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「おい、ハヨン。」
「はい。」
(またか。)
先輩の隊員が話しかけてきた時、こんな先入観を持ってはいけないと思いながらもハヨンは心の中でげんなりしてしまう。
「悪いが、武道場の掃除を頼む。こいつらに寮の掃除当番のことで説明しなきゃならないんだ。」
「わかりました。」
「あの…、先輩っ!俺らも手伝った後で教えていただくのはいけませんか。」
ガンハンがおそるおそるといったふうに問う横で、ドマンも頷いていた。
「駄目だ。お前らこのあと時間とれるのは訓練後しか無いだろ?そのくせ部屋戻ったらお前らすぐに寝るし。」
うっ。と反論出来ず、言葉に詰まった二人は、ハヨンに申し訳なさそうな顔をしながら先輩達についていった。
硬く雑巾を絞りながら、ハヨンは深くため息をつく。殴られたり悪態をつかれるなどの嫌がらせは受けてはいないものの、ハヨンはしょっちゅう雑用を頼まれては休み時間のほとんどを掃除に費やしたり、自分も訓練をしたいのに、上官に伝令として遣われることがある。下っ端という立場ならガンハンとドマンも同じなのにも関わらず、なにかと理由をつけてハヨンばかり雑用をしていた。
また、ハイルも副隊長であり、王妃の警護をしている身でもあるので、なかなか訓練に顔を出さず、先輩達はやりたい放題である。その上、ハヨンは下っ端であるし、相手は一応ものを頼むという体なのでなかなか断りづらい。
この連鎖を断ち切るにはどうすれば良いのだろう。ハヨンは悩みを振りきるように勢いよく雑巾がけを始めた。
「なに、あんたまた掃除してるの。」
この城に住み始めてから数日。知り合いもまだ少ないハヨンに、聞き覚えのある声がした。
振り返るとリョンが武道場の入り口に立っている。今日は竪琴を携えており、いったい彼はいくつ楽器が弾けるのだろうとハヨンは不思議に思いながら雑巾がけを再開した。
「またって、リョンに会ったのこれで2回目だよね?」
「いや、俺にしたら4回目。その殆んどが掃除中で中断させるのは悪いと思って声かけるのを止めたけどね。」
一介の芸人だというのに、彼はどれ程自由に城内を歩き回っているのだろう。
(もしかすると他国の手先か何かなのか…。)
新な考えが思い浮かんでしまう。
「あなた、そんなに歩き回ってるといくら王に気に入られているとは言え、怪しまれるわよ。」
「ふふふっ。そりゃ最初は何をしていると言われたものさ。でもな、俺がただ宛もなくさまよっては城の人達に演奏して回ってるのを見て、もう誰も咎めなくなったな。」
(城の警備体制を問いただしたい…。)
とりあえず城で認められているのならば執拗に追い返してもしょうがない。ハヨンはリョンの話し相手になることを決めた。
「それにしてもこれは嫌がらせだろう?新隊員がたった一人で掃除をするなんておかしな話だ。」
リョンは戸口で靴を脱ぎ、武道場の中に入ってくる。そして勝手知ったる様子で雑巾を1枚持ってきて、床に置いてあった桶に浸した。
「…何してるの」
「何ってもちろん…手伝うんだけど?」
リョンは満面の笑みを浮かべる。リョンは手際よく掃除を始めた。ハヨンも手伝ってもらうのは助かるので、断らずありがたく好意に甘えることにした。
「あんた、掃除を押し付けられて拒否しないのか。」
「…逆に目上の人に頼まれたこと、そう簡単に断れるもの?」
「…確かにな。でもこれは明らかに不公平だ。」
掃除を一通り終えて、武道場を出た二人は並んで歩く。この前に会ったときもさっきまでもリョンは飄々としていたのだが、今は酷く険しい顔で、彼はこんな顔もできるのかとハヨンは場違いながらにも考えた。彼は拳を握りしめ、さも自分のことのように悔しがっていた。
(変わった人だ…。)
ほんの数回しか会っていない、そしてこんなにも警戒心丸出しのものになぜ情を持てるのだろう。
「世の中不公平なのは当たり前だよ。それは町で暮らしてきたからよくわかってる。力の弱いものは強いものに呑まれる。」
「俺は納得いかないな」
「私も納得いかないわよ。…だから私はこの形をかえてやる。」
いつかあの人の元で仕えるため。私は上にのしあがる力が欲しいのだ。
「…そうか。頑張れ。何かあったら俺にも言って。力になる。」
「はははっ。リョンは芸人じゃない。私達には全然関係無いでしょ。…でもそうだね…。相談相手になってもらえると嬉しいかな。」
今回助けてもらったからだろうか。ハヨンはもう弱い所を見せたので、この人には弱さを見せてもいいと思い始めていた。
