華の剣士

小夜時雨

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武闘会

開幕

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「あれが噂の女隊員か。」
「はい。女人と言っても男に勝る者があり、私には逸材だと思います。」

 そうヘウォンが答えた相手は、燐の国の王、ヒチョル王だ。王や軍の幹部は他の観戦者よりも高い位置から観戦しており、会場が一望できる。
 城の中にある武道会館では二試合同時に行われていたが、今回の入隊式後に作られた女人用の道着を纏うハヨンの試合は目を引いた。もしかすると、他の隊員より小柄ということもその効果が上乗せされたかもしれない。

(それにしても、彼女の型の安定感はたまげたものだ。)

 大抵の若者は、型がまだ安定しておらず、その欠けた部分を力で補う節がある。そのため無駄な体力の消耗や、怪我の危険が高まるので、先輩の隊員が入隊直後にしっかりと型をたたきこむのだ。
しかし彼女は既に他の体術を習得しており、流れるような動作で相手を倒してしまう。立場上あまり鍛練には参加していないヘウォンだったが、彼女には教えることが無いと、妬み半分、称賛半分の言葉を耳にしたことが何度かあった。

(一体どこで教わってきたのか。一度聞いてみたいものだ。)

 ヘウォンがそんなことを考えている内に、ハヨンは相手を倒してしまった。

「彼女が私の家族を守ってくれるようになれば、何やら面白そうだな。それに実力も申し分ない。」

 ヒチョルは珍しく目新しい者にも躊躇しない性格の王で、彼女にもどうやら悪い印象は持っていないようだ。

(私にとっては助かるのだが、古い考えを持つあのじいさんや宰相は嫌がるだろうな。)

 じいさん、とはもちろんチェソンのことである。もし彼に彼女のことを認めてもらえなければ、彼女はこの城から出ていかねばならない。

(どうか無事に勝ってくれよ。)

 ヘウォンは小さな背中を見ながらそう願うのだった。




(ここまでは恐いくらいに順調だったな…。)

 ハヨンは武道会館から聞こえる歓声を聴きながら今までの試合をふりかえった。対戦してきた相手は全員肉弾戦を得意とする兵士ばかり。
 しかしこれから対戦する相手はどうやら刀や槍を得意とする者が多いらしい。ハヨンは今まで、練習相手はほとんどがヨウだったため、刀はともかく槍の類を操る者と手合わせしたことが片手で数えるほどしかなかった。
 刀と槍では刃が届く距離が全然違う。どう考えても刀の方が圧倒的に不利である。

(あまり使ったことがないけど、私も槍を使うべきかな…。でも経験がないから余計に足手まといなだけだ。)

 今回の武闘会では数本ある木刀の中から、好きなものを選んで戦う方式だ。そのため父が造った軽くて切れ味の良いあの自慢の刀も封印されている。

(槍に勝つためにはどうするべきか…。)

 ハヨンは残された僅かな時間の内になんとしても思いつかなければならなかった。

(ええと、ヨウさんはたしか…。槍は衝撃に弱くて、特に剣先とかの接合部が弱点で、落ちるって言ってたけど、今回は刃はついてないから…棒術に近いのかな?あとは、狭いところだと使いづらいとか…)

 いくら考えてもハヨンはますます混乱を深めるばかりだ。今までに無いほど危機的な状況かもしれない。
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