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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

警察署の避難民 4

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♦︎

「そうか……やはり食糧は確保出来なかったか……」

 食糧の確保班である村田さんから報告を受けた加藤さんは肩を落とす。

「騒動から日が経つにつれ、食べられる物も減ってきています。このままのペースだと、数日で備蓄が尽きるかと……」

「かと言って解決策は無い。民家から調達するにも、日が経つにつれて移動距離が伸びていき危険も増える、か」

「正直言って、皆がそろそろ限界です。何か手を打たないと……」

 加藤さんは眉間に皺を寄せるが、真剣な表情で話す。

「だが、それでも私は市民を見捨てるような事はしない」

「ですが、署長……」

「……村田君。もう一度スーパーへ行く。有志を募ってくれ」

「しょ、署長!それだけは絶対に駄目です!」

「危険なのは分かっている。だから、無理強いはしない」

「……皆に聞いてみます。私が黒薙さんも説得してみましょう」

「すまない、頼む」

 暁門が来てから二日目。
 警察署の避難所の命運を掛けた、遠征が始まろうとしていた。


♦︎


 その日の夜。俺は沙生さんを呼び出して、二人で警察署の外に居た。周囲は街灯なんて付いているわけもなく、月明かりだけで薄暗い。

「沙生さん、早くここを出ないと大変な事になる。俺と一緒に出よう」

 俺の言葉に沙生さんは浮かない表情をする。

「でも、外はゴブリンだらけで危険でしょ?……私たち二人で生き延びるのは無理よ」

「言ってなかったけど、実は俺には武器を作り出す『ホープ』が有る。その武器を使えば、ゴブリン位なら問題無い」

 沙生さんは目を見開いて驚く。

「そ、そんな力が有るなら、避難所の人たちを助けてあげれば……!」

「武器を作るのにも限度があるんだ。多分、俺が守れるのはほんの一握りだけ。それに、もし俺の力を打ち明けても、今の状況はそう変わらないと思う」

 今のままだと食糧難はもうどうしようも無い。ここは実働に対して保護している人達が多すぎる。
 加藤さんがそれを変えようとする気が無い以上、俺には避難所が崩壊する未来しか見えない。

「避難民の人達を見捨てるようで気が向かないのは分かる。でもいつバランスが崩れてもおかしく無いんだ。だから沙生さん、明日にでもここを離れよう」

 沙生さんは黙ったまま、思考を巡らせているように見える。
 俺はそれ以上何も言わずに返事を待つ。

 頼む、俺の提案を受け入れてくれ。

「……分かった。でも、離れるのは明後日の昼にしよう。それでも良い?」

「分かった、そうしよう。沙生さん、俺の提案を受け入れてくれてありがとう」

「ううん。暁門君が私の事を考えてくれてたのがよく分かったから。嬉しかった。暁門君、ありがとう」

 その時、沙生さんが顔を近づけてきた。
 それによって、俺はその笑顔がハッキリと見えた。更に距離が近いこともあり、少し……いやかなり意識してしまった。

 すぐに俺は恥ずかしくなって顔を逸らす……本当に周囲が薄暗くて良かったと思う。
 多分、俺の顔は真っ赤だっただろうから。


「じゃ、じゃあこれで!沙生さんまた明日話そう!おやすみ!」

「うん。暁門君、また明日ね。おやすみなさい」

 俺は照れていたのを隠すようにその場を去った。ここを離れるのは明後日。たったの二日だ。

 何故か胸騒ぎがする。……何も無ければ良いんだが。
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