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4.プロテア防衛戦
76.卒業 2
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「卒業生入場」
司会を務めている先生の声で卒業生が体育館へ入場する。そして体育館には拍手と足音だけが響く。
そしてオレの入場が近づき、体育館の中に一歩踏み出すと体育館から歓声が挙がる。
体育館からはオレを呼ぶ声が聞こえている気がするが、全く聞こえないフリをした。流石にわきまえているのか近寄ってくる生徒は居なかった。
卒業生が席に着き終わり卒業式が始まる。
…だが卒業式の流れは例年変わらない。
校長先生の挨拶から始まり代表が卒業証書を貰ったり、2年の代表が祝辞を述べたり。
(後は元生徒会長が卒業生挨拶をして終わりかな)
自分の卒業式だというのに特に感動は無く、どこか他人事のようだ。…それだけ高校生活を疎かにしてしまったという事だろうか?
そう考えると少し惜しくも感じる。
(はあ…考えてると自分が嫌になってくる。早く終わらないかな…)
卒業生も1,2年も多くの生徒がそう思っていたことだろう。だがその思いの終わりは突如やってきた。
「卒業生代表の挨拶…上野 樹君。壇上へ」
(ん?)
司会の声が終わると同時に、多くの生徒の歓声が上がった。
(恐らく聞き間違えだろう。オレは挨拶するなんて一言も聞いてないし、そもそもこんな学生生活を謳歌しなかった奴の挨拶を誰が聞きたいんだ?)
オレは周りの様子を伺う…が、多くの生徒の視線がオレを見つめている。
一気に体中から嫌な汗が溢れ出てくる。
オレが硬直して身動きを取れないで居ると、少し強めの口調で司会の先生の声が響く。
「上野 樹君!壇上へ上がりなさい!」
あーうん。どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
諦めて席を立ち、壇上へと向かう。
けれど話す事とかまったく考えていない。焦りと緊張で頭の中はグチャグチャだ。
オレは壇上へ上がる前に職員席へ行き、校長先生へ話し掛ける。
「あの…すいません。挨拶するというのが初耳なんですが……」
「何?間宮大臣から話が通っているはずだが?…本当に聞いていないのか?」
…オレは記憶を辿る。
それはプロテア防衛戦が終わった翌日の出来事。
オレと並木さんは連絡がつかなかったという問題について間宮防衛大臣にクレームを入れるため、間宮防衛大臣とオレ、並木さんの三人で食事をすることになった。
その話し合いでは顔を合わせた瞬間から間宮防衛大臣は平謝りで、土下座する勢い。どうやらこの件で総理からも他の政府関係者からも強く批判を受けたそうだ。
そして結局。防衛大臣のその姿にオレも並木さんも強く言えず、オレと並木さんからの連絡はどんな時でも優先する事を約束させ、クレームは終わりとなった。
(そういえば…あの時最後に間宮防衛大臣が……)
「そうだ、上野君は卒業式だろう?これほど実績が有るんだし、代表の挨拶をしたら良いんじゃないか?私から掛け合ってみよう」
オレはその言葉を冗談だと思い、軽く流したのだが。
(…あの大臣、承諾してないのに実行しやがった!!)
校長先生の焦っている顔を前に今更出来ないと言えない。この人は上から言われた被害者だ。
「何とか挨拶してきます…」
オレは職員席を後にし壇上へ上がる。
そしてオレが壇上に上がると歓声が一層大きくなる。
「静かに!」
司会の声が響くと、歓声は収まり…体育館は静寂に包まれる。
オレは壇上から周りを見渡す。
数百人の生徒と職員、卒業生の保護者が体育館一杯に座っている。
そこでふと保護者席を見る、とある保護者の姿が目に入った。
そこには、喧嘩別れして約3年会っていないオレの両親の姿があった。
過去に中学時代の格闘技での挫折から、ゲームに逃げそれを理由に父親と喧嘩した。あれから母親には定期的に連絡は取っていたが、実際に顔を見るのは東京に出てからこの3年、一度も無かった。
(親父…白髪増えたな…)
そんな事を思いながら両親を見つめる。流石に3年近くの時が過ぎ、自分が悪かった事は分かっている。
そして過ぎた時の中で、オレの父親への怒りも収まっている。
そんな父親の顔はしかめっ面だが…今、壇上に立つオレの姿をちゃんと見ている。父親と目が合ったが、父親は何も動きを見せない。
(…後で必ず話しに行こう。あの時みたいに殴られるかなあ…ははっ…)
オレは心の中で苦笑しながら、親父から視線を外して心を落ち着かせる。両親の方へ意識が向いたおかげか、先ほどまでの焦りや緊張は無くなっていた。
(喋りたい事、この一ヶ月での変化を喋ろう)
「答辞…」
オレはマイクに向かって、ゆっくりと考えながら……少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
司会を務めている先生の声で卒業生が体育館へ入場する。そして体育館には拍手と足音だけが響く。
そしてオレの入場が近づき、体育館の中に一歩踏み出すと体育館から歓声が挙がる。
体育館からはオレを呼ぶ声が聞こえている気がするが、全く聞こえないフリをした。流石にわきまえているのか近寄ってくる生徒は居なかった。
卒業生が席に着き終わり卒業式が始まる。
…だが卒業式の流れは例年変わらない。
校長先生の挨拶から始まり代表が卒業証書を貰ったり、2年の代表が祝辞を述べたり。
(後は元生徒会長が卒業生挨拶をして終わりかな)
自分の卒業式だというのに特に感動は無く、どこか他人事のようだ。…それだけ高校生活を疎かにしてしまったという事だろうか?
