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温かいもの
遭逢
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そんなある日、ハヨンは浮き足立ちながら家路についていた。チャンヒが快方に向かっており、医術師も今回渡す薬を飲みきる頃には元気になっているだろう、と約束通り薬を渡してくれたからだ。
(母さんが元気になる…!)
そう思って気がはやり、思わず走り出してしまう。しかし周りを見ていなかったので、通りがかった人にぶつかった。
「…いってぇなぁ。何すんだこのくそがき。」
ぶつかった男はハヨンを睨み付け、連れの男はすごんでいた。
(確かこの人達は…!)
悪党で有名で、街の人からも恐れられている武器商人だ。しかし、武器商人とは表向きで、実は薬や人を裏で取り引きしているとも言われている。
ハヨンはさっと青ざめる。
「ご、ごめんなさい!」
「お前のせいでさっき足を痛めたみたいだ。おい、なんとかしろよ。せめて治療費ぐらい出せ。」
噂通りの悪党で、無理難題を突きつけてくる。当たり屋のようなことなど、日常茶飯事だった。
「私の家は貧しいから…。お金なんて持ってないです…。」
「じゃあその手に持っている袋の中身は何だ?ものによってはそれで手を打とうじゃねぇか。」
「だ、だめ。これは母さんの大事な薬だから…。」
思わずハヨンは薬の入った袋をしっかりと抱え直しながら後ずさる。
「ふーん?そんなの知ったっちゃねぇわ!」
ぶつかった男に腕を捕まれる。
「じゃあお前が見世物小屋にでも入るか?変わった目をしているし、顔もなかなか上玉だから売ったら金も入りそうだしなぁ。」
「やだ!」
ハヨンは逃げようともがくが無駄な抵抗だった。男の腕はびくともしない。
(母さん、ごめんなさい…。)
ハヨンは心の中で詫びながら、男との力の差に怯え、半ば逃げることを諦めていた。涙で滲んだ風景を見ながら、男にハヨンは引っ立てられ、うなだれて抵抗することもなく従う。そんな時、突然男が大きな舌打ちをした。
「危ねぇなぁ!」
男達の頭上すれすれを烏が猛烈な勢いで飛んで行く。そしてその烏は、一人で立っていた少年の肩に停まった。少年はやってやった、とでも言うようににやりと笑っている。それは悪戯小僧そのものの表情だった。
「さっきのはてめぇか。いい根性してやがるなぁ、おい。」
「お前も一緒に売り飛ばしてやろうか。」
男達の罵声が辺りに響く。
「その子の手を離せ。泣いてるだろう?」
少年はそのどなり声に怯えもせずそう言った。年に似合わぬ話し方は、その少年がただ者ではないことを匂わせていた。
「はっ、お前が俺に勝てたらな!」
そういい放ち、男は刀を鞘から抜く。少年も刀を抜く構えをとったが、片手で指笛を吹く。結果は少年が刀を抜く前に決まった。
この街一帯を徘徊している獰猛な野良犬達が男達の喉元めがけて飛び付いてきたのだ。
「たっ、助けてくれぇ!」
二人が野良犬に追われて逃げていくのを見送ったあと、少年はハヨンに声をかけた。
「大丈夫?怪我はない?」
ハヨンは助かったことによる安堵から、どっと力が抜け、少し呆けていた。詳しいことはわからないが、どうやらこの少年が自分を助けてくれたらしいというのはわかる。
「うん…。ありがとう。」
礼を言いながら、ハヨンは思わず涙をこぼしそうになったが、ぐっと堪える。泣きわめくだけで何もできなかった自分を情けなく感じた。
「そっか、良かった。」
どうすればこの少年のように、理不尽なものに立ち向かえるのだろう。そのことを少年に尋ねようとしたが、酉の刻を告げる鐘がなった。
「まずい、こんな時間か…!気をつけて帰れよ」
そう言って少年は走り出す。
(彼は王族なんだろうか…。)
彼の下げていた刀の鞘に描かれている紋章は、父が王族に頼まれて彫っていたものと全く同じだった。
いつかこのご恩を返したい。ハヨンが剣士を目指すようになったのは、このことがあったからだ。そして、理不尽なこの世のことから、大切な人達を守りたいと思い、強くなりたいと誓ったからだ。
ご恩を返し、きちんと礼を言いたい。そのためにも城で王のために勤め、あの方のお側で仕えたい。
この10年ちかく、ハヨンはただひたすらその思いを抱いて武術の稽古に励んだのだった。
(母さんが元気になる…!)
