フリー台詞・台本集

花火が散る頃に 女性 1人語り

「いいじゃん、あの子可愛いし付き合っちゃいなよ」

　そんなことを言った自分を呪いたい。私は一人、閑散とした夜道を歩く。

カラコロと草履が地面と触れ合う音が妙に響いてどこか虚しい。

　夏祭りだと張り切って着た浴衣は苦しいし、鼻緒で擦れた足はヒリヒリと痛む。本当に、いいことがひとつもない。泣きっ面に蜂ってこう言うことだ。
　
　思わず景色が滲んできた時に、ドーンと言う音と共に光が散った。どこかでおー、と言う歓声が聞こえる。どうやら打ち上げ花火もフィナーレのようで、華やかだ。

　きっと今頃、あいつは付き合いたての彼女と楽しく花火を見ているんだろうな。ついさっき目にした光景が脳裏に浮かんだ。

　鮮やかな赤い花が散りばめられた浴衣。あいつが好きだと言っていた黒くてつやつやした髪をアップにして。そして何より、彼女とあいつの嬉しそうに微笑む姿がいつまでも焼き付いて離れない。からかいついでに声をかけようと思っていたのに、やめてしまった。

　私とあいつが過ごしてきた時間は、私にとっては甘酸っぱいものだったけれど、あいつにとってはそう言うものではなかったんだと突きつけられた。

　私は思わず声をあげて泣いてしまった。普段なら恥ずかしくて出来るはずがないが、今日はみんな花火に夢中だ。誰も私を見てもいないし、声も聞こえない。


…ただただ、私一人だ。