、死をもって償えというのは酷ではないでしょうか?」
そう言われて宰相は立っていた戸口から早足でリョンヤンに近づいていく。ハヨンの前を通りすぎたとき、あまりにも険悪な雰囲気を纏っていたからか、冷気を感じたようにも思えた。
「甘い!甘いですよリョンヤン殿下!そんな結果ばかりを見ていては世の中が乱れてしまいます!あなたは仮にもこの国をリョンヘ様達と背負うお立場です!それなのにそう呑気に構えていてはいつか危ない目に逢われますよ。」
烈火のごとく怒る宰相を見て、リョンヤンは苦笑いをした。
「しかし、サファン殿は父上の友でもありました。私ならば、友を死なせたくはありません。サファン殿もそう思っているだろうし、父上もそう信じている。だからこそ、このようにはからったのでしょう。」
静かに答えたリョンヤンを見て、何を言っても無駄だと思ったらしい。宰相は少し黙りこんだが、暫くして顔を明るくして言った
「ではリョンヤン殿下、今日はより殿下の考えを深めていただくために、殿下の大好きなこの国の法について学びましょう。」
「あ…いや、私が好きなのは地学でして…」
どうやら法学は苦手のようだ。宰相はますます笑顔になる。
「いいえ、あんなに考えをお持ちでしたら苦手なはずがございません。では始めますよ。」
少しリョンヤンへの当てつけが入っているであろう講義が始まる。
(宰相様もなかなか腹の底が見えない人だ。)
ハヨンはその笑みの下に隠れる腹黒さを記憶に刻みつけておくことにした。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる