華の剣士

小夜時雨

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長の議の間で

型破りな入隊

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 ハヨンが合格し、実家へと戻っているとき、城内ではちょっとした騒ぎとなっていた。

「どういうことだ!ヘウォン殿!」

 青筋を立てて起こっている初老の男は朱雀の隊長ソ・チェソンだ。

「落ち着いてくださいよチェソン殿。私はなにもおかしなことはしていないでしょう?」

 ヘウォンはすましたような様子でで座っている。そのためか、チェソンは余計に腹立たしい様子だった。
 この場にいる面々は、それぞれの隊の長や副隊長であり、彼らは話し合うことがある場合この長の議の間(おさのぎのま)を使っている。ここは王族でさえ許可なしには足を踏み入れることのできない場所である。
 なぜ今彼らが集まっているのかというと、白虎の合格者の中に女人がいると聞きつけ、ヘウォンに真偽を確かめるためだ。

「おかしなこと?今まで女の兵士がいたという記録が一切ないにも関わらず、一人で合格と判断したことのどこがおかしくないと言い切れる。」
「チェソン殿もそれのどこがおかしいと言い切れるのです?」
「ええい、人の言葉で遊ぶな!」

 拳を卓にぶつけるチェソンは短気なようで、ヘウォンの挑発に毎度突っかかって行く。

「ちょ、ヘウォンさん。チェソン様をからかうのやめてくださいよ。こっちまでとばっちり食らうの嫌ですからね。」
 
チェソンと火花を散らしているヘウォンに、ハイルはささやく。

「大丈夫だ、お前に迷惑はかけん」

 返事をするヘウォンが人の悪い笑みを浮かべているのを見て、これは頼りにならない、とハイルはこっそりため息をつく。

「わしの何がおかしいと言うのだ!地位が同じとは言え、わしに無礼な口をきくな。」

 やれやれ、これだから頭の固いじいさんは。とヘウォンが小さな声で呟くので、ハイルは誰かに聞かれてはいないかと肝を冷やす。思わず辺りを見渡し、聴いていたものがいないかを確認する。幸いハイル以外の耳には届かなかったようでほっとした。

「はっきり言って差し上げましょう。その考えはもはや古いものです。」
(ああ…。ヘウォンさんは何がしたいんだ…!)

 次々とこの場で最高齢である人に、非礼を重ねる上司にハイルは泣きたくなったのだった。

「なに…!そなたはわしを愚弄するのか!」
「いいえ、チェソン殿を馬鹿になどしておりません。あなたは他国から攻めいられたとき、何度もその知恵でこの国を守ってこられました。ただ、刻一刻と変わる世の中では、昔のままの考えは時に危ういと申し上げたいのです。」

 チェソンはヘウォンの賛辞に気をよくしたのか、険しい顔が少し穏やかになる。単純だな、とハイルはやや呆れた。

「今この燐は、幾年にも渡る夏の干魃による飢饉や、流行り病で人口が急激に減少しております。そのため、女人も兵士とならねばならぬ時が遅かれ早かれくると思うのです。」

 この数年間、毎年夏に干魃が起こるので、何か天がお怒りなのではとまことしやかに囁かれているのをハイルは思い出す。もっともな理由で、チェソンも話を遮らずに聞いていた。

「それに何より、私の試験に実力で合格しましたので、女人と言えど武術においてかなりの腕前でもありました。」
「ならば仮にわしらが彼女が兵士となることを認めるとする。その事によって起きる宮中での噂は?誰かの縁故(昔の縁を使って優遇してもらうこと)で合格したなどと、白虎の威信を欠くようなものや、ヘウォン殿は女好き、などとヘウォン殿に対する評判が落ちるようなものもあるかもしれん。」
「それならば問題無いと思います。」

 ヘウォンの自信ありげな顔に、ハイルは感心した。

(俺はこのじいさんとは徹底的に関りあいたくないから、絶対気を損ねないようにしていた。ヘウォンさんは己の信ずる道を行く人だが、いったいその自信はどこからわいてくるのだろう。)

「それは彼女の実力を最初に見せつけることによって、完全にとはまだ言い切れませんが、抑えることができると思います。ですので皆さま…新隊員が入隊したとき、できるだけ早くに武闘会を開いていただきたいのです。」












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