「はい。」
(またか。)
先輩の隊員が話しかけてきた時、こんな先入観を持ってはいけないと思いながらもハヨンは心の中でげんなりしてしまう。
「悪いが、武道場の掃除を頼む。こいつらに寮の掃除当番のことで説明しなきゃならないんだ。」
「わかりました。」
「あの…、先輩っ!俺らも手伝った後で教えていただくのはいけませんか。」
ガンハンがおそるおそるといったふうに問う横で、ドマンも頷いていた。
「駄目だ。お前らこのあと時間とれるのは訓練後しか無いだろ?そのくせ部屋戻ったらお前らすぐに寝るし。」
うっ。と反論出来ず、言葉に詰まった二人は、ハヨンに申し訳なさそうな顔をしながら先輩達についていった。
硬く雑巾を絞りながら、ハヨンは深くため息をつく。殴られたり悪態をつかれるなどの嫌がらせは受けてはいないものの、ハヨンはしょっちゅう雑用を頼まれては休み時間のほとんどを掃除に費やしたり、自分も訓練をしたいのに、上官に伝令として遣われることがある。下っ端という立場ならガンハンとドマンも同じなのにも関わらず、なにかと理由をつけてハヨンばかり雑用をしていた。
また、ハイルも副隊長であり、王妃の警護をしている身でもあるので、なかなか訓練に顔を出さず、先輩達はやりたい放題である。その上、ハヨンは下っ端であるし、相手は一応ものを頼むという体なのでなかなか断りづらい。
この連鎖を断ち切るにはどうすれば良いのだろう。ハヨンは悩みを振りきるように勢いよく雑巾がけを始めた。
「なに、あんたまた掃除してるの。」
この城に住み始めてから数日。知り合いもまだ少ないハヨンに、聞き覚えのある声がした。
振り返るとリョンが武道場の入り口に立っている。今日は竪琴を携えており、いったい彼はいくつ楽器が弾けるのだろうとハヨンは不思議に思いながら雑巾がけを再開した。
「またって、リョンに会ったのこれで2回目だよね?」
「いや、俺にしたら4回目。その殆んどが掃除中で中断させるのは悪いと思って声かけるのを止めたけどね。」
一介の芸人だというのに、彼はどれ程自由に城内を歩き回っているのだろう。
(もしかすると他国の手先か何かなのか…。)
新な考えが思い浮かんでしまう。
「あなた、そんなに歩き回ってるといくら王に気に入られているとは言え、怪しまれるわよ。」
「ふふふっ。そりゃ最初は何をしていると言われたものさ。でもな、俺がただ宛もなくさまよっては城の人達に演奏して回ってるのを見て、もう誰も咎めなくなったな。」
(城の警備体制を問いただしたい…。)
とりあえず城で認められているのならば執拗に追い返してもしょうがない。ハヨンはリョンの話し相手になることを決めた。
「それにしてもこれは嫌がらせだろう?新隊員がたった一人で掃除をするなんておかしな話だ。」
リョンは戸口で靴を脱ぎ、武道場の中に入ってくる。そして勝手知ったる様子で雑巾を1枚持ってきて、床に置いてあった桶に浸した。
「…何してるの」
「何ってもちろん…手伝うんだけど?」
リョンは満面の笑みを浮かべる。リョンは手際よく掃除を始めた。ハヨンも手伝ってもらうのは助かるので、断らずありがたく好意に甘えることにした。
「あんた、掃除を押し付けられて拒否しないのか。」
「…逆に目上の人に頼まれたこと、そう簡単に断れるもの?」
「…確かにな。でもこれは明らかに不公平だ。」
掃除を一通り終えて、武道場を出た二人は並んで歩く。この前に会ったときもさっきまでもリョンは飄々としていたのだが、今は酷く険しい顔で、彼はこんな顔もできるのかとハヨンは場違いながらにも考えた。彼は拳を握りしめ、さも自分のことのように悔しがっていた。
(変わった人だ…。)
ほんの数回しか会っていない、そしてこんなにも警戒心丸出しのものになぜ情を持てるのだろう。
「世の中不公平なのは当たり前だよ。それは町で暮らしてきたからよくわかってる。力の弱いものは強いものに呑まれる。」
「俺は納得いかないな」
「私も納得いかないわよ。…だから私はこの形をかえてやる。」
いつかあの人の元で仕えるため。私は上にのしあがる力が欲しいのだ。
「…そうか。頑張れ。何かあったら俺にも言って。力になる。」
「はははっ。リョンは芸人じゃない。私達には全然関係無いでしょ。…でもそうだね…。相談相手になってもらえると嬉しいかな。」
今回助けてもらったからだろうか。ハヨンはもう弱い所を見せたので、この人には弱さを見せてもいいと思い始めていた。
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