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二章 領域と支配
領域支配 1
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——四月二十七日。
世界中に突如魔物が現れてから、まもなく一カ月が過ぎようとしていた。多くの人々が死ぬ中で生き延びた人々はこの状況に適応し、死亡者は緩やかに減り始めていた。
だが問題は山積みで、その中でも一番となる物が食糧の問題だった。人々は残った食糧を奪い合い、時には殺し合いにまで発展していた。
そんな中で生きる為に、人々は集まり様々な集団が作られていった。強者を頼って集まった集団、元々の組織のまま発展した集団、宗教を元にした集団……様々だ。
それらは集団毎に思想が違い、意見の食い違いにより集団同士の抗争が起こるようになった。
淘汰されるのは弱者、負けた集団は強者に支配され全てを奪われる、それは戦国時代に逆戻りしたようだった。
——だが、世界は既にそういった方向へと傾き始めていた。
♦︎
俺は駐車場の広い場所で複数のゴブリンと対峙していた。
いくら倒してもその数は減らず、次々とゴブリンの増援がやってくる。地面には多くの魔石が転がり、それが倒した数を物語っていた。
「ちっ、弾切れか……」
押し寄せるゴブリンにより、石弾の銃はすぐに弾切れとなってしまう。こうなると鉄パイプだけでは押し切られてしまい、俺は撤退する他に方法が無かった。
俺がゴブリンを倒して居るのは、警察の人達が制圧しようとしたスーパーの駐車場だ。
敵の数が多く危険な場所なのだが、ゴブリンを沢山倒すにはこの場所しかなかった。何故なら家周辺での遭遇が減り、ゴブリンを探し回っても効率が悪すぎたのだ。
俺が強くなるには、ゴブリンを倒し身体能力を上げる事、それと魔石を集めて強力な武器を手に入れる事——その二つが必要だった。
スーパーでは弾切れが早く、魔石を回収している余裕も無い。けれどそれでも、多くの数が狩れることには違いなかった。
帰宅してすぐに、リビングに寝転がる。
「もっと多くゴブリンを倒すにはどうしたら良いんだ……」
それを解決しようと、昨日試しに『弾数増加』と『石弾』を付与した銃を作ってみた。弾数は三十から六十の倍に増え、俺の目論見は成功したかと思われた。
だが、その結果は失敗。威力が足りないせいで、一匹を倒すのに倍以上の弾と時間を使う羽目になってしまったのだ。
「はぁ……」
出来るだけ早く強くなるに越したことはない。けれど俺は、その方法を見つけられずにいた。
——翌日。
昨日と同じように、石弾の銃を手にスーパーへと向かう。
昨日と同じ結果になると思っていたが、今日は……様子が違っていた。
俺が駐車場に到着すると——そこには先客が居た。
それは、日本刀を手にしてゴブリンを次々に屠っていく、七十はいってそうな爺さんだった。
その爺さんは、ゴブリンに囲まれながらも決して背後は取らせないように立ち回っていた。更にゴブリンを一太刀で確実に仕留め、流れるように次へと移っていく。
俺は……その光景に暫く見入ってしまう。
爺さんの立ち回りは、十分以上は続いていただろう。けれどその間爺さんは疲れた様子もなく戦い続けた。
そして、次第にゴブリンの増援は途絶え、その爺さんは俺が到達出来なかった駐車場一角の掃討を達成した。
ゴブリンが来ない事を確認し、俺は攻撃に備えて身構えながら、爺さんに近づき声を掛けた。
「爺さん凄いな。あれだけのゴブリンを一人で倒し切るなんて」
爺さんは俺の言葉に反応する。
「おや、外で人に会うとは珍しいのう。お主もこ奴らを狩りに来たのか?」
「ああ。強くなる為に毎日、な。だが俺の銃じゃ倒せる数に限りがある」
俺は一匹のゴブリンが近づいて来た所を、銃で撃ち抜いた。
それを見た爺さんは、感心したように顎を触りながら話しかけてくる。
「ほう。珍しい得物を持っとるの。モデルガンのように見えるが、まさか本物の銃だとは」
