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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

避難所崩壊 9 復讐の後に

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「が……ガァ……ッ」

 黒薙はもうまともに喋る事さえ出来ないようだ。もっと悔しがって欲しかったが、この状況なら仕方がないか。

「……『兵器作成』、『威力』と『石弾』を付与した銃をよこせ」

 俺の右手に銃の重さが伝わる。

 ……この銃の感覚も久々に感じるな。本当に腕が治って良かった。

「さて……」

 六人のうち動いているのは三人。それに……忘れていたが、そういえば金髪の女子高生も居たんだったな。
 彼女を見ると、爆発、或いは俺に恐怖したのか失禁していた。歯をガチガチと鳴らして怯えている。

「安心しろ。何もしなければお前には手を出さない」

 俺はそう伝えたが、彼女の様子は変わらない。

 そして俺は片腕を失って痛みで地面を這いつくばっている取り巻きの一人へと近づいていく。

「さて、お前はどうしたい?片腕になってでも生きるのか、それとも俺に今とどめをさされるか」

「し……死にたくないぃ!!た、助けてくれ!」

 取り巻きは片腕で俺に縋り付いてくる。

「なら生かしてやる。だが処置なんてしないぞ?自分でなんとかしろ」

「……そ、ぞんなぁっ!!」

 もう一人の取り巻きへ。そいつは腕を押さえながらソファに身を任せていた。その顔はどこか諦めているような、達観したような表情をしていた。

 俺が近づくと、その男は俺よりも先に口を開いた。

「……殺してくれ」

「潔いいんだな。何故だ?」

「こうなっても……仕方がない事は分かっていた。それだけの事をして来たんだ」

 男の息は荒い。

「……なら何故黒薙についたんだ」

「無様にでも生きようとした結果だ。俺は……死にたく無かったんだ。まあ、これで諦めがついた。……灰間君、悪かったな」

「謝罪の言葉なんていらん。謝るくらいなら、やらなければ良かっただけだ」

「……そうだな。精々、地獄で償ってくるさ」

 黒薙で無く、コイツのようなやつが力を持っていればもっとマシな状況になっていたのかもしれない。
 
「じゃあ……またな」

 俺は男のこめかみ目掛け、銃の引き金を二回引いた。
 もしあの世が有るなら俺も地獄行きだろう。だが俺はまだ死なない。そっちへ行くのはまだまだ先だ。


 残るは後一人。黒薙だ。
 黒薙は地面に座り込み、虚な目で荒い呼吸を繰り返している。俺が近づいても、特に反応を示さない。

「黒薙。お前には選択肢は無い。俺がこの手でとどめをさしてやる」

「馬鹿、が……し、ね……」

 最後まで悪態をつくのか……少し見直したな。

「お前がもっと考えていれば、俺の作戦なんて潰せたものを。俺の力を利用しようと、欲を出し過ぎたからこうなるんだ」

 俺が話しても黒薙の反応は無い。

「それに、お前は人を扱うのが壊滅的に下手だな。鞭だけじゃ人は動かないだろうに。それに、お前の信頼はゼロだ。これだけ騒動になってて誰も助けに来ないなんてな」

 煽ってもやはり反応は無かった。もう体力が残ってないのか?

「……反応が無いとつまらないな。俺がせっかくここまで考えたのに」



 ——俺が牢屋に入れられてから、今に至るまではこうだ。
 
 俺は二日目に『安全装置』を利用した復讐をすることを思いついた。

 やる事は人数を把握し、取り巻き達全員に俺の作成した銃を行き渡らせる事。

 これについては食事を運んできた男が黒薙の事で愚痴っていた事から、話をしたりして上手く人数の情報を引き出した。そしてメインの取り巻き達に武器が行き渡ったタイミングで、少しずつ黒薙に会いたい旨を伝えて貰った。

 黒薙が俺に会うと決めるまで一日早くて少し焦ったが、結果的に特に問題はなかったな。

 問題点は、取り巻き達が他の武器——例えば警察の銃を使っていた場合、俺に危険が及ぶ可能性があった。だから状況を把握しきるまで油断は禁物で、最悪その武器を持った奴だけ先に撃ち殺そうと考えていた。

