VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

文字の大きさ
上 下
69 / 85
4.プロテア防衛戦

65.決闘、佐山 二郎 

しおりを挟む
 何故か佐山親子と決闘をする事になってしまった。
 リチャードさんにいつでも動けるようにしておけ、と言われたばかりなのに。

 けれどオレも佐山親子がどのくらいの強さか、気にならないわけではない。父親の佐山さんも剣道の先生だそうだし、娘の鈴さんは全国上位レベル。
 二人共強いのは間違いないだろう。

 そこに佐山さんから決闘の申し込みのメッセージがとんでくる。

 RDOの決闘システムは、相手からの申し込みを受けた場合のみ成立するシステムだ。
 そして死ぬことは無く、もし致死量のダメージを受けてもHPが1のみ残る仕様。また補足として決闘は複数戦でも個人戦でも可能。

 オレは諦めて佐山さんからの決闘申し込みを許可する。
 すると、10からカウントダウンが始まっていく。

「では行くぞ」

 佐山さんが刀を両手で握り締める。
 確か正眼の構えだったか?両手を腰の辺りまで落とし、そのまま刀の先がオレに向いている状態。

3,2,1・・・0

 カウントダウンが終わり決闘が開始される。
 だが決闘が開始されても、お互いに動くことは無かった。

 オレとしてはカウンターを狙う方が楽だったのだが。そのままお互いに様子を伺い……時間だけが過ぎていく。

 こちらから攻めても良いのだが、無闇に近づいたらすぐに斬られる予感がする。無策で射程に入ったらオレの体が真っ二つになるのは想像に容易い。
 後は刀とナックルでは、圧倒的に射程が負けている。

 だが逆に懐に入り込めればオレの方が小回りが効くため、有利になるだろう。

 正直な所。オレには圧倒的に有利なスキルが有る。
 それは残像だ。

 残像を使えば相手の裏を取り、例え剣術の名人でも距離を詰めて戦うことが出来る。
 確かサムライにも距離を詰めるスキルはあったはずだが、敵前方のみで裏へ回りこむのは不可能だったはずだ。

「佐山さん、後で卑怯とか言わないで下さいね」

「例えどんな手でも対応出来なかった者が悪い」

「では」

 オレは佐山さんに向かって走っていく。
 そして身体が刀の射程に入る寸前に佐山さんの手が動き始め、そのままオレが身構える挙動に入ると、刀の切っ先が動く。

 …刀が動き始めたタイミングで残影を発動。
 その瞬間、オレの姿は佐山さんの後ろにあった。
 だがまるで読んでいたかのように、佐山さんの刀が後ろに居るオレを狙ってくる。

(素晴らしい対応力だ。普通だったらもう避けれないだろう。けど……)

 しかし次の瞬間、オレは元の場所に戻っていた。
 若干賭けだったが、オレは残像を二回使う事で後ろへ回りこんだ後にすぐに前に戻った。
 勿論戻ったのは刀が過ぎた後で、オレの目の前には佐山さんの背後が目の前に。

「む!」
 
 佐山さんも流石に予想外で、対応出来なかったようだ。

 オレは佐山さんの背中をナックルで強打する。
 ただ流石に一撃では終わらせてくれない。
 佐山さんは完全に虚をつかれたにも関わらず、左手でオレの強打を防御した。
 オレの強打の衝撃で、佐山さんが後ろへずり下がる。
 佐山さんは衝撃をもらいながらも刀で反撃してくるが、オレは後ろへ下がって回避。

 オレはそのまま射程外に距離を取り様子を伺う。
 様子を見ると、佐山さんの左手は力なく垂れ下がっている。恐らく折れているのだろう。
 ちなみに、決闘が終われば傷は回復するのでその辺は問題無い。

「参ったな。攻撃を読んだつもりが読まれていた」

「読みが合っていて良かったですよ。でもまさかあの状態で反撃してくるとは思いませんでした」

 お互いが顔を見合わせニヤリと笑う。

 またオレから攻める。今度は素直に佐山さんの背後へと回りこむ。だが今回は予想通りだったようで、オレの目前には刀が迫る。

 オレはナックルでうまく斬撃を受け流し、佐山さんを蹴り飛ばして距離を取ろうとする。

 だがオレの足にはすぐに次の斬撃が迫ってくる。

(…!これはマズいっ!)