「いや、これはモデルガンを改造したものだ。まあ、弾も特殊なんだけどな」
爺さんは俺の銃をまじまじと見つめる。
「なあ……それって真剣の刀か?」
俺は爺さんが持っていた日本刀を指差す。
「あれだけ切れる模造刀など有りはせんよ。これは真剣の刀で違いない」
俺は暫く悩んだ後、意を決して口を開いた。
「その刀、俺に見せてくれないか?或いは指先で触れるだけでも良いんだ」
爺さんは俺に訝しむような目線を向ける。
「……その理由は?」
やはり簡単には触れられないか。爺さんは俺を完全に疑っているようだ。だが、真剣の刀なんてそうそう無い。
何としてでもここで触れておきたい。
「……他言無用で頼む。俺は『ホープ』持ちだ。そして、その能力は武器を作り出すもので、その条件の一つに実際に触る事が含まれている」
爺さんは鋭い目線で俺と目を合わせる。それはまるで心を見透かされているかのように感じた。
「……嘘は言ってなさそうだのう。ほれ」
そう言って、爺さんは刀を差し出す。
だが爺さんがあまりに簡単に差し出してきた事で、俺は受け取るのを躊躇してしまう。
「おいおい……そんな簡単に渡して良いのかよ」
「もしもそれで裏切られたら、儂の目が見誤っていたと諦めるだけじゃ」
「はあ……爺さんどれだけ肝が据わってんだよ」
「それは割り切っとるだけよ」
俺は色々と言いたい事はあったがそれを呑み込んだ。そして、俺は爺さんから刀を受け取る。
その刃は綺麗に研がれ、素人でもその精巧さが分かる。だが刃の一部が欠けており、俺はそれを疑問に思って爺さんに質問する。
「刃が欠けてるな。爺さんほどの腕前でも、刀を扱うとこうなるのか?」
「いや、それは青いのとやり合った時に欠けたんじゃ。あやつの皮膚が堅くて、あの時は苦労したのう」
この爺さん、青いゴブリンまで倒してるのかよ。俺が『全弾解放』まで使ってやっと倒した相手だってのに……。
立ち回りを見てから分かってはいたが、やはりその強さは本物のようだ。俺が強くなる為の近道。
俺は、この爺さんに師事を乞うことに決めた。
世界中に突如魔物が現れてから、まもなく一カ月が過ぎようとしていた。多くの人々が死ぬ中で生き延びた人々はこの状況に適応し、死亡者は緩やかに減り始めていた。
だが問題は山積みで、その中でも一番となる物が食糧の問題だった。人々は残った食糧を奪い合い、時には殺し合いにまで発展していた。
そんな中で生きる為に、人々は集まり様々な集団が作られていった。強者を頼って集まった集団、元々の組織のまま発展した集団、宗教を元にした集団……様々だ。
それらは集団毎に思想が違い、意見の食い違いにより集団同士の抗争が起こるようになった。
淘汰されるのは弱者、負けた集団は強者に支配され全てを奪われる、それは戦国時代に逆戻りしたようだった。
——だが、世界は既にそういった方向へと傾き始めていた。
♦︎
俺は駐車場の広い場所で複数のゴブリンと対峙していた。
いくら倒してもその数は減らず、次々とゴブリンの増援がやってくる。地面には多くの魔石が転がり、それが倒した数を物語っていた。
「ちっ、弾切れか……」
押し寄せるゴブリンにより、石弾の銃はすぐに弾切れとなってしまう。こうなると鉄パイプだけでは押し切られてしまい、俺は撤退する他に方法が無かった。
俺がゴブリンを倒して居るのは、警察の人達が制圧しようとしたスーパーの駐車場だ。
敵の数が多く危険な場所なのだが、ゴブリンを沢山倒すにはこの場所しかなかった。何故なら家周辺での遭遇が減り、ゴブリンを探し回っても効率が悪すぎたのだ。
俺が強くなるには、ゴブリンを倒し身体能力を上げる事、それと魔石を集めて強力な武器を手に入れる事——その二つが必要だった。
スーパーでは弾切れが早く、魔石を回収している余裕も無い。けれどそれでも、多くの数が狩れることには違いなかった。
帰宅してすぐに、リビングに寝転がる。
「もっと多くゴブリンを倒すにはどうしたら良いんだ……」
