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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

避難所崩壊 4

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 ——翌朝。まだ薄暗い中、俺は物音を立てないよう警察署の外へと出た。

 入り口には既に沙生さんがおり、二人で頷き合って意思の疎通をする。
 そのまま門を開けようとした時だった。誰かに不意に背後から呼び止められる。

「おっと、どこ行くんだ? 灰間と……夜見川ちゃんだったか?」

 俺と沙生さんが振り返ると、そこには黒薙さんとその取り巻きの二人の男性がニヤニヤと笑っていた。

 ……最悪の状況だ。

 俺は表情には出さないが、内心で舌打ちをする。

「ちょっと外の空気を吸いに行こうと思って。警察署の中の雰囲気も暗いし」

「そうそう。私が付いてるから、黒薙さん達はまだ寝てても大丈夫」

 俺達は笑顔でそう言った。勿論咄嗟の嘘だ、信用されるとは思っていない。
 そして、それを聞いた黒薙さんは大声で笑った。

「ハッハッハ!おい灰間、下手な嘘はやめろよ!ここから二人で逃げようとしてんだろ?」

 俺と沙生さんはそれに言葉を返すことができない。ただ固唾を飲んで黒薙の様子を見守る?

「テメェは何かに感づいたんだろ?恐らく、お前の思った通りだぜ?俺が指示を出して村田を殺したんだ。」

 その言葉に、俺は黒薙を睨み付ける。

「加藤が死んで状況が変わるかと思ったら、意志を継ぎますだ? ほんっと馬鹿だよなあ。あの何もしねえ避難民達を守ってどうすんだよ。俺達まで共倒れになるじゃねぇかよ!」

「なら、殺す必要なんて無かったんじゃないのか?方針が気に入らないのなら、ここを離れれば良かった筈だ」

「あぁ?食糧の備蓄も拠点も一から準備しろってか?……そんなの面倒くせぇ。俺には力が有る!それなら全て奪ってやればいい! 武器も食糧も拠点も女も全て奪えば俺の物だ!力で抑えつければ、俺に誰も文句は言えねぇ!」

 黒薙の野心は元々あったのか、それとも力を持って変わってしまったのかは分からない。だが、今まで我慢していたものが全て爆発したのかもしれない。
 
 ……そして、こうやってタガが外れた人間を止める事など出来ないだろう。

「それも一つの組織の形として有りだろうさ。今までの状況じゃ駄目なのは考えてたし、俺はそこは肯定する。 けれど、俺を呼び止めたのは何故だ?両腕の使えない俺なんて居ても役にたたないぞ?」

 黒薙と取り巻き達が、俺の言葉を聞いて高笑いする。

「灰間ぁ……俺達は知ってんだよ。テメェが『希望の力ホープ』もちだって事はなぁ。しかも、それが強力な武器を作り出せるらしいじゃねぇか。 村田は隠そうとしていたようだが、警察の中で俺らに寝返った奴が全て話してくれたぜ?」

「……」

 俺の『ホープ』を知っていてこの状況という事は、間違いなく俺を利用する為に捕縛しに来たのだろう。

 まだ門も開いていないこの状況で外に逃げられるか?いや、俺の両腕がまともに動かない状態で沙生さんを連れて逃げられるわけがない。間違いなく捕まってしまう。

 俺は沙生さんの様子を伺う。彼女はどうしたらいいか分からず戸惑っている。

「おい、逃げようとしてんだったら諦めろ。じゃないとそこの嬢ちゃんに俺の投げた石が当たっちまうかもなぁ」

 そう言った黒薙は既に石を持ち手で転がしている。

 完全に八方塞がりなのを理解した俺は、項垂れて肩を落とす。

「諦めたか?ま、大人しく武器だけ提供してくれりゃ悪いようにはしねぇよ。それに、従ってりゃ嬢ちゃんの安全も保証してやる。なぁに、いつか解放してやるさ。 ゴブリン共を全て駆逐し終わったらだけどな!はっはっはっは……」

 黒薙の高笑いが警察署前に響く。

 俺は自分の不甲斐なさに、血が出る程に奥歯を噛み締める事しか出来なかった。
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