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四章 青堀神社
惨状の中で 6
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「それなん……「お父さん、ごめんなさい!」
俺が話そうとした言葉を遮り、早瀬が突然謝り始めた。あまりのタイミングの悪さに呆れてしまい、俺は早瀬を先に喋らせる事にした。
「私……あの時、お父さんと喧嘩して……そしてそのままこんな事になってずっと後悔してて……」
早瀬は服を握り締め、ゆっくりと話していく。
「連絡もつかない状況で、何であの時あんな事を言ったんだろう、このまま謝る事も出来ずに……もう会えないんじゃ無いかって……」
話す早瀬の目には涙が浮かび始める。
「それでも、きっと会えるって信じて……お母さんが居なくなってからも、一人で必死に生きて……っ!」
次第に、その頬を涙が伝っていくのが見える。今まで堪えていたものが、抑えきれなくなったのだろうか。
「だから……お父さん……っ!生きてて、本当に良かった……!だから、最後だなんて言わないでよ……!これからも一緒に居てよ……!」
早瀬はそれだけ言うと、周囲の人目も気にせずに、声を上げながら泣き始めた。そして、誰もが話す事は無く、早瀬の事を優しい表情で見つめていた。
喧嘩別れした父親とは連絡が取れず、外へ出た母親も戻らない。そんな状況で家に一人残されれば、きっと自暴自棄になったっておかしくは無かった筈だ。
俺だってそうなりかけてたし、似たような状況で自ら死を選んだ人も少なくはなかっただろう。
それでも——彼女はどんな事をしてでも必死に生きる事を選択した。生きていれば必ず父親に会えると、その最後の望みを捨てなかったんだ。
今思えば俺と早瀬が最初に会った時の行動も、そこからきていたのだろう。流石に行き過ぎた行動だったが、彼女なりに必死だったのだとすれば理解出来なくも無い。
そして、こんな状況で奇跡的に父親に再会出来たんだ。今は好きなだけ泣けばいい。誰もそれを笑いはしない。
父親の胸で泣く早瀬を横目に、俺は周囲に目配せをしてからその場を離れていく。ここに俺達が居るのは野暮だ。今は、二人だけで好きに話し合えば良いさ。
そうして、俺達は二人を残して部屋の外へと出てそれぞれ階段に座る。城悟はつられて泣いてるし、椿さんさんの目も少し潤んでいるように見える。
俺はそんな椿さんに話しかける。
「……泣いてる所悪いが、これからの事を話したい。大丈夫か?」
俺が話しかけると、椿さんは涙をジャージの袖で拭い俺に向き直る。
「な、泣いてなんか無いし。それで、あんた達は何処に行くつもりなんだ?」
やはり、ここが目的地だなんて思わないようだ。
「いや、目的地はここだ。俺達はこの周辺一帯全ての領域を攻略する」
俺の言葉に椿さんは首を傾げる。
「領域って何?それに攻略するってのも……」
俺は椿さんに領域について説明する。だが、彼女の反応は首を傾げるばかりだった。
「あー……分かりやすく言うとだな。領域のボスを倒せば、建物ごと自分達のものになるんだ。もしスーパーなら食糧も手に入る」
「あーうん。何となく分かった」
……どうやら、彼女は頭よりも体が先に動くようなタイプのようだ。喋り方も最初とは違うし、どこか早瀬と同じような感じがする。もう呼び方も椿で良いか。取り繕うのも辞めだ。
「どうせ行くところも無いんだろ?なら、ここを攻略して拠点作りをするのに協力してくれ。その後は食糧、安全は補償するぞ」
「良いぞ、協力する。ここを拠点にすりゃ、早瀬さんも生きようとするだろうし」
「……何で早瀬さんにそこまでするんだ?言い方は悪いが、ただの他人だろ?」
椿は顔を背け、小さな声で呟く。
「……死んだ親父に少し似てるんだよ。だから見捨てられなくて——って、な、何言わせんだ!」
聞きはしたが、自分から言ったんだろうが。まあ、悪い奴では無さそうだし、戦力としては頼りになる。……考えるのは苦手そうだが。
その後、間を置いてから俺達は部屋に戻り、これからの事について話し合った。
明日からは攻略に向け、孝と荻菜さん二班に分かれて領域から溢れた周囲の魔物の駆除を行ってもらう。俺と爺さん、それに希望した椿の三人は建物の偵察だ。
そして最初に攻略するのは、地下に食料品店が有る商業施設。四階建てとなっており、ボスが居るとしたら最上階の階の可能性が高い。
そして、渦の中に居る敵によって難易度は変わる。出来れば最初のスーパー並なら有難いんだが……。
俺は皆に話しながら、ふと早瀬に目を向ける。父親と和解したのか、彼女は心から笑っているように見える。
……良かったな、早瀬。
そう思うと、自然と口元が緩む。
「……?灰間さん、どうしたんですか?」
早瀬が俺の様子に気づいたのか、首を傾げながら質問する。
「いや、何でもない。だが明日から忙しいぞ。早瀬も働かせるから覚悟しろよ」
「ええ!?折角お父さんに会えたのに、余韻も何も無い……灰間さんは鬼ですか!」
「領域を支配できなきゃ皆で共倒れだ。そうなりたく無ければ、ちゃんとやるんだな」
俺の言葉に早瀬は口を尖らせる。
「もう、分かってますよぅ……」
「……少しは頼りにしてる。これからも頼むぞ」
俺は小さな声でそう呟いた。
「え……?今なんて?」
「さあな」
こうして、一人の少女の願いは成し遂げられた。
