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二章 領域と支配

領域支配 5

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 それから数日が経ち、日付は四月三十日になった。

 俺は爺さんの指導を受け続けた。相手にするゴブリンの数も二匹から三匹へ、それからはもう数は関係無く修行は続く。ゴブリンの数は数百は倒しただろうが、正確には数えていない。

 俺は最初はいかに効率良く斬りつけるかだけを考えていたが、徐々に相手の動きはを見る事や有利な位置に誘う、といった事も出来るようになった。

 そして複数を相手にする事で一番重要だと感じたのは——広い視点。これは何も刀を使った事だけじゃない。銃で戦う時にもとても大事なものとなるだろう。
 広く周りを見渡し、危険な所、弱い所から攻めて確実に自分の有利な状況に運ぶ。爺さんが一番教えたかったのはこの事なんじゃ無いだろうか。



「分かりおったか。お主は刀だけで戦う訳では無い。儂が教えるのは刀で戦う方法では無く、銃と刀をうまく使い分けれるようにお主を鍛える事だの。 幸いお主はまだ戦い方の基礎が出来ておらんかった。だがこれでお主の目指すものは、何となく分かったんじゃないのかのう」

「……銃と刀の使い分け、ね。俺にそんな器用な事ができるんだろうか」

「出来るかどうか、では無くやらねばならん事じゃ。でなければ儂なんて何年経っても越せるわけ無いじゃろう。数十年の鍛錬を甘く見られては困る」

 ……それもそうだよな。爺さんには長年の経験が有るんだ。それを目指した所で俺が到達出来るかどうかなんて分からないし、出来ても長い時間が掛かるだろう。
 それなら自分の長所を生かした戦い方を模索した方が格段に早く強くなれる。銃も刀も超一流にはほど遠いが、普通に扱う事ならそんなに難しくは無い筈だ。

「爺さん、意外と俺の事を考えてたんだな。厳しくしてたのはただの憂さ晴らしかと思ったよ」

 爺さんはそれを聞いてフッと笑う。

「これでも優しくした方じゃぞ?それに儂なりに考えてやったんじゃ、素直に感謝せい」

「そうだな……ありがとよ。でもいつかは爺さんと刀で渡り合えるようにはなりたい。それまで死ぬのは我慢してくれ」

「この老いぼれを何年生かすつもりなんじゃ。そんなに待たん、そこまで言うなら、早く強くなってみせろ。ど素人の小僧」

 そう言って俺と爺さんは笑い合う。

 そうして、今日も修行を終え家に帰宅する。俺は日々強くなるのを感じ、前に一歩ずつ進めている気がした。




 ——翌日、五月一日。
 世界は次の段階へと進み、それは人々を更なる窮地へと陥れていく事になる。それは何の前触れも無く起こったのだった。



 朝食を終え、俺と爺さんはいつものようにスーパーへと向かう。だがその道中、いつもとは違う事が起こる。

 俺と爺さんの前には一匹の黄土色の大型犬。それは俺達に明らかな敵意を見せ、今にも飛び掛からんと様子を伺っている。

 俺と爺さんはそれを見て、眉間に皺を寄せながら刀を抜く。

「……飼い犬か?食うものが無くて人を襲いにでも来たか?」

「それにしては……見た事も無い犬種じゃのう。それと牙を見るに、狼の方が近いかもしれんの」

 そこで俺の頭に一つの考えが過ぎる。
 だが考えがまとまる前にその犬は待ちきれなかったのか、俺達へと襲い掛かって来た。
 その速さはゴブリンとは比べものにならず、見える鋭い牙や爪はそれだけで脅威になりそうだ。

 俺も犬を向かい打つため走り、すれ違いざまに犬の爪を避けつつ刀を走らせる。

 すぐに犬へと振り返るが、犬はそのまま倒れて動く事は無く……暫くするとゴブリンのように消えていった。


「……この犬、やっぱり魔物か」

 爺さんは眉間に皺を寄せたまま顎髭を弄る。

「今まで見た事が無いのう。……何故かの?」

「……五月になったからか?時間経過によって魔物の種類が増えていく?そうなったら、ただでさえ生きるのに厳しい状況が、更に過酷になるな……」

 人々を取り巻く環境は、今後も油断できない。……それは俺も同じ事だ。もし爺さんと修行していなかったら、と考えると背筋が凍りそうになる。

 俺は気持ちを引き締め直し、またスーパーへと向かっていった。
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