そう考えると少し惜しくも感じる。
(はあ…考えてると自分が嫌になってくる。早く終わらないかな…)
卒業生も1,2年も多くの生徒がそう思っていたことだろう。だがその思いの終わりは突如やってきた。
「卒業生代表の挨拶…上野 樹君。壇上へ」
(ん?)
司会の声が終わると同時に、多くの生徒の歓声が上がった。
(恐らく聞き間違えだろう。オレは挨拶するなんて一言も聞いてないし、そもそもこんな学生生活を謳歌しなかった奴の挨拶を誰が聞きたいんだ?)
オレは周りの様子を伺う…が、多くの生徒の視線がオレを見つめている。
一気に体中から嫌な汗が溢れ出てくる。
オレが硬直して身動きを取れないで居ると、少し強めの口調で司会の先生の声が響く。
「上野 樹君!壇上へ上がりなさい!」
あーうん。どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
諦めて席を立ち、壇上へと向かう。
けれど話す事とかまったく考えていない。焦りと緊張で頭の中はグチャグチャだ。
オレは壇上へ上がる前に職員席へ行き、校長先生へ話し掛ける。
「あの…すいません。挨拶するというのが初耳なんですが……」
「何?間宮大臣から話が通っているはずだが?…本当に聞いていないのか?」
…オレは記憶を辿る。
それはプロテア防衛戦が終わった翌日の出来事。
オレと並木さんは連絡がつかなかったという問題について間宮防衛大臣にクレームを入れるため、間宮防衛大臣とオレ、並木さんの三人で食事をすることになった。
その話し合いでは顔を合わせた瞬間から間宮防衛大臣は平謝りで、土下座する勢い。どうやらこの件で総理からも他の政府関係者からも強く批判を受けたそうだ。
そして結局。防衛大臣のその姿にオレも並木さんも強く言えず、オレと並木さんからの連絡はどんな時でも優先する事を約束させ、クレームは終わりとなった。
(そういえば…あの時最後に間宮防衛大臣が……)
「そうだ、上野君は卒業式だろう?これほど実績が有るんだし、代表の挨拶をしたら良いんじゃないか?私から掛け合ってみよう」
オレはその言葉を冗談だと思い、軽く流したのだが。
(…あの大臣、承諾してないのに実行しやがった!!)
校長先生の焦っている顔を前に今更出来ないと言えない。この人は上から言われた被害者だ。
「何とか挨拶してきます…」
オレは職員席を後にし壇上へ上がる。
そしてオレが壇上に上がると歓声が一層大きくなる。
「静かに!」
司会の声が響くと、歓声は収まり…体育館は静寂に包まれる。
オレは壇上から周りを見渡す。
数百人の生徒と職員、卒業生の保護者が体育館一杯に座っている。
そこでふと保護者席を見る、とある保護者の姿が目に入った。
そこには、喧嘩別れして約3年会っていないオレの両親の姿があった。
過去に中学時代の格闘技での挫折から、ゲームに逃げそれを理由に父親と喧嘩した。あれから母親には定期的に連絡は取っていたが、実際に顔を見るのは東京に出てからこの3年、一度も無かった。
(親父…白髪増えたな…)
そんな事を思いながら両親を見つめる。流石に3年近くの時が過ぎ、自分が悪かった事は分かっている。
そして過ぎた時の中で、オレの父親への怒りも収まっている。
そんな父親の顔はしかめっ面だが…今、壇上に立つオレの姿をちゃんと見ている。父親と目が合ったが、父親は何も動きを見せない。
(…後で必ず話しに行こう。あの時みたいに殴られるかなあ…ははっ…)
オレは心の中で苦笑しながら、親父から視線を外して心を落ち着かせる。両親の方へ意識が向いたおかげか、先ほどまでの焦りや緊張は無くなっていた。
(喋りたい事、この一ヶ月での変化を喋ろう)
「答辞…」
オレはマイクに向かって、ゆっくりと考えながら……少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
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