目を覆いたくなる程の惨状の中で起きた、世界から見ればほんの小さな奇跡。だが、それは……ここにいる俺達に希望を持たせるには、充分な出来事だった。
俺が話そうとした言葉を遮り、早瀬が突然謝り始めた。あまりのタイミングの悪さに呆れてしまい、俺は早瀬を先に喋らせる事にした。
「私……あの時、お父さんと喧嘩して……そしてそのままこんな事になってずっと後悔してて……」
早瀬は服を握り締め、ゆっくりと話していく。
「連絡もつかない状況で、何であの時あんな事を言ったんだろう、このまま謝る事も出来ずに……もう会えないんじゃ無いかって……」
話す早瀬の目には涙が浮かび始める。
「それでも、きっと会えるって信じて……お母さんが居なくなってからも、一人で必死に生きて……っ!」
次第に、その頬を涙が伝っていくのが見える。今まで堪えていたものが、抑えきれなくなったのだろうか。
「だから……お父さん……っ!生きてて、本当に良かった……!だから、最後だなんて言わないでよ……!これからも一緒に居てよ……!」
早瀬はそれだけ言うと、周囲の人目も気にせずに、声を上げながら泣き始めた。そして、誰もが話す事は無く、早瀬の事を優しい表情で見つめていた。
喧嘩別れした父親とは連絡が取れず、外へ出た母親も戻らない。そんな状況で家に一人残されれば、きっと自暴自棄になったっておかしくは無かった筈だ。
俺だってそうなりかけてたし、似たような状況で自ら死を選んだ人も少なくはなかっただろう。
それでも——彼女はどんな事をしてでも必死に生きる事を選択した。生きていれば必ず父親に会えると、その最後の望みを捨てなかったんだ。
今思えば俺と早瀬が最初に会った時の行動も、そこからきていたのだろう。流石に行き過ぎた行動だったが、彼女なりに必死だったのだとすれば理解出来なくも無い。
そして、こんな状況で奇跡的に父親に再会出来たんだ。今は好きなだけ泣けばいい。誰もそれを笑いはしない。
父親の胸で泣く早瀬を横目に、俺は周囲に目配せをしてからその場を離れていく。ここに俺達が居るのは野暮だ。今は、二人だけで好きに話し合えば良いさ。
そうして、俺達は二人を残して部屋の外へと出てそれぞれ階段に座る。城悟はつられて泣いてるし、椿さんさんの目も少し潤んでいるように見える。
俺はそんな椿さんに話しかける。
「……泣いてる所悪いが、これからの事を話したい。大丈夫か?」
俺が話しかけると、椿さんは涙をジャージの袖で拭い俺に向き直る。
「な、泣いてなんか無いし。それで、あんた達は何処に行くつもりなんだ?」
やはり、ここが目的地だなんて思わないようだ。
「いや、目的地はここだ。俺達はこの周辺一帯全ての領域を攻略する」
俺の言葉に椿さんは首を傾げる。
「領域って何?それに攻略するってのも……」
俺は椿さんに領域について説明する。だが、彼女の反応は首を傾げるばかりだった。
「あー……分かりやすく言うとだな。領域のボスを倒せば、建物ごと自分達のものになるんだ。もしスーパーなら食糧も手に入る」
「あーうん。何となく分かった」
……どうやら、彼女は頭よりも体が先に動くようなタイプのようだ。喋り方も最初とは違うし、どこか早瀬と同じような感じがする。もう呼び方も椿で良いか。取り繕うのも辞めだ。
「どうせ行くところも無いんだろ?なら、ここを攻略して拠点作りをするのに協力してくれ。その後は食糧、安全は補償するぞ」
「良いぞ、協力する。ここを拠点にすりゃ、早瀬さんも生きようとするだろうし」
「……何で早瀬さんにそこまでするんだ?言い方は悪いが、ただの他人だろ?」
椿は顔を背け、小さな声で呟く。
「……死んだ親父に少し似てるんだよ。だから見捨てられなくて——って、な、何言わせんだ!」
聞きはしたが、自分から言ったんだろうが。まあ、悪い奴では無さそうだし、戦力としては頼りになる。……考えるのは苦手そうだが。
その後、間を置いてから俺達は部屋に戻り、これからの事について話し合った。
明日からは攻略に向け、孝と荻菜さん二班に分かれて領域から溢れた周囲の魔物の駆除を行ってもらう。俺と爺さん、それに希望した椿の三人は建物の偵察だ。
そして最初に攻略するのは、地下に食料品店が有る商業施設。四階建てとなっており、ボスが居るとしたら最上階の階の可能性が高い。
そして、渦の中に居る敵によって難易度は変わる。出来れば最初のスーパー並なら有難いんだが……。
俺は皆に話しながら、ふと早瀬に目を向ける。父親と和解したのか、彼女は心から笑っているように見える。
……良かったな、早瀬。
そう思うと、自然と口元が緩む。
「……?灰間さん、どうしたんですか?」
早瀬が俺の様子に気づいたのか、首を傾げながら質問する。
「いや、何でもない。だが明日から忙しいぞ。早瀬も働かせるから覚悟しろよ」
「ええ!?折角お父さんに会えたのに、余韻も何も無い……灰間さんは鬼ですか!」
「領域を支配できなきゃ皆で共倒れだ。そうなりたく無ければ、ちゃんとやるんだな」
俺の言葉に早瀬は口を尖らせる。
「もう、分かってますよぅ……」
「……少しは頼りにしてる。これからも頼むぞ」
俺は小さな声でそう呟いた。
「え……?今なんて?」
「さあな」
こうして、一人の少女の願いは成し遂げられた。
目を覆いたくなる程の惨状の中で起きた、世界から見ればほんの小さな奇跡。だが、それは……ここにいる俺達に希望を持たせるには、充分な出来事だった。
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