VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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4.プロテア防衛戦

74.プロテア防衛戦 8 終戦

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 そのスパイクは…前衛と後衛のズレはコンマ1秒も無かった。

 スルーズに矢と弾が迫り、その身体に到達する瞬間。
 前衛組が目の前に現れ、その手に持った各々の武器を振るってくる。

 そのスパイクの精度はスルーズの判断力を超え……前衛、後衛の攻撃どちらもその身体を捉えた。スルーズはその衝撃でよろめき、更に防御スキルの使用を遅らせる。
 前衛組による全力の連撃がスルーズの体力を削り、そこに更にサラとシンディの二撃目が着弾する。

 その直後、前衛組は吹き飛ばされるが十分なダメージを与えれたはずだ。

「くそ…人の分際で……」

 スルーズの身体には明らかに傷が出来ており血が流れている。
 そしてその表情は鬼のような形相で、こちらを睨みつける。

(このチャンスを逃すわけにはいかない…)

「3……2……1……GO」

「この私を!甘く見るなあ!!!」

 GOと同時に瞬間移動をしたオレの目の前には、スルーズの斧が横薙ぎに迫ってきていた。

(くそッ防御を捨てたか!!)

 オレは慌てて身を屈めて斧を回避する。

 …その直後。

「きゃっ!!」

 オレの右側に瞬間移動したリリーが突然現れた斧を回避出来ず、直撃を受けて地面に叩きつけられる。

(まずい!)

 サラとシンディの遠距離攻撃を受けながらも、スルーズの追撃がリリーを襲う。
 オレの足は浮いており残像が発動出来ない。
 斧がリリーに届くと思った、その瞬間。リリーの前に立ち塞がるプレイヤーの影。その影は両手で持った大斧でスルーズの斧を弾き、止めるまでには至らなかったがその勢いを減少させる。
 勢いが落ちた事でギリギリ佐山さんのフォローが間に合い、リリーを抱えて地面に転がる。
 リリーが居た場所にはスルーズの斧が突き刺さり、地面を割る。

 そしてスルーズが斧を抜こうとし、視線をリリー達に向けていてオレを完全に見ていない……完全な隙。

(今なら…!!)

 オレはすぐさま阿修羅を発動する。だがそれに気付いたのかスルーズは、こちらを向こうとする。

 そのスルーズに飛んでくる矢と弾そして二本の斧。その攻撃により、一瞬時間が稼げた。

 阿修羅発動の準備が終わり、オレの右手に力が溜まる。

「いけええええッッ!」

 柄にも無く、叫びながら俺は阿修羅を発動した。

 スルーズがそれに気づき…スキルを発動した瞬間。
 既にオレの右手はスルーズの鳩尾へと届いていた。

 阿修羅の直撃受けたスルーズは、着ていた鎧を大きく砕かれ、その身体をくの字に曲げて大きく吹き飛ばされていく。
 そしてそのまま地面を転がり……数十メートル先で動きを止めた。

 それと同時にオレは襲ってくる脱力感で、その場に片膝をつく。
 …リリーの方を見ると、佐山さんがポーションを飲ませているところで、どうやら戦闘不能にはなっていないようだ。

 そのオレに近づく傭兵姿の大男。

「…ふう。何とか"ラグナロク "の手柄総取りだけは回避出来たようだな」

「……リチャードさん」

 傭兵姿の大男は、アメリカ軍のRDO特殊部隊司令官のリチャードさんだった。

 オレはその姿を確認してから、その場に大の字で寝転がる。

「はは…一番まずい所でのフォロー助かりました。ありがとうございます…でも司令官が前線に来て良いんですか?」

「君達が苦戦しているとシンディから連絡が入ってね。部隊の精鋭数人と直ぐに駆けつけたんだ。戦況は君達のおかげで優勢で安定していたからね。本当にありがとう」

「お礼を言うのはこちらで……」

 オレが再度感謝を伝えようとした所をリチャードさんが手で遮る。

「皆!ここは既に終わった!それぞれ散り他プレイヤーの援軍に向かえ!脅威となった神はもういない!残った天使や巨人を全て掃討せよ!」

「イエッサー!」

 指示を受けた数人が、それぞれの場所へと散っていく。

「私も暴れてくるとしよう。…実は戦いが始まってから、暴れたくてうずうずしていたんだ。という事で、後は私達に任せて上野君達は下がって休んでくれ。最後くらい良いところを見せないと、上に怒られるんでね」

 リチャードさんはそう言って笑い、片手を挙げてからその場から立ち去る。
 その両手と、背中には大きな斧。

(銃では無いけど…どこかラン○ーみたいだ)

