フリー台詞・台本集

沈みゆく船で君に綴る 一人用

親愛なる君へ

　私は今、任務遂行のために船にいる。

これは機密に関わることなので、詳しいことを書くことはできない。

　君は私の国と君の国との国交が断絶されるまで、何回も手紙を送ってくれた。

一方で、私が手紙を送った回数は両手で数えられるほどだ。

挙げ句の果てに君の最後の手紙に、返事すら出さなかった。

　そのくせ、なぜ今こうして手紙を書いているのかというと、どうしても最後に君に会いたいと思ってしまったからだ。

私は本当に愚おろかな男だ。おそらく…いや、確実にこの手紙は君のもとには届かないだろう。

わかっている。わかっているが書かずにはいられなかった。

　君と初めて会ったのは私の祖国のとある貴族のパーティーだったな。

あの時は驚いた。

音楽を学びに来た留学生だとは知っていたが、君の歌声は柔らかに降り注ぐ光のように優しく、ビブラートはハープを奏でているかのようだった。

あれほどに美しい歌声の持ち主と会うことはないだろう。

　私は君のその歌声は私の心に手を伸ばし、鷲掴みにした。

今でもその手は私の心を離さないままだ。

　君の歌声を聴きながら、最後を迎えることができれば、どんなに幸せだっただろう。

　でも、それももう出来ない。

　君と同じ街で笑い合って過ごせたら、国のことなど気にせずに心をさらけ出せたなら、どんなに良かっただろう。

　もし生まれ変わるのならば、私は君の生まれた国で生きたい。君の見た街、触れたもの、耳にした音楽全てを知りたいな。

　ああ、書きたいことは尽きないが、ついにこの時が来たようだ。私の船室にも水が入ってきた。

　この手紙はボトルに詰めておくことにするよ。

この手紙を見つけた人は、どうかこの手紙は捨てないで欲しい。

この手紙は私が愛した人へ初めて想いを書き綴ったものなんだ。

私の気持ちをここに残しておきたい。よろしく頼む。