 オレはすぐに足を引っ込めて、両手のナックルで刀の刃を受ける。何とか受け流せたが、次は上段から斬りつけられる。
 避けれないと判断し、残像で距離を取る。

(…さっきのはかなり危なかった)

 オレは汗を拭いながら深く息を吐く。
 佐山さんは片手だというのに、刀でオレと変わらない速度で攻撃してくる。もしこれが両手だったらと思うとゾッとする。

「いやー上野君。予想以上だよ。こんなに楽しいのはいつ振りだろうか。本当に楽しくて仕方無い。某も少しスキルを使うけれど、すぐにやられないように」

 佐山さんがニヤリと笑いながら、オレに近づいて来る。

 佐山さんが射程外にも拘らず刀を振ってくる。
 嫌な予感がし、オレはすぐに横に跳び回避。その直後、オレの居た場所に飛ぶ斬撃が通り過ぎていく。

(ま、これはただの牽制で、当たるとは思ってないかな)

 その直後佐山さんの姿が消え、刀の射程内まで距離を詰めていた。

(スキルの瞬間移動か…!)

 オレも使った手だが、相手に使われるとこんなに嫌なものだとは!佐山さんはそのまま刀を横薙ぎに斬りつけて来るが、オレは先程と同じように受け流す…がこれは間違いだった。
 オレは確かに刀を受け流し、やり過ごしたつもりだったのだが…その直後にわき腹が斬られて血が吹き出す。
 これは多重刃というサムライのアクティブスキルで、効果時間内は斬撃が二重になるというもの。
 オレもスキル自体は知っていたが、まさかこのような形で斬撃が来るとは完全に予想外だ。自分の勉強不足が悔しい。

(痛い…がまだ耐えられる!)

 わき腹からは少なくない出血があるが、直接刀で斬られた時よりもダメージが少ないようだ。もっともHPバーは4割程減ってしまい、完全に佐山さんにひっくり返されてしまった。

 そこから先は距離を詰めての近接戦。
 オレの方が手数が多いが、大きなダメージは与えられない。
 一方の佐山さんは多重刃で少しづつオレのHPを削ってくる。
 お互いに相手の攻撃を捌き、受けるダメージを最低限にしているため致命傷には至らない。
 
 そのまま一瞬も気を抜くことができない近接戦は、片方のHPバーが0になるまで続いた。

 そして、オレの目の前には勝利を告げるシステムメッセージが表示されていた。
 …勝因はモンクのダメージを減らすパッシブスキルと、おまけ程度に使っていたリジェネによる耐久力の差。
 サムライは攻撃特化で、防御に関するパッシブは無いはずだ。

 それにも関わらず、オレのHPバーは後1割程度しか残っていなかった。

(…佐山さんは本当に強い。最初で片手にしていなかったら、恐らく相手になって無かったかも)

 決闘が終わると同時に、周りのプレイヤーから拍手が送られた。
 驚いて周囲を見ると、オレと佐山さんの周りには決闘を見ている野次馬の輪が出来ていた。決闘に集中していて気がつかなかった。

「いやー負けてしまった。上野君流石だね」

 そういいながら佐山さんが手を差し出してくる。

「いやいや、最初で片手にしていなければ、オレの負けでしたよ」

 佐山さんから差し出された手をオレは握り返す。

 佐山さんの実力なら、安心して背中を任せられる。オレはそう思った。
 漫画の友情シーンのような一面。男同士で握手を交わしながら笑いあう。そしてオレと佐山さんが握手した事で、周りの野次馬達からもう一度大きな拍手が鳴り響いた。

------

「じゃあ次は私ね!」

 そう言ってオレと佐山さんの間に入ってくる女性。

(はっ!そうだった!鈴さんの事忘れてた)

 佐山さんとの決闘で達成感を感じていたオレに、どうやら干渉に浸っている暇はないようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

処理中です...