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差し伸べられた手
ゆかりある人弐
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「それは…どういうことですか?」
「お兄様が亡くなったとき、家ではもともとその話が出ていたのよ。女手ひとつでましてや町がこんなにも荒れている時勢に子供を育てるなんて無理があるって。でもチャンヒさんは遠慮してあまりチュ家に関わらなかったから、反対する親族もいてね。ずいぶんもめて。いざ、迎えに行こうとしたとき、あなたたちはもう、あの家にはいなかった。」
鍛冶職人の父がいないのに、あんな立派な家で住むのはお金がかかって無理だったとチャンヒがいっていたのをハヨンは思い出した。
「ねぇ、ハヨン。チュ家に入ればチャンヒさんも、ハヨンも、何の苦労もなく暮らせるわ。それに女の子がこういう危険な仕事をしなくても大丈夫になるし。」
どうやらドゥナは、ハヨンが稼ぐために命懸けの仕事についていると思ったようだった。
「あなたも年頃の女の子だし、素敵な貴族の男性と結婚して、幸せな家庭を築けるよう、見合いの手筈も整えるし。ね?悪くない話でしょう?」
そう畳み掛けるように話すドゥナは全て好意でしているようなのだが、ハヨンにはどうも受け入れがたい話だった。
「叔母様。申し訳ないのですが私はこの仕事を好いてやっているのです。それに、見合いに興味はありません。」
ドゥナは目を瞬かせた。彼女もまた、嫁いで幸せな家庭を築くことが幸せだと思っているのだ。確かにそのことも幸せであることには変わりないのだが、それ以外にだって幸せはあるはずなのだ。
「私は母が不自由なく過ごせることも望んではおります。しかし今回の件は好意だけ受けとる、という訳にはいきませんでしょうか。なぜなら私は武人として全てをこの燐の国に捧げるつもりでいるのです。」
今まで顔も見たことがなかった、ほとんど他人に近いようなハヨンやチャンヒのことを、こんなにも気遣われていたこと自体はとてもありがたかった。そのため、ハヨンはその好意をはねのけるような返事をすることが少し申し訳なく感じる。
「そうなのね…。それにしても、武官を目指した辺り、さすがはチュ家の血を継ぐ娘だわ。」
ドゥナが残念そうに微笑みながら、そう呟くように言った。ハヨンはその言葉を聞いて思わず椅子から少し腰を浮かせる。
「さすが…とは??」
そのハヨンの様子を見たドゥナは目を見張った。
「まさか、あなたお兄様から何も教えてもらってないのかしら。」
「はい。ですので、父が貴族の地位を捨てたにも関わらず、チュ家の名を名乗っていたことも、なぜ鍛冶職人になったのかも存じ上げないのです。」
ドゥナは、まさかお兄様がこんなに何も言ってないなんて…と呆然としていたしかし、気を取り直して彼女はハヨンに父の生い立ちを語りだした。
「お兄様はね、昔は体が弱くて。元服を迎えるまで生きていられるかわからなかったのよ。」
「やっぱりそうだったんですね。そのことだけは母から聴きました。」
ハヨンはほっとした。母チャンヒから聞いた話は本当のことだったのだと実感できたからだ。チャンヒが嘘をついているなどとは思っていないが、父の記憶が少ないせいで現実味が湧いていなかったのだ。ドゥナの言葉によって、父は本当にここにいたのだと感じた。
「ええ、だから貴方のお祖父様とおばあ様はお兄様が好きなことをして過ごせるようにお兄様の決めたことは決して反対しなかったの。そして元服を迎える前に家を出て、鍛冶職人に奉公していたのね。」
貴族の息子で病弱ではあったが、どうやら父親は行動力のある男だったようだ。ハヨンは優しい笑顔と手つきで己の頭を撫でていた父を思い返す。彼にも若く、大胆に生きた頃があったのだ。そう考えると、城の中でこれから頑張って行きたいと思う自身と重なって、嬉しくなった。
「なぜ、父は刀鍛冶を目指したんですか?」
