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宴にて交わされるのは杯か思惑か
得体の知れない敵
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広間に従者の叫び声が反響し、びりびりとハヨンたちの鼓膜を震わせる。
(何だかこの従者、様子がおかしい…!)
何だか我を忘れているような、そんな雰囲気だ。目も遠いどこかを見ているように焦点が合わない。にもかかわらず、ハヨンたちの位置を正確に掴み、攻撃をする。
(正気を失ってるから忍びない…でも私たちやみんなの命がかかっているから…)
ごめんなさいと心の中で詫びてから懐から暗器をとり出し彼に投げつけた。彼の体に刺さるが、彼は痛みよりも怒りが勝っているようで、獣のようなうなり声をあげながらハヨンに近づく。
(もう、武器は何も持っていない。)
そもそもあまりにも武装していると怪しまれるので、暗器と短剣しか持っていなかった。その暗器は彼の体に刺さり、短刀は宴会場の端まで飛ばされた。
ハヨンはこの猛獣のようになってしまった従者と、体術で戦うことを決意した。
(まだ死ぬわけにはいかない…!何としても彼の動きを止めなくては…!)
ハヨンは従者に向かって構えを取る。武器がすぐ側にない今、素手で何としても捉えようと決意する。ふーっと一息で息を吐き出し、呼吸を整えた。自身の心の臓の音が頭の中で響くように聞こえる。
従者は足で床を蹴って、獣のように跳躍する。ハヨンは彼の腕を掴もうとしたその時、何か強い光が突如現れて、思わず目を瞑った。従者は断末魔のような声をあげる。
(え、何…!?)
暫くして従者の声がぱたりと止む。ハヨンが目を開けると、目の前に従者が倒れていた。
(…何で?)
そしてハヨンは彼の姿を見てさらに驚いた。彼は軽度ではあるが、全身に火傷を負っていた。薄気味悪くて、喉から声がでなくなる。
(何の仕業?何が起こったの?)
ハヨンが呆然と立ち尽くしていると、ばたばたと足音が聞こえた。
「大丈夫か…!」
どうやら援軍が遅れてやって来たらしい。そして、ハヨンと火傷を負った従者を見て呆気に取られた様子だった。しかし、この場にいた年長者の者が初めに気をとりなおし、宴にいた王族・貴族の安全確認や現状把握のために指揮を取り出した。
「それで、宴会でのことを教えてくれ。」
ハヨンはというと、上官数人に事後処理を任せ、ハイルとヘウォンに説明することとなった。医務室のようなところで、ヘウォンと上司のハイルと3人で膝をつきあわせている状態である。
他に警護についていた隊員の二人は宴会にいた人の避難誘導、残りの二人はハヨンと共に取り押さえようとするも、例の従者の手によって気を失った状態だったので、このことをまともに話せる人がハヨンしかいなかったのだ。
ハヨンとて先ほどの従者との攻防は、限られた広間という空間で、誰一人傷つけぬようにと必死だったために、随分と消耗している。さらに相手が訳の分からない傷を負っているため、ハヨンはとても動揺していた。
(落ち着け…、落ち着いて状況を説明するのが今の私の仕事だ…)
ハヨンは少しでも心が落ち着くように、深く息を吸って吐いた。
「確かペ・サファン様、でしたっけ。あの方が陛下に短剣を贈ろうとしていたのですが、そのとき彼の従者がその短刀で陛下に斬りかかろうとしたんです。」
「うーん、それは避難させた者からも聞いたんだが、彼は避難する王族には手出ししなかったのか?」
ヘウォンもこのおかしな状況に、頭を悩ませているようだ。今の彼の表情を見ると、いつもの朗らかな様子が鳴りを潜めている。
「はい。私と戦い始めてからなんて、王族の方はもちろん、当初の標的であった陛下に対しても目もくれない様子でした。」
「うーん、奇妙だな。王族に恨みがあったらお前に攻撃する前に避難させていた隊員や王族を狙うと思うんだけどな。」
ヘウォンはどうやら従者の目的を明らかにしたい様子だったが、ハヨンはそちらよりも気になっていることがあった。従者が正気を失っていたこと、従者はなぜ火傷を負ったのかということ、強い光の正体は何だったのかという三つだ。ハヨンはヘウォン、ハイルに宴会場での奇妙なことを話してもよいだろうかと躊躇する。
(正気を失っているって本当と確かめた訳でもないし…。それにいきなり光が…って何のおとぎ話だって感じだし…。火傷なんて火はどこにもないから信じられないし…)
ハヨンが落ち着き無い様子だったからか、
「何でも話してくださいよ。笑いませんから。すべて大事な情報です。」
とハイルがハヨンの肩を優しく叩く。ハヨンは張り詰めていた糸がふっと途切れるように、緊張が解けた。そのことで、自分が非現実的なものと向かい合って本当は恐ろしく感じていたのだと気づく。
「えっと…、相手をしているとき、従者が正気を失っているように思ったんです。何だか目も焦点が合ってなかったし…。それに叫び声も人間の物と思えなかった…。」
「それは気が高ぶっていたものとは違っていたんだな?」
ヘウォンの尋ね方は、決してハヨンの言葉を否定するものではなかった、ハヨンにはそれがとても有り難い。
「いえ、それにしては私に対して的確に攻撃していて冷静なようにも見えました。後は暗器が刺さっても動き続けたんです。もはや人間の感覚を失っているかのように。」
そこまで話をした時、急に薄気味悪くなって、三人は少しの間黙りこんでいた。
(何だかこの従者、様子がおかしい…!)
