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新たな任務
話を聞いて 参
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「私もその頃はわがままでして。体が弱いのに無茶をして何度も城を抜け出したものです。いつもリョンヘと出掛けていたので、あなたとお会いしたなら、二人で会ったことになりますので…。」
リョンヤンがその王子ではないハヨンに理由を教えてくれる辺り、リョンヤンも少し助力したいと思ってくれたのかもしれない。それに、とリョンヤンは苦しそうに付け加えた。
「リョンヘは獣が操れないし、10年前までの記憶が無いんです。」
その言葉にハヨンは息を呑んだ。
獣を扱えないということは、王家では落ちこぼれとして扱われると聞いていた。王位継承権についてはリョンヤンとリョンヘでは同じ地位で、現王の父が決めることとなっている。しかし、どちらかというとリョンヤンの方が家臣の間では支持が多いので、疑問を持っていたのだが、これで納得がいった。
その上、戦になったら、体の弱いリョンヤンを連れ出して、総大将として陣の後方に待機してもらい、リョンヘは兵士の一団を率いることになっていたので、不思議だったのだ。ヘウォンに聞けば少し気まずそうな顔をしていたが、獣を扱えないことを言ってはいけないことが暗黙の了解になっていたのだ。
様々な疑問が解けていくなか、ハヨンはこの城で最も親しい人物が、恩人でなかったというのは少し嬉しかった。自分にとって友人である人が急に命の恩人の王子となってしまったら、寂しく感じるだろうと、とっさに考えていたからだ。
獣を操る能力が無いことも気にはなるものの、ハヨンはリョンヤンの言っていたもうひとつのことが気になっていた。
「あの、記憶が無いというのは…。」
「私が風邪をひいたとき、一度だけリョンヘは一人で町に出たことがあるんです。どうやら私の好きな菓子を買いに行っていたようですね。でも、いつまでも帰ってこないので、大騒ぎになったんです。そうしたら夜に城の前に意識を失ったリョンヘが倒れていたんです。王族を表す剣の紋章と、私に買ってくると約束していた菓子があったので、間違いなく王子のリョンヘだとわかりました。」
そのとき、リョンヤンは目を伏せる。長い睫毛が、目元に影をつくった。ハヨンは彼が慎重に言葉を選んで話す様を見て、そのまま黙って耳を傾ける。
「そのあと目を覚ました彼は記憶を失っており、もともと持っていた獣を操る能力も失いました。ですから正しく言えば操れないのではなく、操れなくなったんです。」
リョンヘにはそれは人生が大きく変わってしまった一つの出来事だろう。その上、記憶のない状態で王子としての生活を続けるのも苦労したに違いない。
リョンヤンは伏せていた目をハヨンの方に向け、意を決したような目つきに変わる。ハヨンはその勢いに圧倒された。
「一つお願いがあるんです。リョンヘはこの他にも様々な奇妙なことに出くわしています。私としてはこれは何かに狙われているとしか思えないのです。ですから、もしあなたがリョンヘと行動を共にする機会があれば、そのときは彼を守ってはもらえませんか。」
それはハヨンと会っているときのことを指しているのか。言葉の深いところまでは汲み取れなかったが、ハヨンはリョンヤンの言葉に頷く。
「わかりました。」
その返事にリョンヤンはありがとうと呟いた。
「リョンヘは自分は強いから大丈夫だ、といつも笑うんです。確かにリョンヘは強いのですが、記憶を奪われるほどの大きな力に一人で太刀打ちできるとは私は思えないのです。」
リョンヤンの主張は確かに頷けるものだった。目には見えない何か、そして悪意は王族という立場であれば普通の人よりも何倍も危険性を孕んでいる。
「そうですね。何が裏で働いているのかわかればいいのですが…。」
「…もし私と彼が一緒にいて、危険な目に遇ったら、本当は彼を守ってほしいと言いたいのです。」
リョンヤンのぽつりと呟いた本音は、聞いてはいけないものだった。そんなことをしては、ハヨンが仕事を放棄するのと同じで、罪を問われる。ハヨンの立場は、どんな困難な状況でも、両方を守ることだ。
相づちを打てなくなったハヨンに構わず、リョンヤンは自分の本音を吐き出し続けた。
「何だかんだいって、私は毎回刺客に襲われても難を逃れています。それにリョンヘのようにしょっちゅう不審な事故に遭ったこともありません。私、運だけはいいんです。」
狼狽えるハヨンを見ながらリョンヤンはにっこり笑って、
「すみません、困らせてしまいましたよね。さっきのことは聞かなかったことにしてください。」
と言ったあとは黙って小鳥と戯れていた。