 それに『安全装置』についても未知数だった。結果的にはトリセツの言った通り撃たれる前に爆発したが、本当は心の中で緊張していた。

 だから、穴だらけの作戦なんて言った訳だ。

 それでも、俺は生きて黒薙は死にかけている。状況はほとんど俺の理想的な形だった。

 ……もしかしたら俺は悪運が強いのかもしれないな。




「さて……黒薙。終わりにしよう」

 俺は銃口を黒薙に向ける。

「ち……くしょ……なん、で……」

 そこで黒薙の目から涙が溢れ、頬を伝っていく。

 ……ここで泣くのは卑怯だ。それくらいで揺らぐほどの決意ではないが、少し気分が悪い。

「最後は、人として死ねて良かったな。……じゃあな」

 
 ——そうして、俺の反逆劇は終わった。

 俺の心には確かな傷と、人を殺した罪が残った。
 だが、それら全てを抱えつつ、俺はこれからを生きてゆくしかないんだ。



♦︎


 署長室を後にし、会議室へと向かった。
 そしてその扉を開けるとそこには多くの女性達が居り、その中には沙生さんの姿も有った。

「暁門君!」

 ——俺に気付いた沙生さんが人を避けながら慌てて駆け寄ってくる。

 俺は、その顔を見ただけで胸が熱くなるのを感じた。
 俺の行動は間違ってなんかいなかったんだ。

 沙生さんはそのまま飛びつくように抱きついてきた。
 俺はその体を抱きしめようと両手を伸ばすが、一瞬躊躇してしまう。
 
 ——この汚れた手で、彼女を抱きしめても良いのだろうか?

 そう考えた俺は、伸ばした手を抱きしめる事なく元に戻した。


「沙生さん、全て終わったよ。だから一緒に家に帰ろう」

「そう……」

 俺は彼女に何かあったかは聞かなかったし、彼女も俺に対して深く聞いてくる事はなかった。
 それで良いんだ……これから先だけを見て生きていけば良い。

 そのまま沙生さんと共に外へ出ようとする。
 すると——女性の一人が俺の前へと出てその口を開く。

「ちょ、ちょっと!黒薙さんはどうなったの!?」

 この女性は黒薙にすり寄っていたのだろうか。その表情は心配しているように見える。

「……黒薙は死んだ。この避難所にはもう誰も守る奴なんて居ない」

「え……私達はこれからどうなるのよ!?誰を頼って生きていけば……!」

「それは俺の知った事じゃないな。自分達で考えながら生きて行くしか無いんじゃないか?」

「そ、それならあんたが守ってよ!武器を作れるんでしょ、それが有れば……!」

「それをして、俺になんの利益がある?正直言ってここに居た理由は沙生さんの事だけだ。他の事なんてどうでも良い」

「な、なら!私を連れて行ってよ!私なら、あなたを満足させ……」

「断る。人数が増えたらそれだけ負担が増える。俺にはそんな余裕は無い」

 女性は絶望したような表情をする。

「……沙生さん行こう。もうこれ以上ここには居たくない」

 沙生さんは何も言わずに頷く。

 女性達は俺を睨んだり、泣き出したりと様々な反応をしていた。
 俺はそれを横目に、沙生さんを連れて会議室を後にした。

 下に降りても男性達の反応は同じようなものだった。だが、銃は何丁か残っているはずだ。それをうまく使えば、暫く食い繋ぐくらい出来るんじゃ無いだろうか。

 ……それがいつまで続くかは、俺の知った範疇では無いが。


 俺は警察署の門を開け、沙生さんが通るのを待つ。

 振り返り滞在した警察署を眺めると、様々な感情が湧き出そうになるが……俺はその感情を抑えこんだ。

 俺の手によって、門は閉ざされていく。



 ——こうして、予想以上に長くなった警察署での避難所生活は、俺の手を汚す事で終わりを告げた。

 だが世界の変化はまだ始まりに過ぎず、俺もまた生き残る為に努力しなければならない。
 これから、俺と沙生さん二人の未来は……どうなっていくのだろうか。
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