華の剣士

小夜時雨

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剣士への一歩

一兵士達の独白

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 まだ雪も残る寒空の下、城の朱雀門には軍へ入隊する試験を受けに来たものがちらほらと現れ始めた。

(こいつらの内何人が受かるのだろう。)

 昨年厳しい試験を無事に乗り越え入隊した門番のウンソクは白い息を吐きながら彼らと昔の自分を重ねる。試験はかなり厳しいし、もし仮に合格しても割り当てられる仕事はよっぽどの能力がなければ最初は大した役割を貰えない。

(この世は生きにくいものだな。)

ちょうど一年前、大きな夢を抱きながらこの門を潜り抜けた彼は、みるみる才覚を表して上の役職についた仲間を思い返しながらため息をつきそうになった。

「すみません。」

 同じく試験を受けに来た者だろうか。笠を目深に被った姿は男か女かよくわからない、不思議な雰囲気を纏っていた。

「何だ。」
「白虎はどこに行けば良いでしょうか。」

 白虎とは王族の専属護衛をする特殊な部隊で、毎年試験は行うが、受けるものの殆どが不合格になる。つまりは最難関の部隊と言えよう。
 この試験では白虎、朱雀、青龍、玄武の4つの部隊で受け付けており、白虎は王族専属護衛、朱雀は戦での最強戦力を誇る騎馬隊、青龍は歩兵隊、玄武は遠距離からの攻撃や籠城した時などの守り全般を行う部隊だ。
 この者が合格するのだろうか。ウンソクには白虎にいる兵に比べて余りにも体の線が細いように感じる。

「この門をくぐって左側の建物の前に白い鎧を来た者が立っている。その建物の中が白虎の試験の間だ。」

 そんな私情を挟んでもどうしようもないので、ウンソクは淡々と答えた。

「ありがとう。」

そう言って門をくぐろうとする姿を見て、ウンソクははっとする。


笠の下は疑いようもなくうら若い娘の顔だった。

・・・

 先程の娘はウンソクに言われた通りに白虎の試験の間に向かう。
 彼女の歩くその姿は背筋を伸ばし、無駄の無い動きだ。顔と体の線の細ささえ目を瞑れば、一人の立派な戦士とみられるだろう。
 娘は白虎の試験の間の前に立つ、二人の衛兵を前にする。

「お前は白虎の試験を受けに来た者か。」

娘から向かって右側に立つ衛兵が低い声で尋ねる。

「はい。」

「お前の身分を名乗れ。」

 城に入っているのだから、怪しい者は通せない。衛兵二人が槍で交差させて阻む先の門は厳しく、この試験がいかに厳重に行われているかが窺える。

 娘は笠を外し、顔を晒した。

「チュ・ハヨン。16歳。父は王族御用達の刀鍛冶でした。私は剣士となるため白虎の試験を受けに参りました。」

 娘の顔は不敵な笑みが浮かんでいた。それは確実に試験に合格すると分かりきっているからこその、堂々とした振る舞いだった。かといって、人を見下すようなものではなく、ただ客観的に己の力を知り尽くしているのだろう。

「女だと…?」

 二人の衛兵は思わず顔を見合わせる。それもそのはず、この りんの国では今まで女の兵士など一度も存在したことがなかったからである。

「ではチュ・ハヨンよ。この門を入ることを許す。」

 衛兵は少しの間話し合っていたが、自分達の一存で通す通さないを決めるのは駄目だ。という意見に達したらしい。ハヨンのために道を空ける。

「ありがとう。」

 彼女は羽織っていた外套を翻しながら白虎の間へと向かう。衛兵はその後ろ姿を見て、なぜ女の癖に、男の出で立ちがこんなにも似合うのだろうとぼんやりと考えた。余りにも自分の考える常識とかけ離れたことが起こり、頭を働かせることが難しいように思えた。

「あいつ、なんだったんだ。」
「なぁ。」

 口をついて出る言葉も、月並みなものしかない。隣にいた衛兵も同意する。二人の衛兵は、何かが起こる予感がした。
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