華の剣士

小夜時雨

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剣士への一歩

試験弍

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 ハヨンはそのままヘウォンの刀を避けながら自分の刀を空中で掴み直し、ヘウォンの顔ギリギリに刀を横に滑らせた。そしてヘウォンがそれを避ける隙にヘウォンの刀を凪ぎ払う。かたんかたんかたん…と刀の柄が滑りながらぶつかる音が聞こえる。

「お前、やりおったな?」

ヘウォンがにやりと笑った。彼の刀はハヨンとも、ヘウォンとも遠く離れた位置にあった。

「すみませんが、これから先は拳で戦わせては貰えませんか。」

「しょうがないな。それに俺がどこを動かさないかも見極めたようだな。」

 ヘウォンは手首を使わないようにして戦っていた。最初に刀を凪ぎ払ったときに気がついたが、彼は全く手首を捻らずにハヨンの刀をそのまま受け止めた。そして、戦う最中も手の辺りだけ堅い動きをしていたので2度目の刀を凪ぎ払ったときは、確信を持って行動した。ハヨンは手首を動かさなければ手首を痛めてしまう角度で刀を払ったのだ。そしてヘウォンは怪我を負うわけにはいかず、刀をあっさり手放した。

「まぁいい。俺だってだてに武人をやって来た訳ではない。武器無しでも戦える。」

ヘウォンは腰を低くして身構える。

「しかしお前まで刀を捨てる必要はなかろう。」

床に刀を置き、ヘウォンと同じく身構えるハヨンに彼は慌ててそう言った。

「互いに条件が違いすぎては合格しても気が晴れないので。」

そう答えるハヨンに、ヘウォンは笑いをこらえられないようだ。くくくっ、と喉の奥で笑うような音がする。

「合格する前提で戦っておるのだな、お前は。」

ヘウォンは嫌みを言っているのではなく、純粋に嬉しそうだった。

「自信もなく試験を受けてもしょうがないですから。それに白虎に入りたいと決めたならここは必ず通らねばならぬ道です。」

 ハヨンの目は、まさに夢を追うものの目であり、その真っ直ぐな眼差しはヘウォンに若き頃の夢を思い出させた。

(あの頃の俺にそっくりだ。理由はどうあれ、生半可な気持ちで白虎の試験を受けに来たのでは無いのだろうな。)

 最近、待遇が良いのと、一家一同名声を得られるからと、さほどやる気も無い若者が試験を受けに来るのを、ヘウォンは苦い思いをしながら見ていた。久しぶりに芯の強い、どんな訓練も音を上げずについて来るようなど根性を持った奴が来たものだ。

まぁ、入隊するとは決まっていないが。

ヘウォンはハヨンの動きを観察しながら喜ぶ。
 と、そのときハヨンがすっと流れるような動きでヘウォンに蹴りをいれようとした。間一髪のところで彼は避ける。お返しと言わんばかりに同じ型で蹴りを一ついれると、避けるのが遅かったのかハヨンの腹を擦る。ハヨンは慌てた様子も見せずに体勢を立て直し、すぐさま拳をヘウォンの腹に向かって突き出した。
 細身の癖になかなかの勢いだ。まともに食らったら呻くのは間違いない。腕でなんとか防いだヘウォンは冷や汗を流す。もし腹に入れられたなら、肋骨で守られていないその場所は大切な臓器が収まっているので、多少体調の善し悪しに影響するはめになっていただろう。








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