VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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5.神域解放

81.無限回廊 3

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 そのまま大きな問題も起きず79階を攻略し、次の80階へと向かうワープの前で作戦会議を行なっていた。
 以前はここで時間切れとなり途中退場することになってしまった。だが今回はまだ時間に余裕がある。

「ここから先は未知の領域だ。これ以上無い程に順調に来ているが、ここから先は気を引き締めよう」

 それぞれがオレを見ながら頷く。
 79階まではランダムに敵が出現するが、80階からは固定出現らしい。リチャードさんは何度か80階以上に挑戦したようだが、全て同じ敵が出現したとの事。
 恐らくだが…そこから難易度が跳ね上がり、それぞれに対策を立てる事が出来るようにの配慮でないかと思う。
 何故かこういった所はちゃんとゲームの基本に忠実なようだ。
 
「80階の敵はデスナイトというアンデット。馬に乗った黒い死神で、鎌による攻撃と闇魔法による攻撃をしてくるそうだ。普通に戦ってもヴァルキリーと同等位の強さらしいけど、一番気を付けなければならないのがリープデスサイズという鎌スキル」

 オレは話を続ける。

「そのスキルを発動中は、掠っただけで即死するというチートスキルだそうだが、詠唱が長くてダメージと攻撃回数によって中断させる事が出来るらしい。これに失敗するとほぼ間違いなく…全滅だそうだ」

 他の四人は緊張した面持ちでオレの話を聞くが、そこで鈴さんが手を上げ口を開く。

「アンデットなら聖属性が弱点かしら?なら私は直接攻撃に行かない方がいい?」

「いや、中断させるにはとにかく高火力と手数みたいで、鈴さんも剣で攻撃した方が良いと思う。けれど鈴さんがやられるとパーティーが崩壊するから安全第一で」

「分かったわ」

「他に何か質問無いかな?これまでと同じでオレが前衛。範囲魔法の時は佐山さんとリリーは必ず下がって回避する事。攻撃は狙いやすい馬を狙って、下から崩す」

「「分かった(わ)」」

「よし、じゃあ行こう」

 80階へのワープへと入り、視界が暗転する。

 視界が明るくなると、明らかに今までとは違う雰囲気の所だ。紫色の薄いもやがかかり肌寒く感じる。
 正方形の部屋の広さは一辺30m位だろうか?今までの部屋に比べると倍くらい広く感じる。

 そして…その中央には馬に乗った死神が佇んでいる。手に持った大鎌、体に纏う紫色のオーラ。そして赤いローブ姿にフードを被っている。

(ん?赤い……?)

 見間違いかと思って目を擦るが、何度見ても赤いローブ姿。まさかこれは…。

「……まずいかもしれない。あれは普通のデスナイトじゃない」

「どういう事かな?」

 佐山さんがデスナイトを見据えたまま質問する。

「あれは恐らくレアポップのデスナイトだ。明らかに情報と違う」

 レアポップとは稀に通常モンスターとは違った姿や色をしたモンスターが出現する事で、RDOの通常フィールドでも稀に遭遇する。
 確率は1000分の1程で狙って遭遇できるものでは無いのだけど……まさか無限回廊の強敵でレアポップするとか。
 情報通りならローブは黒いし、乗っている馬も鞍だけでの筈だ。だが目の前のデスナイトは赤いローブでおまけに馬が甲冑を着込んでいる。これでは先に馬を崩す戦法は難しくなってしまう。

 それだけでも辛いのだが…一番厄介なのはレアポップのモンスターは通常モンスターよりも能力値が高い。そして特殊な行動パターンをしてくる可能性が有る。

「…大変になるけど馬の甲冑の隙間を狙うしかない。あとは予想外の攻撃パターンがこない事を祈るしか無いな」

 先程まで順調だったのに…一気に最悪な状況だ。はあ…これもオレの運のせいか?

