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三章 中央区

対立する者達 11

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「それじゃ行くぞ」

 俺がそう言うと、俺と爺さんを先頭に渦の中へと足を踏み入れていく。
 そして、視界が切り替われば——そこは予想通り赤と黒の空間だった。周囲には魔物はおらず、俺は刀を握りしめた手を緩める。
 後続が来るので少し移動し、そこで爺さんと話をする。

「この空間、アカグロとの戦いを思い出すんだよな……」

「お、日和りおったか?」

 ニヤリと笑う爺さんに、俺は笑いながら返す。

「まさか。次はどうやって無傷で勝つか考えてるだけだ」

 そこで、後続が次々と渦から現れる。

「うわー……見るからに危険な場所って感じですね。これ、外で待ちません?」
「これが内部なのね……何だか肌がピリピリするわ」
「こ、これ……現実なのか?夢じゃ無いんだよな?」

 言われてみれば……確かに現実から隔離されたような空間だな。建物自体は元々の物なんだろうが。
 更に遅れて、孝達が渦から出てくる。

「な……何だここは……」
「空気が重くて、息苦しい……」
「お、おい!大丈夫なのかよここ!?」

 孝達五人は明らかに腰が引けている。いつも通りの早瀬の方が肝が据わってるぞお前ら……。これじゃ、中を散策するのには連れて行けそうに無いか?

「はぁ……どうしてもダメならここで待ってても良いぞ?」

 俺が呆れていると、孝が慌てて反論してくる。

「おい待てよ!こんな所に置いてかれて、もしボスが来たらどうするんだよ!俺もついてくぞ!」

 おい、孝。昨日の余裕は何処行ったんだよ。

「それにだ!俺の『ホープ』はここではかなり役に立つぞ!俺は敵のおおまかな位置が分かるんだ!どうだ?連れて行きたくなっただろ!?」

 そこで孝が能力の説明を行う。
 孝の『ホープ』は『現状把握ステータスグラスプ』という能力だそうだ。今出来ることは、周りに居る生物の数と大体の位置が分かるようになる。だが敵か味方か等は分からず、詳細な事を調べるのは無理なようだ。範囲は約三十メートル。
 俺のように強さに直結する能力では無いが、補助としてはかなり優れた能力じゃないだろうか。もし発展すれば戦場の詳細な現況が、一人で把握出来る可能性が有る。

「確かに優秀な能力なようだ。だが、せめて敵味方くらい分かれば使いやすいんだけどな……」

「これでも範囲はかなり広がってるんだぞ!?その内全て俺が把握して、暁門だろうと指示出してやるからな!」

 城悟といい、孝といい、何で俺を目の敵にするのか。だが孝が幾ら優秀になろうと、補佐は補佐で俺が上だからな。

「あーじゃあ、孝。まず雑魚を蹴散らすから敵の多い方向を教えてくれ」

「ああ……待ってろ。『現状把握ステータスグラスプ』」

 孝が真剣な表情になり、目を様々な方向に動かしていく。そして、その目が止まると孝は口を開いた。

「左側の曲がった辺りにニ、正面の棚の裏に一いる」

「そうか」

 俺はそう一言呟くと、刀を手に正面へと向かって行く。いきなり人の能力を信用する程馬鹿じゃない。

「お、おい!そこの角に!」

 孝がそう叫ぶと同時に、棚から犬が飛び出してくる。青ゴブリンで無かったことに驚いたが、特に問題は無く俺はその犬を斬り捨てた。

「犬……?あのスーパーとは出てくる魔物が違うな」

 俺が倒した犬は、外にも居る犬と同種だと思う。ゴブリンよりは強いが、青ゴブリンに比べればかなり劣る魔物だ。
 建物の大きさによって敵の強さが変化するのか?それなら以前のスーパーよりも敷地が狭いから納得できるのだが。

 俺が戻ると、左側の二匹は既に爺さんが片付けた後だった。そちらも犬のようで、爺さんも物足りない様子を見せている。

「でも孝の能力通りだな。確認出来たしこれからは信用するぞ」

「疑う気持ちは分からなくはないが……」

 俺の行動に孝は複雑な表情。いや……仕方ないだろ、確かめないと安心出来ない性格なんだ。
 場に微妙な空気が流れるが、俺は気にせず左側へと進み始める。さて……周囲の雑魚を倒してかは、ボスとの戦いといこうか。
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