それを解決しようと、昨日試しに『弾数増加』と『石弾』を付与した銃を作ってみた。弾数は三十から六十の倍に増え、俺の目論見は成功したかと思われた。
だが、その結果は失敗。威力が足りないせいで、一匹を倒すのに倍以上の弾と時間を使う羽目になってしまったのだ。
「はぁ……」
出来るだけ早く強くなるに越したことはない。けれど俺は、その方法を見つけられずにいた。
——翌日。
昨日と同じように、石弾の銃を手にスーパーへと向かう。
昨日と同じ結果になると思っていたが、今日は……様子が違っていた。
俺が駐車場に到着すると——そこには先客が居た。
それは、日本刀を手にしてゴブリンを次々に屠っていく、七十はいってそうな爺さんだった。
その爺さんは、ゴブリンに囲まれながらも決して背後は取らせないように立ち回っていた。更にゴブリンを一太刀で確実に仕留め、流れるように次へと移っていく。
俺は……その光景に暫く見入ってしまう。
爺さんの立ち回りは、十分以上は続いていただろう。けれどその間爺さんは疲れた様子もなく戦い続けた。
そして、次第にゴブリンの増援は途絶え、その爺さんは俺が到達出来なかった駐車場一角の掃討を達成した。
ゴブリンが来ない事を確認し、俺は攻撃に備えて身構えながら、爺さんに近づき声を掛けた。
「爺さん凄いな。あれだけのゴブリンを一人で倒し切るなんて」
爺さんは俺の言葉に反応する。
「おや、外で人に会うとは珍しいのう。お主もこ奴らを狩りに来たのか?」
「ああ。強くなる為に毎日、な。だが俺の銃じゃ倒せる数に限りがある」
俺は一匹のゴブリンが近づいて来た所を、銃で撃ち抜いた。
それを見た爺さんは、感心したように顎を触りながら話しかけてくる。
「ほう。珍しい得物を持っとるの。モデルガンのように見えるが、まさか本物の銃だとは」
「いや、これはモデルガンを改造したものだ。まあ、弾も特殊なんだけどな」
爺さんは俺の銃をまじまじと見つめる。
「なあ……それって真剣の刀か?」
俺は爺さんが持っていた日本刀を指差す。
「あれだけ切れる模造刀など有りはせんよ。これは真剣の刀で違いない」
俺は暫く悩んだ後、意を決して口を開いた。
「その刀、俺に見せてくれないか?或いは指先で触れるだけでも良いんだ」
爺さんは俺に訝しむような目線を向ける。
「……その理由は?」
やはり簡単には触れられないか。爺さんは俺を完全に疑っているようだ。だが、真剣の刀なんてそうそう無い。
何としてでもここで触れておきたい。
「……他言無用で頼む。俺は『ホープ』持ちだ。そして、その能力は武器を作り出すもので、その条件の一つに実際に触る事が含まれている」
爺さんは鋭い目線で俺と目を合わせる。それはまるで心を見透かされているかのように感じた。
「……嘘は言ってなさそうだのう。ほれ」
そう言って、爺さんは刀を差し出す。
だが爺さんがあまりに簡単に差し出してきた事で、俺は受け取るのを躊躇してしまう。
「おいおい……そんな簡単に渡して良いのかよ」
「もしもそれで裏切られたら、儂の目が見誤っていたと諦めるだけじゃ」
「はあ……爺さんどれだけ肝が据わってんだよ」
「それは割り切っとるだけよ」
俺は色々と言いたい事はあったがそれを呑み込んだ。そして、俺は爺さんから刀を受け取る。
その刃は綺麗に研がれ、素人でもその精巧さが分かる。だが刃の一部が欠けており、俺はそれを疑問に思って爺さんに質問する。
「刃が欠けてるな。爺さんほどの腕前でも、刀を扱うとこうなるのか?」
「いや、それは青いのとやり合った時に欠けたんじゃ。あやつの皮膚が堅くて、あの時は苦労したのう」
この爺さん、青いゴブリンまで倒してるのかよ。俺が『全弾解放』まで使ってやっと倒した相手だってのに……。
立ち回りを見てから分かってはいたが、やはりその強さは本物のようだ。俺が強くなる為の近道。
俺は、この爺さんに師事を乞うことに決めた。
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