「じゃあ、やれるだけやってみよう。ダメでも死ぬわけじゃないから、次頑張ればいい」

「あはは。樹はやっぱり何か持ってる」
「違いない。上野君といると退屈しないね」
「でも80階のレアポップが何ドロップするかは気になるわね」
「神級とは行かなくても、伝説級武器でも出ないかしら?」

 …どうやら緊張してるのはオレだけだったようだ。

(ちょっと完全攻略に拘ってて力みすぎたかな)

 深く深呼吸すると、少し落ち着いて余計な力が抜けた気がする。

「よし、突っ込みます」

 そういうと真っ先に残像で距離を詰める。近寄ったデスナイトは禍々しく明らかに強者の雰囲気を纏っている。

(まずは回避)

 デスナイトの鎌が横薙ぎに迫るが、高い位置からなので身体を屈めるだけで回避できる。攻撃は早いが目で追える。

「"掌底"」
 
 馬の横っ腹へと掌を当て、掌底を発動する。防御無視の掌底であればダメージは通る筈だ。…そして予想通りに馬が怯む。

 その一瞬に合わせ佐山さんとリリーが距離を詰める…が。
 デスナイトは左手から反射的に魔法を発動し、正面から来た佐山さん目掛け黒い弾丸を放ってくる。

「甘い」

 佐山さんは横に方向転換しそれを躱す。

「まず一発!」
 
 リリーの掌底が馬の脚に入る。
 だがデスナイトは弾丸を放ちつつももう一方の手で鎌を振るう。リリーはそれを難なく回避する。

(ヘイトコントロールとかいってる場合じゃ無いな。隙を見て攻撃しないとこっちが回避できずにやられてしまう)

「サラと鈴さん以外は全力で攻撃!」

「「分かった(わ)!」」

「上野君!」

 鈴さんの声と同時にオレのナックルに白い光が宿る。鈴さんが使ったプリーストスキルの神聖付与。これでデスナイトへのダメージが上がる筈だ。オレも二人に負けじと掌底を撃ち込んでいく。

 前衛三人とデスナイトの攻防はどんどん激しくなる。一瞬でも集中力を切らしたら直撃してしまう。サラが補助に回りデスナイトの攻撃を邪魔してはいるのだが、それをした上でも鎌と魔法の連携は厄介だ。
 更にAIのレベルが高いのかパターンが多く覚えきれない程で、決定的な隙を見出せない。ダメージは与えてはいるが最初に比べるとペースが落ちてきている。

 そのまま攻防は5分以上は続いただろうか。集中力しっぱなしで流石に辛くなってきた時だった。
 突如デスナイトが攻撃を止め、鎌を掲げる動作をする。そしてそれと同時に身体を漆黒の闇が覆う。

(来た!)

「リープが来るぞ!全員全力!」

 オレが叫ぶ前に既に四人は動いていた。佐山さんは多重刃を発動し、リリーはナックルと足技を駆使したコンビネーション。
 サラは手数勝負で矢の雨を降らせ、鈴さんは神聖を付与し佐山さんに負けない速度で剣を振るう。

 オレも頭乱脚による中断を試みるがビクともせず、デスナイトは岩のように微動だにしない。詠唱中の隙を守るために防御魔法が掛かっているようだ。

(これじゃマズい!)

「佐山さん解魔刀!!防御魔法掛かってる!」

「分かった!"解魔刀"!!」

 佐山さんが叫び刀を振るうと、何かを破壊した音が鳴り響く。
 
(今からでも間に合うか……!!)

 五人の持てる最大の力によるデスナイトへの攻撃。だが…。

「……ッ!!全員退け!!」

 オレの叫びと同時に全員がデスナイトから離れる。
 するとデスナイトは鎌を掲げるのを止め、オレ達を嘲笑うかのように骸骨の顎をカタカタ鳴らす。

 その手には一回り大きくなった、闇で塗り潰したような黒い鎌。

 そしてデスナイトはゆっくりと馬を進ませ始める。
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みんなの感想(1件)

ジグ
2020.07.18 ジグ

もう書かないのですか?

解除

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