華の剣士

小夜時雨

文字の大きさ
上 下
46 / 221
新たな任務

話を聞いて

しおりを挟む
「それで私も宴会に立ち会うことになって。食事も一緒にとるんだけど、絶対喉を通らない気がするの。」

  以前のようにリョンつまりリョンヘ王子と朝に中庭でハヨンは立ち話をしている。今回は新たな任務について、つい弱腰になって話してしまった。

「ははっ。じゃあ俺の近くにあんたが座る訳か。こりゃあ女官達もおちおちしてられないな。それにしてもさすがヘウォン。やることがはちゃめちゃ過ぎて、保守派の家臣たちが眉を寄せる姿が想像できる。」
「…私としては全然笑い話じゃないんですけど。」

  ハヨンが不満をあらわにした声を出すと、リョンも人が悪い笑みを浮かべる。

「そんなに重く考えるなって、これは父上に信頼されているヘウォンが考えたことなんだから、誰も表だって反対しないしあんたはその策に巻き込まれただけだ。」
「まぁ、それはそうなんだけど。毎度毎度私とすれ違う度に目だけで殺しそうなぐらい険しく睨んできたり、『あらやだ、ごめんなさい』ってわざと足を踏まれるのは納得いかないんですよ!」

  リョンには本音を言ってしまうので、ほとんど城での愚痴を聞いてもらってるようになるのだが、妙に丁寧な話し方になってしまう。やはり王子相手に砕けた口調で話すのは気が引けて、無意識にそうなるのだ。
  しかしリョンはそれが気にくわないらしい。

「敬語は?」
「…なしで。」

  毎度尋ねられて答えると、リョンは満足そうに頷く。そんなに対等に扱ってほしいのだろうか。下に見られて釘を刺すならともかく、ハヨンにはよくわからない。

「なんでそんなに敬語を気にするの?」

一度はっきり聞いてやろうと思い、意を決して尋ねた。

「だって俺とあんた、同い年だし。」
「いやいや、そんなの理由にならないし。」

  リョンヤン王子がハヨンと同い年なのは知っていたので、当然双子のリョンヘつまりリョンも同い年なのはわかる。しかしそれだけで敬語にこだわっているようではないので、ハヨンは気になったのだ。

「俺を同等に扱ってくれる人があんたとリョンヤンくらいだからだよ。」

  しかしハヨンは出会った当初、リョンを侵入者と思っていたので、それにも少し誤解がある気がするが、黙っておくことにした。

「でも、リョンの姿なら町の人達は同等に扱ってくれたんじゃない?」
「いや町の人でも同世代では、女は恋人になれって迫ってきて、男はそんな俺を見て煙たがってるんだよなぁ。他の世代とは上手くいくんだけど。同世代で俺の中身をちゃんと見てくれる人はいるのかなってうんざりしててさ。」

  リョンがぽつりと呟いた言葉に、何かリョンの心の奥底が垣間見えた気がした。そのため彼の発言は嫌味には聞こえなかった。

(…まぁ、女の子に人気が出るのはしょうがないよね…)

  王族の王子の中でも下女達に人気があるのがリョンヤンとリョンヘだ。女官では圧倒的にリョンヘに人気が傾いているのだが、それはわからないので置いておく。二人は顔の大部分は似ているが、あとは美しいか、凛々しいかという違いで人気が分かれる位だろう。

(それにしても町でも人気あるんだ。別にもてようとはしてないみたいだけどな…。もしかして、やっぱり天性のたらしだったりして…。)

ハヨンはそう一人で納得していた。

「まあ、そんなこんなで俺の中身を見てくれているあんたとはもっと仲良くなりたいんだ。それに友達と敬語だとなんか変だろう?」

  笑ってみせた彼の顔を見て、ハヨンは彼が人気の理由への確信をますます深めたのだった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...