 佐山さんに肩を貸してもらいながら、並木さん達へ合流する。
 リリーはポーションで怪我を回復しきれたのか、足取りは軽い。

「リリー、無事で良かったよ」

「あはは…流石に目の前に斧があるとは思わなくって…。心配させてゴメンね」

「佐山さんもフォローありがとうございました」

「仲間なら当然だろう?感謝される事でもないし、巨人の時の借りを返せて嬉しい位だ」

「あははっ佐山さんカッコいいね!」


 リリーが元気な声で佐山さんを褒めると、佐山さんは照れ臭そうに頭を掻いた。
 そんな雰囲気の中、待っていた並木さん達の所へ着く。

「上野君お疲れ様。君の作戦のお陰で防衛戦も無事終わりそうだね」

「いや…急な連携にあそこまで合わせる皆が凄いんですって」

「あら、あれは後衛組のお陰でしょ?ねーシンディちゃん」

「…そうだ。後衛組の腕が良かっただけだ。けど、連携してて気持ち良かったぜ…じゃあな」

 そう言って去っていくシンディ。

「シンディさん助かったよ!今度貸は返すから!」

 オレの言葉に後ろ姿のまま手をひらひらさせるシンディ。実際に彼女が居なければこの作戦は成立しなかっただろう。
 
「はー…私居た意味有ったのかしら…ほんと空気だったわ。自信無くす」

 そう呟くのはプリーストの鈴さん。オレ達が連携をしている中、彼女はひたすら並木さんと後衛組に支援と回復をしていた。

「いやいや…プリーストが後ろにいるってだけで本当に心強いんだって。鈴さん居たからオレ達も悩まず突っ込めたんだし。鈴さんありがとう」

 とオレ。

「そうそう。鈴ちゃん居なかったら僕が守りきれてなかったよ、後衛に寄ってきてた天使の処理もしてたし。本当に助かったよ」

 次に並木さん。

「そ、そう?役に立てたなら良かったわ」

 そういうと鈴さんは明後日の方向を見て地面を蹴る。

「ま、取り敢えずこんな戦場ど真ん中で話すのは止めない?もう戦う気ないなら、プロテアに戻ろうよ」

 リリーのその一言で、オレ達がまだ戦場にいた事を思い出す。

「…そうだった。北門まで歩いて帰ろうか」

 そのままオレ達6人は談笑しながらプロテア北門へと帰っていった。

------

 その後、元気な特殊部隊の精鋭達の活躍により残った天使達は全滅。プロテア防衛線はプレイヤー側の勝利となった。
 参戦したプレイヤーは最終的には約600名を超えたが…不幸にもデスペナルティーを受けたプレイヤーも50名以上居たそうだ。
 勿論その中には高レベルプレイヤーも含まれており、各国政府も運営も対応に追われる事となる。

 そしてプロテア防衛戦は突発イベントという旨が後の告知にて発表され、参加したプレイヤー達には活躍に応じて賞金が与えられた。(…という事に政府と運営がしたようだ)
 一位のプレイヤーには、日本円で2千万。…そしてその映えある一位を獲得したプレイヤーは、何故かオレだった。

 TOP10はオレ、サラ、佐山さん、シンディ、リリー、並木さん、鈴さん、並木さんptの二名、リチャードさんだった。
 順位の名前こそ公表はされなかったが、ネットではほぼ合っているランキング表が出回っていた。ネット民の力は凄い。
 後はフル参戦してプレイヤー達を差し置き、最後しか参加してない筈のリチャードさんがランクインしている事実に、オレ達が驚愕していた位だろうか。

 ラグナロクのメンバー六人は、賞金をギルド内で配布。勿論貢献度で上下は有ったが後方支援組みを含めて全員に分配した。
 正直に言うと二千万は惜しい。でも何故かラグナロクのメンバーで惜しそうにしてたのはオレだけ。もしかして…オレ以外のランカーは金持ちなのだろうか?並木さんはわかるんだけど……何故だ!?

 そしてこの防衛戦の結果を受け、各国の政府は重い腰を上げて支援に踏み切った。
 その結果、全てのプレイヤーへ装備や消耗品が配布される事となり、プレイヤーの平均レベルは大きく底上げされた。

------

 そんなRDO内がまだ落ち着かない状況なのだが、オレは現実世界で大きなイベントを迎えようとしていた。

 …明日は高校の卒業式だ。

 オレはどこまで有名になっているかが実感出来て無いんだけど、鈴さん曰く「まともに歩けなくなるんじゃ無い?」とのこと。
 高校に入って三年間まともに人付き合いしていないオレが…そんな事になって無事でいれるのだろうか?不安でしか無い。
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