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温かいもの
道程
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全ては自分の身と母の命を救って貰ったことへの恩返しのため。そしてもし恩人に出会えたとしたら、心を込めて礼を言って、自分の務めを全うすることで助けて貰った分、仕えたいと常々思っていた。
(最初に白虎に入りたいって母さんに言ったときは驚いていたなぁ。そりゃそうだ。誰だって驚く。)
チャンヒがすっかり元気になった頃、ハヨンが思いを打ち明けたときの彼女の顔は忘れられない。
燐の国では女性は戦には関わらない風習があり、生涯武器を触ることさえ無い女性も少なくない。武器にふれあう機会がある女性はせめて武器商人や鍛冶屋の妻ぐらいだろう。
武器を手にし、それを使って生涯を生きていくという女など、物語でもない。
夢のまた夢。と一蹴されてもおかしくなかった。
チャンヒが驚きながらも案外すんなりと受け入れたのは、どんなに反対されても自分の意思を貫こうとするハヨンの性格を知っていたことが一番大きいだろう。
(母さんはいつも私のために応援してくれる。本当に母さんには頭があがらないな…。)
また、ハヨンにとって感謝してもしつくせない相手はまだ二人いる。母が病にかかってから、手伝いとしてハヨンを雇い、何かと世話をやいてくれた医術師のヒョンテと女で剣士を目指すハヨンを厳しく指導した師匠のヨウだ。
「白虎に入るために武術を身につけたいから俺の弟子にしてくれだと?」
「はい」
ハヨンが剣士になることを志して間もない頃、近所に住む強いと評判の男がいた。彼は遠い東の国からやって来たらしく、変わった衣装を着ており彼がやって来た頃は皆の注目の的であった。
彼は武人だったらしく、この町に住み着いてから間もなく道場を開いた。彼の教える武術は異国のものなのか一風変わっていたうえに、燐の言葉を上手く話せない彼の指導はなかなかに難しかったらしい。興味本意で始めたものは数えきれないほどいたが、道場に残った者は片手で数えられる程だった。
強くなれると評判の道場でもないのに、この国でも最強の部隊に入りたいからと教えを請いに来て、さらにそれが女だったのだから、ヨウは面食らったのだろう。ハヨンの言葉を聞いたとき、彼は訝しげな顔をしていた。後にハヨンが本人にこのときのことを尋ねると、冷やかしに来たのかと思った。と答えていたので、十中八九怪しんでいたのだろう。
「そんなもの、到底叶えられるものではないぞ。」
しばらく黙ったままだった彼はそうポツリと呟き、眉間に皺を寄せたまま厳しい目をハヨンに向けた。
「重々承知しています。」
ハヨンがその視線を受け止めながら、そう強く返事をすると、
「お前、変わっているな。」
とヨウは笑っていた。
それから始まった鍛練はかなり厳しいものだった。これについていけなければ、容赦なくお前を見捨てるぞ。と何度も言われ、ハヨンは必死に食らいついていった。
しかし彼の教えは厳しかったが、ハヨンのことを大事に思ってくれてはいたようで、鍛練の時間以外の優しさはハヨンにとって心地のいいものだった。
(最初に白虎に入りたいって母さんに言ったときは驚いていたなぁ。そりゃそうだ。誰だって驚く。)
チャンヒがすっかり元気になった頃、ハヨンが思いを打ち明けたときの彼女の顔は忘れられない。
燐の国では女性は戦には関わらない風習があり、生涯武器を触ることさえ無い女性も少なくない。武器にふれあう機会がある女性はせめて武器商人や鍛冶屋の妻ぐらいだろう。
武器を手にし、それを使って生涯を生きていくという女など、物語でもない。
夢のまた夢。と一蹴されてもおかしくなかった。
チャンヒが驚きながらも案外すんなりと受け入れたのは、どんなに反対されても自分の意思を貫こうとするハヨンの性格を知っていたことが一番大きいだろう。
(母さんはいつも私のために応援してくれる。本当に母さんには頭があがらないな…。)
また、ハヨンにとって感謝してもしつくせない相手はまだ二人いる。母が病にかかってから、手伝いとしてハヨンを雇い、何かと世話をやいてくれた医術師のヒョンテと女で剣士を目指すハヨンを厳しく指導した師匠のヨウだ。
「白虎に入るために武術を身につけたいから俺の弟子にしてくれだと?」
「はい」
ハヨンが剣士になることを志して間もない頃、近所に住む強いと評判の男がいた。彼は遠い東の国からやって来たらしく、変わった衣装を着ており彼がやって来た頃は皆の注目の的であった。
彼は武人だったらしく、この町に住み着いてから間もなく道場を開いた。彼の教える武術は異国のものなのか一風変わっていたうえに、燐の言葉を上手く話せない彼の指導はなかなかに難しかったらしい。興味本意で始めたものは数えきれないほどいたが、道場に残った者は片手で数えられる程だった。
強くなれると評判の道場でもないのに、この国でも最強の部隊に入りたいからと教えを請いに来て、さらにそれが女だったのだから、ヨウは面食らったのだろう。ハヨンの言葉を聞いたとき、彼は訝しげな顔をしていた。後にハヨンが本人にこのときのことを尋ねると、冷やかしに来たのかと思った。と答えていたので、十中八九怪しんでいたのだろう。
「そんなもの、到底叶えられるものではないぞ。」
しばらく黙ったままだった彼はそうポツリと呟き、眉間に皺を寄せたまま厳しい目をハヨンに向けた。
「重々承知しています。」
ハヨンがその視線を受け止めながら、そう強く返事をすると、
「お前、変わっているな。」
とヨウは笑っていた。
それから始まった鍛練はかなり厳しいものだった。これについていけなければ、容赦なくお前を見捨てるぞ。と何度も言われ、ハヨンは必死に食らいついていった。
しかし彼の教えは厳しかったが、ハヨンのことを大事に思ってくれてはいたようで、鍛練の時間以外の優しさはハヨンにとって心地のいいものだった。
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