(リョンヘが不審な事故にしょっちゅう遭うなんて…。いくら王権争いと言えど、何だか不穏だな…。少し調べてみよう。)
そう心に決めたあとは、リョンヤンの呟いた言葉が頭の中でぐるぐると繰り返され、ハヨンはどうしたものかと頭を抱えた。
リョンヤンがその王子ではないハヨンに理由を教えてくれる辺り、リョンヤンも少し助力したいと思ってくれたのかもしれない。それに、とリョンヤンは苦しそうに付け加えた。
「リョンヘは獣が操れないし、10年前までの記憶が無いんです。」
その言葉にハヨンは息を呑んだ。
獣を扱えないということは、王家では落ちこぼれとして扱われると聞いていた。王位継承権についてはリョンヤンとリョンヘでは同じ地位で、現王の父が決めることとなっている。しかし、どちらかというとリョンヤンの方が家臣の間では支持が多いので、疑問を持っていたのだが、これで納得がいった。
その上、戦になったら、体の弱いリョンヤンを連れ出して、総大将として陣の後方に待機してもらい、リョンヘは兵士の一団を率いることになっていたので、不思議だったのだ。ヘウォンに聞けば少し気まずそうな顔をしていたが、獣を扱えないことを言ってはいけないことが暗黙の了解になっていたのだ。
様々な疑問が解けていくなか、ハヨンはこの城で最も親しい人物が、恩人でなかったというのは少し嬉しかった。自分にとって友人である人が急に命の恩人の王子となってしまったら、寂しく感じるだろうと、とっさに考えていたからだ。
獣を操る能力が無いことも気にはなるものの、ハヨンはリョンヤンの言っていたもうひとつのことが気になっていた。
「あの、記憶が無いというのは…。」
「私が風邪をひいたとき、一度だけリョンヘは一人で町に出たことがあるんです。どうやら私の好きな菓子を買いに行っていたようですね。でも、いつまでも帰ってこないので、大騒ぎになったんです。そうしたら夜に城の前に意識を失ったリョンヘが倒れていたんです。王族を表す剣の紋章と、私に買ってくると約束していた菓子があったので、間違いなく王子のリョンヘだとわかりました。」
そのとき、リョンヤンは目を伏せる。長い睫毛が、目元に影をつくった。ハヨンは彼が慎重に言葉を選んで話す様を見て、そのまま黙って耳を傾ける。
「そのあと目を覚ました彼は記憶を失っており、もともと持っていた獣を操る能力も失いました。ですから正しく言えば操れないのではなく、操れなくなったんです。」
リョンヘにはそれは人生が大きく変わってしまった一つの出来事だろう。その上、記憶のない状態で王子としての生活を続けるのも苦労したに違いない。
リョンヤンは伏せていた目をハヨンの方に向け、意を決したような目つきに変わる。ハヨンはその勢いに圧倒された。
「一つお願いがあるんです。リョンヘはこの他にも様々な奇妙なことに出くわしています。私としてはこれは何かに狙われているとしか思えないのです。ですから、もしあなたがリョンヘと行動を共にする機会があれば、そのときは彼を守ってはもらえませんか。」
それはハヨンと会っているときのことを指しているのか。言葉の深いところまでは汲み取れなかったが、ハヨンはリョンヤンの言葉に頷く。
「わかりました。」
その返事にリョンヤンはありがとうと呟いた。
「リョンヘは自分は強いから大丈夫だ、といつも笑うんです。確かにリョンヘは強いのですが、記憶を奪われるほどの大きな力に一人で太刀打ちできるとは私は思えないのです。」
リョンヤンの主張は確かに頷けるものだった。目には見えない何か、そして悪意は王族という立場であれば普通の人よりも何倍も危険性を孕んでいる。
「そうですね。何が裏で働いているのかわかればいいのですが…。」
「…もし私と彼が一緒にいて、危険な目に遇ったら、本当は彼を守ってほしいと言いたいのです。」
リョンヤンのぽつりと呟いた本音は、聞いてはいけないものだった。そんなことをしては、ハヨンが仕事を放棄するのと同じで、罪を問われる。ハヨンの立場は、どんな困難な状況でも、両方を守ることだ。
相づちを打てなくなったハヨンに構わず、リョンヤンは自分の本音を吐き出し続けた。
「何だかんだいって、私は毎回刺客に襲われても難を逃れています。それにリョンヘのようにしょっちゅう不審な事故に遭ったこともありません。私、運だけはいいんです。」
狼狽えるハヨンを見ながらリョンヤンはにっこり笑って、
「すみません、困らせてしまいましたよね。さっきのことは聞かなかったことにしてください。」
と言ったあとは黙って小鳥と戯れていた。
(リョンヘが不審な事故にしょっちゅう遭うなんて…。いくら王権争いと言えど、何だか不穏だな…。少し調べてみよう。)
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