VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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4.プロテア防衛戦

72.プロテア防衛戦6

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 二人の様子を伺うと、大きな怪我は無かったが圧縮にずっと抵抗していたからか疲れきっている。

 そして鈴さんのふくらはぎにはかなり深い傷。
 鈴さんは痛みに顔を歪ませている。オレは屈んで怪我の様子を見ながら鈴さんに話し掛ける。

「鈴さん大丈夫?ヒールするMP残ってる?」

「上野君。このゲーム…怪我するとこんなに痛みが有るのね。私のヒールじゃ怪我を回復し切れないから、最低限の処置だけして、プロテアに戻るわ」

「分かった。それと…守れなくてごめんね」

「いや、あれは反応出来なかった私が悪いわ。完全に足を引っ張って、悔しいわ……ごめん。それと…ありがと」

 鈴さんはそう言うと頭をうなだれる。

「上野君、某も鈴に付き添って一度戻る。君は女神の方に向かってくれ。補充を終えたら私達もすぐに向かうよ」

「分かりました」

 鈴さんは怪我を負っているが、佐山さんがついているなら逃げるくらい簡単だろう。

 オレの後ろに居たリリーとサラが、興味深そうに覗き込んでいる。
 そしてサラが突然突拍子も無い事を言い出す。

「彼女は誰かしら?上野君の知り合い?彼女?かわいいわね?」

(はっ!?何を言い出すんだサラは!)

 オレはあまりのに驚愕する。
 鈴さんは俯いているので、表情は伺えない。

「なっ…違うって!佐山 鈴さんはただのクラスメイト。偶然会って、この戦いでパーティーを組む事になった。それだけだって」

「えー?そうなんだ?…だってさリリー」

 サラはニヤニヤしながらリリーに顔を向ける。
 それにリリーは焦った表情をする。

「な、何で私に振るのよ!樹が誰と知り合いだろうがどうでも良いわ!」

(少し言い方にトゲがありますよリリーさん…)

 サラはその様子を見て笑いを堪えている。
 するとリリーが鈴さんに近寄っていく。

「ええと、鈴さん初めまして。私はリリーと言います。もう一人はサラです」

「宜しくね」

 と後ろからサラ。

「樹とはRDO初日からの付き合いで、…ただのギルドメンバーです」

 それに対して鈴さんは顔をあげてリリーに向き合う。
 ……気のせいか鈴さんもリリーも顔が赤いような?大丈夫だろうか。

「…始めまして。私は佐山鈴と言います。上野君が言ってた通りただ偶然会っただけのクラスメイトです。隣にいるのは私の父で佐山二郎と言います。はぁ…二人共見惚れるくらい美人ですね」

 美人と言われリリーが焦るが、サラは満更でも無さそうな反応をする。

 そんなやり取りをしていると、フルングニルが完全に消滅しシステムメッセージが表示される。

-----
ボスモンスター”岩の巨人 フルングニル”を討伐しました。
MVPはサラ=グレース・ヒル。
MVPボーナスとして”フルングニルの岩盾”が与えられます。
ラストアタックボーナスはサラ=グレース・ヒル。
ラストアタックボーナスとして”フルングニルの岩鎧”が与えられます。
またドロップ品は貢献度に応じて配布されます。
-----

 MVPもラストアタックもサラのようだ。まあ今回は当然だろう。
 サラはそれに喜んで飛び跳ねている。

「初MVPだわ!でも…このドロップ重すぎ。捨てていいかなこれ?」

「流石にボスドロップは勿体無いだろ。あの固さだし、防御力は高いんじゃないか?」

「うーん。じゃあ一回戻るしかないか。先にリリーと樹で女神のほうに行ってて。鈴さん達とすぐに追いつくわ」

 サラの言葉にオレとリリーは頷く。

 佐山さん、鈴さん、サラは一度プロテアへ。
 オレとリリーはそのまま女神に直行という形で分かれることになった。

「じゃあ後で」

「「ええ」」

「ああ」

 分かれたオレとリリーは走り、並木さんが交戦しているスルーズの元へと向かう。
 まだ巨人も天使も残ってはいるが、数は大幅に減っていて後るのは3分の1といったところだろうか。他のプレイヤー達やシンディら政府関係プレイヤーが頑張っているようだ。
 スルーズとフルングニルの出現で崩れた前線も、何とか維持するまで持ち直したみたいだ。