そう思って気がはやり、思わず走り出してしまう。しかし周りを見ていなかったので、通りがかった人にぶつかった。
「…いってぇなぁ。何すんだこのくそがき。」
ぶつかった男はハヨンを睨み付け、連れの男はすごんでいた。
(確かこの人達は…!)
悪党で有名で、街の人からも恐れられている武器商人だ。しかし、武器商人とは表向きで、実は薬や人を裏で取り引きしているとも言われている。
ハヨンはさっと青ざめる。
「ご、ごめんなさい!」
「お前のせいでさっき足を痛めたみたいだ。おい、なんとかしろよ。せめて治療費ぐらい出せ。」
噂通りの悪党で、無理難題を突きつけてくる。当たり屋のようなことなど、日常茶飯事だった。
「私の家は貧しいから…。お金なんて持ってないです…。」
「じゃあその手に持っている袋の中身は何だ?ものによってはそれで手を打とうじゃねぇか。」
「だ、だめ。これは母さんの大事な薬だから…。」
思わずハヨンは薬の入った袋をしっかりと抱え直しながら後ずさる。
「ふーん?そんなの知ったっちゃねぇわ!」
ぶつかった男に腕を捕まれる。
「じゃあお前が見世物小屋にでも入るか?変わった目をしているし、顔もなかなか上玉だから売ったら金も入りそうだしなぁ。」
「やだ!」
ハヨンは逃げようともがくが無駄な抵抗だった。男の腕はびくともしない。
(母さん、ごめんなさい…。)
ハヨンは心の中で詫びながら、男との力の差に怯え、半ば逃げることを諦めていた。涙で滲んだ風景を見ながら、男にハヨンは引っ立てられ、うなだれて抵抗することもなく従う。そんな時、突然男が大きな舌打ちをした。
「危ねぇなぁ!」
男達の頭上すれすれを烏が猛烈な勢いで飛んで行く。そしてその烏は、一人で立っていた少年の肩に停まった。少年はやってやった、とでも言うようににやりと笑っている。それは悪戯小僧そのものの表情だった。
「さっきのはてめぇか。いい根性してやがるなぁ、おい。」
「お前も一緒に売り飛ばしてやろうか。」
男達の罵声が辺りに響く。
「その子の手を離せ。泣いてるだろう?」
少年はそのどなり声に怯えもせずそう言った。年に似合わぬ話し方は、その少年がただ者ではないことを匂わせていた。
「はっ、お前が俺に勝てたらな!」
そういい放ち、男は刀を鞘から抜く。少年も刀を抜く構えをとったが、片手で指笛を吹く。結果は少年が刀を抜く前に決まった。
この街一帯を徘徊している獰猛な野良犬達が男達の喉元めがけて飛び付いてきたのだ。
「たっ、助けてくれぇ!」
二人が野良犬に追われて逃げていくのを見送ったあと、少年はハヨンに声をかけた。
「大丈夫?怪我はない?」
ハヨンは助かったことによる安堵から、どっと力が抜け、少し呆けていた。詳しいことはわからないが、どうやらこの少年が自分を助けてくれたらしいというのはわかる。
「うん…。ありがとう。」
礼を言いながら、ハヨンは思わず涙をこぼしそうになったが、ぐっと堪える。泣きわめくだけで何もできなかった自分を情けなく感じた。
「そっか、良かった。」
どうすればこの少年のように、理不尽なものに立ち向かえるのだろう。そのことを少年に尋ねようとしたが、酉の刻を告げる鐘がなった。
「まずい、こんな時間か…!気をつけて帰れよ」
そう言って少年は走り出す。
(彼は王族なんだろうか…。)
彼の下げていた刀の鞘に描かれている紋章は、父が王族に頼まれて彫っていたものと全く同じだった。
いつかこのご恩を返したい。ハヨンが剣士を目指すようになったのは、このことがあったからだ。そして、理不尽なこの世のことから、大切な人達を守りたいと思い、強くなりたいと誓ったからだ。
ご恩を返し、きちんと礼を言いたい。そのためにも城で王のために勤め、あの方のお側で仕えたい。
この10年ちかく、ハヨンはただひたすらその思いを抱いて武術の稽古に励んだのだった。
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