華の剣士

小夜時雨

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宴にて交わされるのは杯か思惑か

堂々と

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(ついに始まってしまった…。)

  ハヨンは食事に少し箸をつける程度にすることを心がけながら周囲を見渡す。今のところ、何も怪しいところはなかった。しかし、いつ誰がこっそりと王族の椀に毒を盛るかわからない。
  ハヨンは杯を酌み交わすとき、何か不審なものは入れていないかとちらちらと様子を伺っていた。

(それにしても、また面倒なことが起こったな…。)

ハヨンは宴に出る前のことを思い出していた。

「ねぇ、ちょっと。」

   あれは確かハヨンが宴のために用意した衣装を着て宮から出たときだ。ハヨンとは異なる後宮の女官の中でも、側室に入れる人物といわれ、リョンヤン達の従兄にあたる王子に寵愛をうけている女官に呼び止められた。

「何?」

   やましいことは何もないので、ハヨンは何か言われても強気にいこうと決めて、やや硬い口調で返した。

「あんた、今日の宴に呼ばれているって本当?」
「そうだけど。」
「へーぇ。兵士になるなんて変な奴だと思っていたけど、結局あんたの目的も同じなのね。」

  目的とはきっと、王族にとりいるとかそういうことだろう。それにしても随分な言い様だ。

「ただの護衛として参加するだけなんだけど。随分な言い方じゃない。」

  妬みからか、せっかくの綺麗な顔は歪んで醜かった。

「どうせそう言いながらいつかは玉座の横に座ることが目的なんでしょう?でもあんたみたいなどこの国の人間かもわからないようなやつ、リョンヤン様だって選ぶ訳がないわ。」

  きっとそれはハヨンの目のことを言っていた。その赤い瞳は幼い頃から好奇の目で見られたり、からかう者もいた。しかし、ハヨンには自身の容姿について気味悪がらず受け入れてくれた人がいる。そのことはハヨンの自信となっていた。

「そう、でも私はあなたの敵ではない。私は王妃の立場なんて興味ないからね。まあ、あなたも精々頑張りなさいよ。」

  そう言って立ち去ろうとしたが、これくらい言ってやらないと気がすまないと思い直し、

「あなたもその口の悪さを直さないと、後宮にすら入れないわよ?」

と人の悪い笑みを浮かべてハヨンは立ち去った。

(それにしてもさっきは柄にもないことをしちゃったなぁ。)

  しかし、悪意をあんなにもぶつけられては流石のハヨンも頭にくるので仕方ない。ただ、先ほどのやりとりを思い出しては、ハヨンはみなが騒いでいる宴の中で、一人で恥ずかしく思っていた。そんなとき、

「それにしても。今日初めて見る顔ですね。お嬢さんは一体…。」

  来賓の貴族がそう言いながらハヨンに目を向ける。その他の来賓達もハヨンを注視していた。
  まあ、それは当たり前と言えば、当たり前なのだが、今まで一度も見たことがない娘が、いきなり王族に近い位置で食事をしているのだ。貴族もよっぽどの有力者と思うに違いない。

「彼女は私の姪のハヨンと言います。今までこういった席に顔を出していなかったもので、みなさんに知っていただこうかと。」

  チュ家の現当主で、ハヨンの叔父にあたるイルドが微笑む。彼とは事前に打ち合わせており、余裕綽々といった様子で酒をあおっている。

「なるほど。ところで失礼なのは承知なのですが、ハヨン殿は今年で成人されたのですか?」

(きっと私が結婚してもおかしくない年頃だからだ。これでも私は有力貴族のチュ家の一員だし、力をつけるために政略結婚でも狙っているんだろうか…。)

  ハヨンは面倒ごとに巻き込まれたな、と少し苦々しく思いながら箸を置いた。

「今年で十七になります。」

そう言って、不機嫌になったことをおくびにも出さず、精一杯微笑んでみる。貴族の何人かがひそひそと言葉を交わしているのが視界の端に写った。

(あの人たちは放っておいて、私は仕事に戻ろう。)

と辺りをさりげなく見渡す。やはり王族に目を向けると、リョンヤンとリョンヘは次期王候補なので、人目につく場所に座っていた。

(うーん。でもやっぱり私を助けてくださった方は、どうしてもリョンヤン様達の親戚の方とも思えないのよね。)

リョンヤンやリョンヘよりも下座に座る面々を見たが、ハヨンには目鼻立ちがあまりにも違うように感じた。
  そんなとき、芸人達が座敷に入ってきた。どうやら余興が始まるらしい。






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