華の剣士

小夜時雨

文字の大きさ
上 下
12 / 221
温かいもの

ただいま

しおりを挟む
「二人とも話はそこまででとりあえず座ったらどう?ちょうど夕飯が出来上がったところなの。」

 チャンヒは木椀に料理を盛り付けたものを机に並べる。確かに煮物は湯気が立っていて、できたてのようだ。

「今日はハヨンの好きなものを作ったの。たくさん食べなさいよ。」

「うん、ありがとう。」

 3人は手を合わせてから食事を始める。しばらく食器が触れ合う音だけが響く。ハヨンは今日一日歩き続けていたので、腹も空いていた上、ここ何日か他所での生活だったので、慣れ親しんだ味が口の中に広がることでほっとした。

「城にはいつから行かなければならないの?」
「4日後だね。入隊式は一週間後なんだけど、向こうの寮の片付けとかしなきゃならないし。」

 家からの距離も考えるとどうしても住み込みで勤めることになり、そうすればおのずと荷物も多くなる。きっと入隊直後は疲れきって荷物の整理もままならないだろう。だとすれば忙しくなる前に片付けをした方が楽に決まっている。

「しかしまぁ、年月としつきっていうのは早いものだな。この間までまだほんのガキだった癖に、もう娘になって、兵士になるんだからなぁ。」

「ヨウさん、何だかおじいさんみたいなこと仰いますね」

 珍しくしみじみとしているヨウにハヨンはからかい半分で返事をする。

「いや、お前はもう、俺の娘同然だからな。子供が旅立つ時はこんなものかと思っていたところだ。」

ヨウは燐にも故郷にも妻子はいない。どうやら数少ない弟子達を代わりに自分の娘、息子のように思っていたようだ。

「そうですね。時が過ぎるのは早いものです。ハヨンが剣士になりたいと言った頃からあっと言う間だったように感じます。あの頃はこんなに小さくてヒョロヒョロだったのに」

とチャンヒは手でハヨンが小さい頃の背丈を表す。

「今じゃ女の人にしてはずいぶんと背が高いものね。それにたくましいし。何か運んで貰うときは、村の男の人よりハヨンに頼った方がいいくらいよ。」

 以前チャンヒに頼まれて村の男が荷物を運ぼうとしたが重すぎて諦めかけたことがある。しかし、ハヨンが運べるといいはり、村の連中が疑い半分で任せたところ、無事目的の場所まで運んだのだ。

「それにしても若衆(若い男たちのこと)に運べなかった荷物を軽々とハヨンが担ぎ上げたときのあいつらの顔は…。なかなかに面白かったな。」

にやにやと思い出し笑いをするヨウを見て、ハヨンは少し恥ずかしくなった。

「やめてくださいよ、私が鍛練を怠らなかっただけで…。」

「しかしな、普通はあんな重いもん普通の女では持ち上げられんわ。」

「そうよ。せっかく収穫した野菜をどうやって運ぼうかすっかり困っていたもの。ハヨンがそんなに力持ちだなんて知らなくて、私も唖然としたわ」

 思わず驚きと悔しさが混じった若い男の顔と、母の驚愕した顔を思いだし、ハヨンは吹き出しそうになった。そしてそんなハヨンに、余裕たっぷりといった様子で戦っていたヘウォンはいったいどれくらいの強さなのか。全くはかりしれない男だ。

「最初は性別についてとやかく言われるかもしれんが、お前の腕前をみれば何も言えんだろうな。」

「うーん、出来るだけ早くそうなるように頑張ってみます。」

ハヨンは微笑みながらそうこたえた。




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...