何だか我を忘れているような、そんな雰囲気だ。目も遠いどこかを見ているように焦点が合わない。にもかかわらず、ハヨンたちの位置を正確に掴み、攻撃をする。
(正気を失ってるから忍びない…でも私たちやみんなの命がかかっているから…)
ごめんなさいと心の中で詫びてから懐から暗器をとり出し彼に投げつけた。彼の体に刺さるが、彼は痛みよりも怒りが勝っているようで、獣のようなうなり声をあげながらハヨンに近づく。
(もう、武器は何も持っていない。)
そもそもあまりにも武装していると怪しまれるので、暗器と短剣しか持っていなかった。その暗器は彼の体に刺さり、短刀は宴会場の端まで飛ばされた。
ハヨンはこの猛獣のようになってしまった従者と、体術で戦うことを決意した。
(まだ死ぬわけにはいかない…!何としても彼の動きを止めなくては…!)
ハヨンは従者に向かって構えを取る。武器がすぐ側にない今、素手で何としても捉えようと決意する。ふーっと一息で息を吐き出し、呼吸を整えた。自身の心の臓の音が頭の中で響くように聞こえる。
従者は足で床を蹴って、獣のように跳躍する。ハヨンは彼の腕を掴もうとしたその時、何か強い光が突如現れて、思わず目を瞑った。従者は断末魔のような声をあげる。
(え、何…!?)
暫くして従者の声がぱたりと止む。ハヨンが目を開けると、目の前に従者が倒れていた。
(…何で?)
そしてハヨンは彼の姿を見てさらに驚いた。彼は軽度ではあるが、全身に火傷を負っていた。薄気味悪くて、喉から声がでなくなる。
(何の仕業?何が起こったの?)
ハヨンが呆然と立ち尽くしていると、ばたばたと足音が聞こえた。
「大丈夫か…!」
どうやら援軍が遅れてやって来たらしい。そして、ハヨンと火傷を負った従者を見て呆気に取られた様子だった。しかし、この場にいた年長者の者が初めに気をとりなおし、宴にいた王族・貴族の安全確認や現状把握のために指揮を取り出した。
「それで、宴会でのことを教えてくれ。」
ハヨンはというと、上官数人に事後処理を任せ、ハイルとヘウォンに説明することとなった。医務室のようなところで、ヘウォンと上司のハイルと3人で膝をつきあわせている状態である。
他に警護についていた隊員の二人は宴会にいた人の避難誘導、残りの二人はハヨンと共に取り押さえようとするも、例の従者の手によって気を失った状態だったので、このことをまともに話せる人がハヨンしかいなかったのだ。
ハヨンとて先ほどの従者との攻防は、限られた広間という空間で、誰一人傷つけぬようにと必死だったために、随分と消耗している。さらに相手が訳の分からない傷を負っているため、ハヨンはとても動揺していた。
(落ち着け…、落ち着いて状況を説明するのが今の私の仕事だ…)
ハヨンは少しでも心が落ち着くように、深く息を吸って吐いた。
「確かペ・サファン様、でしたっけ。あの方が陛下に短剣を贈ろうとしていたのですが、そのとき彼の従者がその短刀で陛下に斬りかかろうとしたんです。」
「うーん、それは避難させた者からも聞いたんだが、彼は避難する王族には手出ししなかったのか?」
ヘウォンもこのおかしな状況に、頭を悩ませているようだ。今の彼の表情を見ると、いつもの朗らかな様子が鳴りを潜めている。
「はい。私と戦い始めてからなんて、王族の方はもちろん、当初の標的であった陛下に対しても目もくれない様子でした。」
「うーん、奇妙だな。王族に恨みがあったらお前に攻撃する前に避難させていた隊員や王族を狙うと思うんだけどな。」
ヘウォンはどうやら従者の目的を明らかにしたい様子だったが、ハヨンはそちらよりも気になっていることがあった。従者が正気を失っていたこと、従者はなぜ火傷を負ったのかということ、強い光の正体は何だったのかという三つだ。ハヨンはヘウォン、ハイルに宴会場での奇妙なことを話してもよいだろうかと躊躇する。
(正気を失っているって本当と確かめた訳でもないし…。それにいきなり光が…って何のおとぎ話だって感じだし…。火傷なんて火はどこにもないから信じられないし…)
ハヨンが落ち着き無い様子だったからか、
「何でも話してくださいよ。笑いませんから。すべて大事な情報です。」
とハイルがハヨンの肩を優しく叩く。ハヨンは張り詰めていた糸がふっと途切れるように、緊張が解けた。そのことで、自分が非現実的なものと向かい合って本当は恐ろしく感じていたのだと気づく。
「えっと…、相手をしているとき、従者が正気を失っているように思ったんです。何だか目も焦点が合ってなかったし…。それに叫び声も人間の物と思えなかった…。」
「それは気が高ぶっていたものとは違っていたんだな?」
ヘウォンの尋ね方は、決してハヨンの言葉を否定するものではなかった、ハヨンにはそれがとても有り難い。
「いえ、それにしては私に対して的確に攻撃していて冷静なようにも見えました。後は暗器が刺さっても動き続けたんです。もはや人間の感覚を失っているかのように。」
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