 スルーズの周囲ではプレイヤー達が勢い良く吹っ飛んでいるので見つけるのは簡単だった。
 ノックバック効果のある範囲攻撃を持っているようで、景気良くプレイヤー達が飛んでいる。
 オレとリリーは並木さんの近くに駆け寄り状況確認を聞く。

「並木さん向こうは終わりました。オレとリリーが先に加勢します。後三人は補給をしたら駆けつけるそうです」

「上野君助かったよ。あそこの女神さんと僕達では相性が悪くてね……ノックバックのせいで全く近づけないんだよ」

「ノックバックはスキルじゃ?」

「いや、パッシブか支援魔法のようで、近づいただけで吹っ飛ばされる。しかも魔法を撃っても打ち消されるし、それだけで無く向こうから一方的に遠距離からの攻撃されていてね。時間稼ぎで必死に耐えていたんだ」

「遠距離攻撃ですか?」

「ああ、アレだよアレ」

 スルーズのほうを見ると何かを思い切り振りかぶり、投げるような動作。何を投げてくるんだ?
 そう思ってみていると…スルーズは斧をこちらに向かってブン投げてきた。
 投げられた斧は徐々に巨大化し、フルングニルの身長位の大きさに。

「え…ちょっと、やばくない?」

 オレが焦って回避体勢に入ると、並木さんが前に出る。
 
「大丈夫だ。僕に任せてくれ。”ディフェンダー”、”ディボーション”」

 騎士の防御スキルとダメージを肩代わりするスキル。
 ディフェンダーは遠距離攻撃耐性スキルで、ディボーションがダメージの肩代わり。

 飛んでくる回転した巨大な斧を、並木さんはそのまま大盾で受ける。
 暫く盾と斧が擦れる金属音が響くが、並木さんの盾は斧を受けきり斧の勢いを削る。
 斧は勢いが止まると、薄くなって自然と消えていった。
 そして並木さんの前の地面が大きく削れ、斧の威力の高さを物語っている。

「ふー…こうやって耐える事は出来るんだよ。けれど攻めようが無くて、ディボーション範囲外のプレイヤーがどんどん削られていく一方なんだ。でも、モンクなら攻めようが有るよね?」

「残像で近づくことは出来そうですが……攻撃する前にスキルで吹っ飛ばされないですか?」

「どうなるか分からないから、ダメ元で試してみるしかないね」

 やっぱり。

「リリー、一度残像で同時に突っ込んでみよう。でもノックバックの方向を考えて女神の前方に飛んでね。後方で飛ばされると敵の中心に飛ばされちゃうから」

「はーい」

 リリーが返事と共に手をあげる。

 あの女神スルーズは確か戦の名を持つ女神だったはずだ。そんな名前を持った女神の攻撃手段は投げ斧だけとは考えにくい。

 近づいた際の反応がとても恐いが、他の手段も思いつかないし取り敢えずやってみようか。
 オレとリリーは構え、残像の準備を行なう。

「3……2……1……GO」

 オレとリリーの姿が瞬時にスルーズの前方に現れる。
 けれど、スルーズの表情は全く変わらずこちらに目を向けてもいない。
 そして…オレとリリーは攻撃する動作に入る前に、ノックバックスキルにより吹き飛ばされていた。

「あー…こりゃ無理だわ」

 オレは飛ばされながらそう呟く。流石に気付いたら吹っ飛んでるんじゃ手の打ちようがない…。
 女神スルーズの鉄壁さは一筋縄では行かないようだ。
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