ハヨンは昔の父の姿をより知りたいと感じ、身を乗り出してそう問うた。
「お兄様が亡くなったとき、家ではもともとその話が出ていたのよ。女手ひとつでましてや町がこんなにも荒れている時勢に子供を育てるなんて無理があるって。でもチャンヒさんは遠慮してあまりチュ家に関わらなかったから、反対する親族もいてね。ずいぶんもめて。いざ、迎えに行こうとしたとき、あなたたちはもう、あの家にはいなかった。」
鍛冶職人の父がいないのに、あんな立派な家で住むのはお金がかかって無理だったとチャンヒがいっていたのをハヨンは思い出した。
「ねぇ、ハヨン。チュ家に入ればチャンヒさんも、ハヨンも、何の苦労もなく暮らせるわ。それに女の子がこういう危険な仕事をしなくても大丈夫になるし。」
どうやらドゥナは、ハヨンが稼ぐために命懸けの仕事についていると思ったようだった。
「あなたも年頃の女の子だし、素敵な貴族の男性と結婚して、幸せな家庭を築けるよう、見合いの手筈も整えるし。ね?悪くない話でしょう?」
そう畳み掛けるように話すドゥナは全て好意でしているようなのだが、ハヨンにはどうも受け入れがたい話だった。
「叔母様。申し訳ないのですが私はこの仕事を好いてやっているのです。それに、見合いに興味はありません。」
ドゥナは目を瞬かせた。彼女もまた、嫁いで幸せな家庭を築くことが幸せだと思っているのだ。確かにそのことも幸せであることには変わりないのだが、それ以外にだって幸せはあるはずなのだ。
「私は母が不自由なく過ごせることも望んではおります。しかし今回の件は好意だけ受けとる、という訳にはいきませんでしょうか。なぜなら私は武人として全てをこの燐の国に捧げるつもりでいるのです。」
今まで顔も見たことがなかった、ほとんど他人に近いようなハヨンやチャンヒのことを、こんなにも気遣われていたこと自体はとてもありがたかった。そのため、ハヨンはその好意をはねのけるような返事をすることが少し申し訳なく感じる。
「そうなのね…。それにしても、武官を目指した辺り、さすがはチュ家の血を継ぐ娘だわ。」
ドゥナが残念そうに微笑みながら、そう呟くように言った。ハヨンはその言葉を聞いて思わず椅子から少し腰を浮かせる。
「さすが…とは??」
そのハヨンの様子を見たドゥナは目を見張った。
「まさか、あなたお兄様から何も教えてもらってないのかしら。」
「はい。ですので、父が貴族の地位を捨てたにも関わらず、チュ家の名を名乗っていたことも、なぜ鍛冶職人になったのかも存じ上げないのです。」
ドゥナは、まさかお兄様がこんなに何も言ってないなんて…と呆然としていたしかし、気を取り直して彼女はハヨンに父の生い立ちを語りだした。
「お兄様はね、昔は体が弱くて。元服を迎えるまで生きていられるかわからなかったのよ。」
「やっぱりそうだったんですね。そのことだけは母から聴きました。」
ハヨンはほっとした。母チャンヒから聞いた話は本当のことだったのだと実感できたからだ。チャンヒが嘘をついているなどとは思っていないが、父の記憶が少ないせいで現実味が湧いていなかったのだ。ドゥナの言葉によって、父は本当にここにいたのだと感じた。
「ええ、だから貴方のお祖父様とおばあ様はお兄様が好きなことをして過ごせるようにお兄様の決めたことは決して反対しなかったの。そして元服を迎える前に家を出て、鍛冶職人に奉公していたのね。」
貴族の息子で病弱ではあったが、どうやら父親は行動力のある男だったようだ。ハヨンは優しい笑顔と手つきで己の頭を撫でていた父を思い返す。彼にも若く、大胆に生きた頃があったのだ。そう考えると、城の中でこれから頑張って行きたいと思う自身と重なって、嬉しくなった。
「なぜ、父は刀鍛冶を目指したんですか?」
ハヨンは昔の父の姿をより知りたいと感じ、身を乗り出してそう問うた。
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